《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第五十話 ラースの思と周囲の狀況

<病院>

――レッツェルが自室で、ここ最近のことを思い返していた。グラスを片手に、半分の形をした月を見ながら椅子を揺らしひとりごちる。

「あれから十年も経ちますか。時が経つのは早いものです。しかしあの親子、特にリューゼは無駄な正義があって困りますねえ。ブラオも気が利かない男だしそろそろこの町ともおさらばしますか。助かると思っていた命が助からない……絶のデスマスクは何にも代えがたいものですが、ここでやらなければならないものではありませんしね」

レッツェルはこの町で『助けなかった命』を思い返してクックと笑う。邪悪、そう言って差し支えない笑顔を浮かべて。

「……さて、今年の収穫祭は國王がいらっしゃるみたいですし、趣向を凝らしてみますか。あは、あははははははははははははははははははははははは!」

◆ ◇ ◆

「おはよん♪」

「ふあ……おはようヘレナ……」

「おはよー」

「もう起きているから大丈夫だよノーラ」

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「んー、ラース君、今朝ふらふらだったからダメ―」

「ノーラちゃん羨ましい……」

毒薬を手にれた俺は興冷めやらぬ狀態となり眠れなかった。登校中、何故か兄さんとノーラに両脇を抱えられて連れていかれたのが解せない。

「おはようルシエール」

「おはよう、ラース君。昨日、病院の屋にいたけど何してたの?」

「ぶー!?」

「汚いよーラース君。はい、ハンカチ」

見られていた? というかなんで病院の近くにルシエールが? ノーラにハンカチをもらって噴いた唾を拭きながら俺はルシエールに小聲で尋ねる。

「(どこにいたんだい? 悪いけど昨日のことは緒でお願い!)」

「(う、うん、別にいいよ? でもお姉ちゃんが……)」

「(緒にしてしかったら私の言うことを一つ聞いてもらうわ)」

「うわ!? どっから出て來たんだよ!?」

いつの間にか會話にってきていたルシエラにびっくりしてガタガタと席を揺らす。すると何故かドヤ顔で俺に指を突きつけて言う。

「ラース、あんたルシエールとデートしなさい!」

「お姉ちゃん!?」

「何言ってるんだよ……あ、ほら先生が來たよ」

「ん? ルシエラじゃないか、お前進級したんだからここじゃないだろ? ほら、出ていけー」

「くっ……い、いいわね! ラース覚えておきなさいよ!」

何故か負け犬の捨て臺詞みたいな言葉を殘し、ルシエラがティグレ先生に首っこを摑まれ、そのままクラスの外へ捨てられていた。

「ごめんね、お姉ちゃんが……(デ、デートとかしなくても言ったりしないからね)」

「ありがとう」

とは言うものの、ルシエールとお近づきになるチャンスではあるのでいいきっかけにはなりそうだ。クーデリカとマキナとはよくギルド行ったりするんだけど、小さいころを知っているルシエールとはあまり話せていない。

「デートするんだー?」

「うお!? ……ノーラ、急に聲をかけるのはやめてよ……」

興味があるのかノーラが珍しく真顔で俺に聞いてくる。兄さんとデートしているノーラにの子が喜ぶのはどんなことか聞くのもありかも? そんなことを考えていると先生が手を叩いてクラスを靜かにさせてから口を開く。

「よし、靜かになったな。では話を続けるぞ。來月はみんなが待ちに待った収穫祭だが、今年はし違うからそこの注意點を話すぞ」

お、もうそんな時期か。あの年以降は父さんたちが連れて行ってくれるようになったから俺も人並みに楽しみなイベントの一つである。今年はなにが違うのかな?

「今年は國王様がいらっしゃる年でな、國王様が視察される。町民は近づけないから兵士とトラブルを起こしたりしないようにな」

「國王様が來るんですか……?」

「そうだラース。お前たちなら大丈夫だとは思うが、相のないようにな? ま、今言った通り近づくのは無理だから問題ないはずだけど」

そう言って笑うティグレ先生。まあ、國王様に無禮を働いて処罰をけたら父さんたちがショック死しそうなので迂闊に近寄らないのが一番だろうね。

「國王様だってよ。領主にも挨拶とかあるんじゃね?」

「……あぁ、そうだよ。國王様はウチに一泊するようになってるみたいだぜ」

「おおおお、すげぇな!?」

ジャックがひそひそとリューゼに話しているが、會話は聞こえていた。國王様が領主邸に來るのか、まあその辺の宿屋に泊める訳はないよね。そこでふと、俺の脳裏にあることが浮かぶ。

「……ん? なら俺が考えている計畫と組み合わせられるかも?」

となると、収穫祭までに準備を急いで進めないといけないね。デートどころじゃないなと、俺はニーナに話をする決意をする。計畫にニーナの証言は絶対に必要だからだ。

俺はリューゼの背中を見ながら、決著は近いのかもしれないと思っていた。

◆ ◇ ◆

「現領主かい? うーん、可もなく不可もなくだよねえ。まあ稅が前より厳しくなった割に町は発展していない気がするから微妙だと思うよ」

「ローエンさんの方が良かったな俺は。ブラオはよく領主に立候補したと思うよ? それに元雇い主であるローエンさんを貧乏人だなんてよく言えたもんだ。次に領主選があったら選ばないだろうね」

「顔を見せないから良く分からんよ。こそこそしていて気味が悪い。よく病院に行っているけどが悪いなら早いところ引退してほしいね」

「病院の先生? あの人はいい人だよ、毎回ワシのつまらない話を嫌な顔一つせず聞いてくれる!」

「レッツェルさんはウチのばあちゃんが死んだとき、一緒に泣いてくれたんだ」

「ありがとうございます」

と、學院の先生が町の人に話を聞いて回っていた。リューゼから聞いた話をティグレは各先生に協力を仰ぎ、次のステップとして町人に調査を依頼していた。

放課後、職員室で集まっていた先生方がお互いの報を換していると、違和を覚えて首を傾げる。

「……ブラオの評判は見た目通り。でもレッツェルはリューゼ君が言うような悪辣な部分は無し、か」

「話を聞いていなければ、聖人のような男だな……」

「ともあれ急ごう、収穫祭まで時間がない」

一人の先生がそう言うと全員で頷く。そこで學院長のリブレが靜かに口を開く。

「あまり深りはできないので注意をしてください。ブラオかレッツェルの息がかかった者を探すだけでも十分だしね。ティグレ先生、リューゼ君とラース君の様子は?」

「今のところは特に。しかしリューゼの様子がしおかしいので話を聞いてみようと思っています」

「そうか。子供たちを巻き込むのは辛い。無茶をしないよう見ていてくれ」

「ええ、分かっています。ラースにも話を聞かなければと思っているのですが、最近すぐクラスから消えていることが多く困っています。近日中にはなんとか」

リブレは頷き解散の指示を出し散っていく。

「結局、これを暴したところで不幸な生徒と復讐を為す生徒ができるだけ、か。両方を救うことはできないものか……」

誰も居なくなった會議室で一人ぼやくリブレであった。

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