《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第五十一話 収穫祭・前日
ブラオとレッツェルを追い込み、とどめを刺す材料が揃いつつある。
俺は十歳の時點でここまで持っていけたことに奇跡をじつつ、それでもできることはなんでもやると、打ち続ける手を緩めずに次の一手へと移る。
「ヨグス、君の【鑑定】ってどこまで見れるんだい?」
「ん? ラースから話しかけてくるとは珍しいな。なにか鑑定してしいものでもあるのかい?」
「そうだね……例えば名稱はもちろん、製造者とか見れたりするのかな? それと俺を【鑑定】ってできるの?」
もちろんこれは例の毒薬に対して行いたいことだ。だけどヨグスに鑑定してもらうわけにはいかないので、どの程度スキルで確認ができるのかを知っておきたいだけである。すると珍しくヨグスは口元に笑みを浮かべて本を閉じ俺の方へ向き直る。
「仕方ないな、クラスメイトの頼みなら教えてあげるよ。……といっても僕の【鑑定】はまだまだなんだけどね。簡単に言うと【鑑定】にはGからAというクラスがあって、高くなれば見る項目が増える仕組みなんだ。もちろん度を上げるために訓練が必要になるけど、ラースが言ったように製造者も見れるようになる。僕はなんとかFランクは抜けたんだけど、製造者を見るには最低でもDランクは必要だから、申し訳ないけどラースの期待には応えられないんだ。それでも僕は學者として必ずAを目指す。その時は存分に頼ってほしい! で、ラース自を『視る』ことはそれこそAランクは無いと無理だね。弱點や好き嫌い、スキルから癖までばっちりらしいんだ」
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おお……普段無口なヨグスがめちゃくちゃ喋る……。あれかな、【鑑定】はありふれているスキルとかそういうので、あまり構ってもらえないタイプなのかもしれない。でも個人を視るのはやっぱり高難易度なんだなと思っていると、ヨグスが息を整えて元に戻る。
「……って言っても図書館とかで調べられるくらいの知識なんだけど。ラースは【鑑定】に興味があるのかい?」
「まあね。できれば製造者を見れるDランクの人がいればなあと思っているんだ」
「ん? ラースはギルドに足を運んでいるのだろう? そこにギブソンさんと言う人がいるはずだ、その人に頼んでみたらどうだい?」
「え!? あの人そうなんだ!?」
「ああ。ギルドだと【鑑定】をメインとするスキルは要職で、必ずひとりは働いているものみたいだ。行ってみるといいんじゃないかな?」
「サンキュー、助かるよ」
意外なところに味方がいたものだと俺は喜ぶ。【鑑定】は割と多くの人が授かるみたいだけど、替えが利かないスキルなので持っているだけで安泰なところがあるみたいだ。
そんなじで俺は放課後にギブソンさんのところへ行き、ハウゼンさんと共に事を話すことにした。収穫祭で騒を起こすことはすでに決めている。俺が止められる可能はあるが、父さんを慕っているハウゼンさんなら理解してくれるだろうという打算もあった。
「……それがその毒薬か。なるほど、ブラオならできるだろうとは思っていたが、醫者もグルだったとはな。評判のいい醫者だから疑う余地もないってか? ギブソン」
「わかっています【本質の瞳】」
「あ……!」
珍しく険しい顔をしたギブソンさんがスキルを呟き、瓶に魔力を通す。ほのかにる瓶を見て俺は嘆の聲をあげた。そして――
「……ん?」
ギブソンさんの魔力を見ていると報が頭にってくる。
【鑑定結果】
強毒瓶
作者:ブラオ=グート
主な毒:コルヒチン(アルカロイド)
植の葉から生された毒薬
「え……!?」
「どうしたラース?」
「い、いえ……」
俺が困しているとギブソンさんが口を開く。その結果は俺が今『視た』ものと同じだった。
「どうやら間違いないみたいですね。これはブラオさんと醫者を問い詰める必要が出てきましたか」
「そうだな……ラース、お手柄だ。これでブラオを追い落とすことができるぞ! ローエンさんはこのことを?」
「父さんには言っていません。確証を得るまで心配させたくありませんでしたし」
「むう……子供が考えることか? まあいい、すぐにでも――」
「待ってください! 父さんにはことが済んでから教えてあげたいんです。それにもうすぐ収穫祭だし、それが中止になるとみんながっかりしますよ?」
俺の手で決著をつけたいという我儘を通すため、俺はそれらしいことを告げる。
「……わかった。だけどラース、お前はもう何もしないでいい。後は大人が何とかする問題だ」
「よろしくお願いします」
俺はそう言ってぺこりと頭を下げてギルドを後にする。毒瓶は中を半分ずつにし、証拠をふたつに分けて持つことにした。ギルドでブラオ派閥が居ないとも限らないしね。
――後はハウゼンさんが収穫祭前に行を起こすかどうかが賭けになってしまったけど毒薬を鑑定することは絶対に必要だった。
「こんなに早くことが進むとは思っていなかったから決戦までにお金は貯まらないのが殘念だけど、他の人が領主になった後、次の選挙までに稼げばいいか。次は――」
俺は思い直し、ニーナへ話をするため家路につこうと足を運ぶ。そこで――
「ラース!」
「リューゼ?」
丘に差し掛かる前の道で、俺はリューゼに引き留められた――
◆ ◇ ◆
夕食が終わった後、俺はひとりで父さんの野菜園に來ていた。まあ、家からそれほど離れてないんだけどね。
「……明日はいよいよ収穫祭。レッツェルは俺達が証拠を握っていることに気づいていないからってハウゼンさんが収穫祭後に告発すると言ってくれて助かったな」
明日に控えた収穫祭を前に、俺はこの一か月あまりを振り返る。味方は多くないけど、それなりにいるし、準備は整った。
「明日の夜、國王様が領主邸にれば俺が踏み込む。証拠を持って國王様に直接告発するのは俺である必要がある」
きっとこれはハウゼンさんでも、學院長でも、リューゼでも構わないだろう。両親から言うのが筋なのかもしれない。
だけどこれをすることで恨みを買うことは多分にある。それをけるのは俺一人でいいし、これは俺の戦いだ。國王様に相をしたということでもしかしたら処罰される可能だってある。
「すべては明日決まる」
ガサッ……
「……誰!」
「わたしよ、ラース君」
草を踏む音がし振り返ると、そこにはベルナ先生が立っていた。ウチの『観察』で、侵者と監視者を排除してくれていた俺の先生。ブラオに何度も報告が上がっていたようだけど、いつしかここには誰も來なくなっていた。
「ありがとうベルナ先生」
「お禮を言うにはまだ早いわ? それをわたしに言うため、必ず戻ってきてね」
この人のおかげで俺はこの騒を起こせる力を得た。そんな先生がそう言うなら、俺はこう返すしかない。
「もちろん努力はしますよ? なんせ俺のスキルは【用貧乏】なんですから」
俺の言葉にベルナ先生は一瞬キョトンとした顔を見せた後、目を細めて微笑んだ。
そして、再び運命の収穫祭が始まる――
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