《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第百四話 撃沈
俺から仕掛けるため駆け出す。先手必勝と、大人との格差があるため打ち合いには向かないという判斷からだ。
それに相手はティグレ先生。【戦鬼】と呼ばれ、【武種別無視】という近接戦闘のエキスパートで、恐らく英雄になれたであろう人。俺がどのくらい戦えるのか試したかった。
「はあ! ……ぐえ!?」
「 ラース君!?」
斬りかかったはずなのにお腹に痛みをけて俺はく。マキナの聲が聞こえ、続けてティグレ先生が口を開く。
「ダメだ、それじゃ遅ぇ。切り返すのをもっと速くしないと今みたいに引き際をやられる。こっちから行くぞ」
「……う、うわ!?」
片手にしか武を持っていないのに右と左から斬撃が飛んでくる。片方を防いでも、逆側からすぐに斬撃が飛んでくるのだ。
打ち合いは不利。だけど、向こうから寄ってくるならと俺は先生の剣をけた後、二発目が來る前に剣をらせれば當てられるんじゃないかと考えた。勢いがついているからこれはいけると俺は思い笑みが出る。
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「悪くない案だが、斬撃を出さなかったらいいだけだからな?」
「あ!?」
剣と剣が錯した後、俺の意図が読めたのだろう。すいっとを逸らし俺の剣を回避した。勢いで流れてしまった背中に剣を打ち下ろされ俺はせき込む。
たたらを踏んだ俺が振り返ると、先生は容赦なく頭めがけて振り下ろしてくる。
咄嗟に防したけど、剣が當たった音がした時にはすでにに痛みを覚えていた。
「げほ……つ、強い……!」
分かってはいたけど、しくらいはなんとかなるんじゃないかと思っていただけにけない。【超用貧乏】で力や力の底上げはやっているのだから。
そう思うとレッツェルが勝てないまでも先生ふたりとまともにやり合っていたのは敵ながら凄かったというわけだ。
「まあ、全力を出すとは言っても剣一本じゃこんなもんだ。蹴りを使ったり両手に武を持ってたらもっと酷いことになるぜ?」
その言葉に剣しか攻撃をけていないことに気づく。
俺に合わせての全力ということだろうか? 確かに全武みたいな先生がサージュの時のように両手に武を持っていたら俺は何もできないだろうとゾッとする。だけど、やると言った以上最後までやる!
「小さいを活かせば……!」
ティグレ先生を出し抜くにはなりふり構えないと思い、蹴りを使わないというのであればと俺はをかがめて突撃する。
「おおおおお!」
「その低さなら振りかぶっても威力は低い。……と思うだろうが、俺を他のやつと同じと思ったらダメだぞ……!」
ティグレ先生が腰をかがめて俺と同じ高さで待ちける形になり、にやりと笑う。でもその勢から強力な一撃は放てないはず。
俺の攻撃が屆く前にティグレ先生の剣が右から來る。やはり威力が削がれているので、楽にそれを打ち払う。そしてすぐに左から來る剣を俺は――
「あ、あいつ!?」
ゴキュっという嫌な音とリューゼの聲が耳にる。そう、俺は左腕で剣をガードしたのだ。これなら剣で打ち合う必要もないから右手の剣はそのまま攻撃に移れる!
「痛ぅ……!?」
そして、先生の元に一撃が決まり、退けることができた。
「やった……!」
「チッ、やるじゃねぇか! でも、そんなにバランスを崩したらとどめを刺せなかった時に困るぞ」
俺の一撃を食らいつつも、すぐに勢を整えて踏み込んでくる。変な打ち込みをしたのでが流れ、ティグレ先生のきがスローモーションがかかったように映る。
先生の剣が俺の頭めがけて振り下ろされるというビジョンを最後に、俺の意識はぷっつりと途切れた。
◆ ◇ ◆
「うわ、やべぇ!? おい、しっかりしろラース!」
「ありゃしばらくけねぇな……って、おいウルカ手伝え! ラースの左腕、腫れてねぇか!」
「う、うん!」
ティグレが日に移し、リューゼとウルカが裝備を外していく。すると、ラースの左腕は打ちどころが悪かったのか、自分から剣に向かって突き出したせいなのか、見事に腫れ上がり赤紫に変していた。
それを見たマキナが青ざめて冒険者たちに言う。
「誰か回復魔法を使える方はいませんか!?」
するとハウゼンがすまなさそうに口を開く。
「すまねえマキナちゃん。今日は出払っていて魔法使いがいないんだ」
「そ、そうですか……」
殘念がるマキナをよそに、ルシエールが常備している傷薬を塗り、クーデリカが冷えたタオルを持って患部を冷やす。そして――
「わ、わたしが膝枕をするから!」
「え!? ……そ、それは私がやるわ。クーは練習もあるでしょ?」
「それだとマキナちゃんも同じじゃないかな? 私が見ているから行ってきなよ」
「「「むむむ……」」」
膝枕爭奪戦が行われていた。
「あーあ、ラースのやつ羨ましいな」
「でも、リューゼ君っていつもそう言う割にはの子に聲をかけないよね」
「ウチのクラスの子はダメだ。もう芽がねぇ……って何言わせるんだよ。ラースがすげぇから惚れられるのも仕方ねぇって話だよ。父上の時、あいつの努力は半端じゃなかったと俺は思ってるし、いつか近づきたいとも思ってるぜ?」
「考えているんだね。僕もラースには助けられてるかな、自信を持てるようになったしね」
ラースは友達だけど目指すべき相手という話をしてウルカが微笑むと、不意にリューゼが言う。
「お前は好きなやついねぇの?」
「へ!? ええ!? あ、僕は……その」
と、ウルカが目を泳がせた。
「なるほど、マキナか……」
「ええ!? な、なんで!?」
「いや、目がそっちによく行くし」
ウルカは意外と目ざといと思いながらため息を吐き、絶対言わないでよと口を尖らせていた。すると、狀況を見ていたマッシュがティグレに向かって口を開く。
「いやあ弱い子の相手も大変ですね? 【用貧乏】だなんて、ハズレもいいところ。何でもできるけど、中途半端なんだから、大人しくするべきだと思いますねオレは」
「どういうこった?」
「そのままの意味ですよ? 先生だってそれほど強くないでしょ? オレも學院の出なんですけど、その時先生をコテンパンにしちゃいましてね! まあ、戦闘技能が凄い先生もいますけど、冒険者に比べたら実戦もあまりしていないだろうし、そんなに強くないでしょう? 子供相手に本気になるわけにいきませんしねえ」
「てめぇ……!」
と、ペラペラと喋るマッシュ。
あまりの言い草に、リューゼが何かいおうとしたが、それをティグレが制し、目つきが悪いまま、口を歪ませて笑う。
「……まあまあ、先生なんてのは強けりゃいいってもんじゃねえんだわ。お前の先生も自信をつけさせたくてやったのかもしれねぇぞ?」
「まさか。あれは本気でしたよ? でもオレの【裂空】の前じゃ近づけもしませんでしたけどね」
「おい、マッシュお前いい加減にせんか!」
「事実を述べているだけじゃないですか、何がいけないんです?」
そう聞いて、遠距離攻撃ができるスキルかと即座に反応する【戦鬼】ティグレ。どんなスキルでも興味はないが、ラースと過去の先生を馬鹿にし、天狗になっているこの男は腹が立つなと思っていた。
「なあ、マッシュとか言ったか? どうやら自信があるみたいだが、一つ俺と戦っちゃくれねぇか?」
「はあ? どうしてオレが。……まあ、いいですけど」
鼻で笑うマッシュに、冒険者が顔を青くしてマッシュの肩に手を乗せる。
「おいマッシュ、久々に帰ってきたんだからやめとけって。ケガしたくないだろ? お前はまだ若いから知らないだろうがあの人は――」
警告を始めた男に、ティグレは聲をかける。
「いいって、兄ちゃん。そいつがいいならやらせてくれよ、な?」
「ええー……」
「ふん、ケガの心配はあの目つきの悪い先生にするべきだと思うけどね」
そう言って構え、さらに不敵に笑って続けるマッシュ。
「オレの【裂空】はオークならまとめて八匹、トロールでも四匹やれるんだ。トロールはもう三十匹は退治しているんだぜ。スキルは使っていいんだよな?」
「ああ、スキルでもなんでも構わないぜ。というか、まあまあやれるんだな」
トロールと言えば、巨と怪力で暴れまわる二足歩行の魔でも中位に位置する魔で、群れられると力で押し切られてしまうことも多い。基本的に魔法からの遠距離攻撃が有効なので、マッシュのスキルはかなり有効なのだとティグレは思う。
しかし――
「くっく……」
「なにがおかしい!」
「いや、まあ、トロール三十匹で自慢しているのがかわいいもんだと思ってな。若いなと……おめぇ十八くらいか?」
「……そうだ。そこまで言うならあんたはトロール三十匹に匹敵するようななにかを退治したことがあるんだろうな?」
「そうだな……」
ティグレはしだけ目を瞑り、剣を半で構えて口を開く。
「一回の戦爭で人間を倒した數はおよそ五千だ。……行くぞ」
「は?」
マッシュが口を開けた時にはもう、決著がついていた――
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