どこまでも続く暗闇……

これが死後の世界か……そう思えるような、寒くて何も見えない空間にいつの間にか俺はいた。

……いた、という表現が合っているのかわからない。というのも止まっているのか、進んでいるのか全くわからず、をかしているつもりだが、覚としていているような気はしない。

結局、何もすることができずにじっとしていると、しばらくして遠くにほんのりとが見えた。それはどんどん近づいてきて俺を包みこ――

◆　◇　◆

「おめでとうございます！　元気な男の子ですよ！」

「ふぎゃあ！　ふぎゃあ！（な、なんだ！？）」

次に意識を取り戻した俺の目の前に、栗の髪をしたがにこやかに笑っている場面に出くわした。慌ててを起こそうとするも力がらない。

「ふあ……ふあ……」

「お、おお……！　自分からこうとしている……なんて元気な子なんだ！　立派な子を産んでくれたなマリアンナ！」

「うふふ、だってあなたと私の子供ですもの！　ほら、デライドあなたの弟よ」

「おとーと？　おとーと！」

「はっはっは！　男の子ふたりとは將來が楽しみだな！」

「あぶー」

イケメンの男と、男に抱っこされた男の子が俺の頭を優しくでてくる。知らない人のはずなのになんだか安心するな……。そう思うと、目覚めたばかりなのにうとうとしてくる。

「あ、おねむですね。さ、赤ちゃんはデリケートですから、また後で會いに來てください！」

「わかった。マリアンヌ、また後でね」

「ええ。デライドをよろしくね」

そんな會話を聞きながら俺は眠りについた。

――で、それから二日ほど経ち、ようやく冷靜に今の狀況を考えることができるようになる。

昨日？　……昨日は、まあ大変だったとだけ言っておくよ……

「ラース君、泣かないですね」

「うーん、産まれたばかりであまり泣かないと心配ねえ」

さて、目の前の栗の髪をした看護師が『ラース』と呼んだのは他ならぬ俺のこと。まさかそんな、とは思ったが昨日一日過ごした結果、俺は誰かの子供として生まれたらしい。

もうひとり、ベッドの上の俺を覗き込んでいる金髪のが俺の母親で、一昨日見たイケメンが父親らしかった。

「あうー。ばぶう」

「あ、笑ってますね！　うふふ、可いー」

「よいしょ……ふふ、軽いわね」

ばぶう、というのは俺が赤ちゃんだから仕方ないので見逃してしい。なにせ生後三日なので喋ることはおろかき一つできやしない。

「んー♪　髪は私で顔はパパにそっくりねー」

母親に抱っこされ、そのにこにこ顔を真正面に見據える。母親は超が付くレベルの人で、本當に俺が生まれて嬉しかったんだろうという笑顔で頬や額にキスをしてくる始末。

不思議なことと言えば、この人に対しみたいなものが沸かないのだ。それは俺が赤ん坊だからなのか、母親だからかなのかはわからない。

「あう（……あの両親とは大違いだな……）」

前世の両親は出來の悪い俺を空気……いや、悪意をもって接してくるような奴らだった。そのくせ、俺の給料が無ければロクに生活もできやしない文字通りロクデナシだった。

そしてもう一人の親である弟は、勉強はもちろん絵や文才など數々の才能に溢れていた。基本的になにをやっても標準以上という結果が付いてくる、生まれついての天才というやつだ。

……小さい頃は仲が良かったのだけど、才能があるからと弟をちやほやしすぎた両親のせいで格が歪んでしまい、他人を見下すようになってしまった。それが顕著になったのは中學生くらいのころだったか。

「あぶー（俺にも弟と対等の才能があれば……いや、今更だな……）」

俺は何をやってもそつなくこなすことができた半面、その分野で一番にはなれない、いわゆる凡人というやつだった。

何か一つでも認められたい、褒められたいと何でもやった。スポーツや勉強はもちろん、バイトもピザにパン屋、ゲーセン、新聞配達、喫茶店、居酒屋、アニメショップに書店etc……こんなじで、高校と大學時代に々な職業をやった。ゲームでさえ、弟に勝つため真剣に。

――だけど結局、両親や弟を見返すことはできなかった。

「ラース♪　んー可い！」

「あうー」

「早くお父さんとお兄ちゃんのいる家へ帰ろうね」

ぎゅっと抱きしめてくれる母に安心を覚える俺。そういえば兄が居たなと思い出す。歳は三歳くらいだったと思う。前世では俺が兄だったが、今世では弟とは因果だな、と思いながら不安も覚えていた。

……兄に才能があれば、俺はまた捨てられるのだろうか……

そんなことを考えながら、抱っこされてゆらゆら揺れているとまた眠気が襲ってくる。

――とりあえずこの數日は父親と兄が毎日會いに來てくれ、母親もおを飲ませてくれながら話しかけてくる。いつもにこにこしているこの一家が本當に幸せなのだとじ、殺伐とした前世を過ごした俺としては赤ん坊のながらも嬉しかった。

……前世……そう、もうあれは過去のこと、前世といって差し支えないと思う。

さらに一週間くらい経ちいよいよ退院となった。俺は布にくるまれて父親に抱っこされ病院を後にする。銀髪の父は力強く、とても頼もしく見えてかっこいい。

「あーぶー（どんな家だろう、楽しみだな）」

「らーす、僕も抱っこしたい！」

「あらあら、デライドったらお兄ちゃんしようとしているわね。ダメよ、まだデライドには早いわ。もうし大きくなってからね？」

「ぶー」

どうやら兄は俺をなでなでしたいらしい。ベッドの上でない髪のが無くなるんじゃないかというくらいでられていたから今日くらいは勘弁してほしい。でも、悪い気は全然しなかったけどね。

すると父親が俺の顔を見ながらにこりとし、聲をあげる。

「さ、ラース、家に著いたぞ！　今日からは毎日一緒だ！」

「きゃっきゃ（え……？）」

父親が指さした先、眼前に見えたのは柵に囲まれた一軒家だった。だけど俺は困する。

「あぶー……（ぼろい……）」

そう、ぼろいのだ。マンガやアニメのように窓が割れていたり、壁にが開いていたり、草がぼうぼうだったり……はしないのだけど、なんというか全的に古臭い。この幸せな両親からはとても想像できないような。

だけどそれにはがあって――