《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》25-198.報告

ウオバル、早朝。

虹の広場に朝市が立ち、多くの出店が所狹しとひしめき合い、威勢の良い聲が響く。広場は普段の三倍以上の人で溢れていた。

通りに面した家の玄関には一つ殘らず紋章旗が掲げられ、二階には路をいで反対側の家にロープが張られていた。そこにとりどりの小さな旗がぶら下がっている。五通りはさながら祭りのような活況を呈していた。

「なんか賑やかだな」

「大學の卒學式だよ。前後十日くらいは町中祭りなのさ」

ヒロの疑問にソラリスが何でも無い事のように答える。そんなソラリスの聲はどことなく弾んでいた。意外とお祭り好きなのかもしれない。

お祭りの街は、紫の路ブレウ・ウィアとて例外ではない。その路に店を構えるシャローム商會にヒロ達はった。

◇◇◇

――シャローム商會二階の応接室。

「これが黃金水晶ですか……」

フォーの迷宮から帰還したヒロ達が持ち帰った寶・を前にして、シャロームがぽつりと言った。その口調から落膽していることは明らかだ。一人一人に振る舞われた、砂糖のっていない渋い茶は、同じくらい渋い顔をしたシャロームの顔を映し出していた。

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シャローム対面の革張りのソファには、ヒロとリム、ソラリスが座り、シャロームの右橫のソファにはエルテが座っている。ロンボクとミカキーノは昨日、ギルドへの報告後に再會を約して別れた。

ヒロは、ロンボクとミカキーノの二人には黃金水晶の事は口外しないように約束しているとシャロームに伝えた後、し渋い顔で茶を一口啜った。ふうと一息ついてからシャロームに語り掛ける。

「リムの言うとおりならね。だけど、あの瞬間まで、こいつは黃金に輝いていたことは、皆見ている。それは間違いない」

あの瞬間とは、黃金水晶に封じられていた霊獣アークムが復活した時のことだ。ヒロの言葉にシャローム以外の三人が深く頷く。

「証明するのは難しそうですね。伝説の霊獣とやらをまた呼び出す事が出來れば別なんでしょうけど……」

シャロームが両手の指を組んで自分の膝においた。困った様な顔でエルテを見つめる。

「シャル、それは神リーファでもないと……」

エルテが答える。

そうなのだ。黃金水晶が黃金水晶たる証を示せない限り、誰も認めないだろう。せめて見た目だけでも黃金や水晶だったのであれば、まだ説明の仕様があるのかもしれないが、誰がどう見てもただの巻き貝だ。

寶箱の底に刻まれた古代宮廷文字が語る経緯がその通りだったとしても、リム以外に読めるものがいない現狀では証拠とするには弱い。

ヒロのその思考を補足するかのようにエルテが説明する。

「狀況証拠だけでは、たとえ英明なフォス三世陛下がそれを信じたとしても、王宮の重臣や貴族達を説得できませんわ。彼らが承知しなければ、いかに王といえども認める訳にはいかないでしょうね」

「エルテ、これからどうするんです? 貴方が言ったとおり、これを黃金水晶だと言ったところで、誰も信じない。黃金水晶を獻上出來なければ、貴方の……」

シャロームの言葉をエルテが遮る。

「シャル、これが黃金水晶だと証明する方法が何処かにある筈よ。それにレーベの寶は三つあると言われています。黃金水晶が実在した以上、殘りもきっとありますわ。それを探すことが次の目標に……」

シャロームが気の長い話ですねと言い、更に続けようとしたが、口を噤んだ。エルテの青い瞳がシャロームをまっすぐに見つめていた。シャロームはそこにエルテの強い意志をみたのか、それ以上何も言わなかった。

「そうそう、ヒロ。今回のクエストの報酬ですが……」

「それなら、寶箱から取ってきたよ」

シャロームが話題を変えると、ソラリスが待ってましたとばかりに懐から赤い皮袋を取り出した。ザラザラとテーブルに開ける。アリアドネの種に混ざって金貨が顔を見せた。

「これは……、レーベン金貨ですね。百枚はある」

シャロームが金貨の一枚を摘んで、裏表を確認する。

「換金してくれるかい?」

レーベン金貨は、レーベ王時代の古金貨だ。今の王國では流通していない。ヒロはシャロームに始めて會ったときのことを思い出しながらそう言った。リムが持っていた同じレーベン金貨をシャロームに換金して貰ったのだ。

「この枚數だと、いきなり全部という訳にはいきませんね。でも、出來れば換金しない方がいいと思いますよ」

「どうしてだ?」

「このレーベン金貨を引き取ると、私はこれを売り捌かなければならなくなります。ですが、これは黃金水晶があった寶箱の中にっていたのでしょう? 黃金水晶がそうである証明の一つに使えるかもしれない。それがはっきりするまでは、このままにしておくことをお勧めしますよ」

シャロームは肩を竦めてみせた。商売人だからといって、何でもかんでも引き取る訳じゃない。これはシャロームなりの矜持だろうか、それともエルテに対する好意なのだろうか。

「一理あるな。ならば、これを預かってくれないか。預け賃が居るなら……」

「保管料は結構ですよ。今回のクエスト報酬の一部ということにさせてください」

「?」

「実のところ、今回のクエスト報酬の支払いに困っていたのですよ。前にも言ったかと思いますが、黃金水晶以外に売れそうなお寶があると思っていたんですよ。勿論、お寶そのものは見つけた冒険者のですが、大抵はパーティの仲間と山分けするために換金するのが殆どです。そのお寶を転売して、報酬に充てようと思っていたんです」

シャロームはテーブルのカップを取り、茶を飲んでから続けた。

「でも、黃金水晶は覧の通りで、他のお寶はレーベン金貨だけ。金貨が売れないのは先程言ったとおりです。仮に金貨以外に寶があったとしても、同じ理由で売りにくい。要するに報酬のアテが無くなったのですよ」

「君程の商人がクエスト報酬を払えない程、金がないとは思えないがな」

「いえいえ、火の車でして」

シャロームが謙遜してみせているだけのようにヒロには思えたのだが、青年商人の目は真剣だった。

「お金はかしていないとね……それはまあいいでしょう。ヒロ、単に迷宮探索だけならまだ用意できたのですが、小悪鬼騎士ゴブリンロードを討伐したのでしょう? それの工面が直ぐには難しいのですよ」

「小悪鬼騎士ゴブリンロード討伐のクエストはギルドには出ていなかった。別になくても問題ないんじゃないのか?」

「建前では、ですね」

シャロームは組んだ指を膝の上で軽く上下させる。

「たとえギルドからの正式なクエストが出ていなくても、それなりの働きにはそれなりの報酬を用意するのが慣例でしてね。そうしないと、契約した容以外は誰も何もしなくなります。無論、契約上はそれで何も問題ないのですが、それだと大きなチャンスを逃してしまうこともある。ヒロ、貴方が小悪鬼騎士ゴブリンロードを倒さなかったら、今でもフォーの迷宮は、未攻略迷宮のまま、取り殘されていたでしょうね」

――そんなものなのか……。

ヒロは俄には理解できなかったが、ここは反論せずに素直に従ってよい場面だ。なにせ予定外の報酬をくれるというのだ。ならば、とヒロは口を開いた。

「そうか。それならば、有り難く戴くことにするよ。こちらも無傷という訳でもないし、裝備の手れも必要だろうからね。で、どうするんだ?」

ヒロはもっともらしいことをいって、シャロームの反応をみることにした。直ぐに全額は無理だから、分割ではどうか、と提案してくるのではないかと予想した。こちらの世界に利・息・という概念があるかどうか分からなかったが、別になければ多をつけて貰えばいいだけの事だ。だが、シャロームの提案はヒロの予想を裏切るものだった。

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