《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第百五十四話 ドタバタ出発
――休日前の夜。
家の庭に俺と兄さん、そしてノーラがサージュを前にし、差し込む月明りをけながら話をする。
「準備はいいかな?」
「オラは大丈夫だよー!」
「俺も問題ないよ。お金、俺が持ってていいの?」
「ラースなら”オートプロテクションもあるし、カバンもいいやつだからそっちの方がいいよ。それに総額はラースが一番多いだろ?」
「まあそうだけどね。後はティグレ先生が來れば出発しよう」
「すまないな、みんな」
「それは先生に言ってあげてよ」
二日ある休みを使って俺達はオーファ國へ行く。もちろん鍛冶屋さんに會いに行くためだ。父さんは用事で來れないため、頼み込んでティグレ先生についてきてもらうことにした。
正直、ベルナ先生と娘の時間を奪って申し訳ない気持ちでいっぱいになるけど、子供だけで行くのはとその先生に止められたからだ。
<では大きくなるぞ>
「うん。よろしく」
サージュが久しぶりに大きくなり、その迫力にしばかり興する。やっぱり大きいサージュはカッコいいなあ。
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「わーい、大きいサージュだー!」
<はっはっは、こうなるとお前達もアイナと変わらんくらいだ。ん? 誰か來たみたいだぞ?>
「先生かな?」
父さんと一緒に振り返ると、そこに立っていたのはなんとルシエラだった。こっそりと庭にってきたのか、長い髪に服や頭に葉っぱがついていた。
「こんばんはー……」
「ルシエラ!? どうしたのさこんな時間に」
「えっと……今日鍛冶屋さんに行くって聞いたから、私も連れて行ってもらおうかと……お、お父さんには許可を取っているから大丈夫よ!」
「本當に……?」
「はい、ローエンさんに渡してって言われたわ」
「どれ……?」
俺が訝しんでルシエラを見ると、ルシエラが手紙を父さんに手渡す。それを読みきって父さんが口を開いた。
「……なるほど、字はソリオのものだから問題ないかな。ルシエラちゃん、興味あるのかい?」
「ま、まあね。もしかしたら商売の役に立つかもしれないし……」
その後小さく『將來にも』と呟いたのを聞き逃さなかった。
今年で卒業になるルシエラは何をするかは決めかねているようだけど、見聞を広めるためというようなことが手紙に書いていたようだ。
「いいでしょ……?」
「そんな縋るような目をしなくても、許可があるならいいと思うよ? 先生も一緒だし」
「ああ、ひとり増えたところで問題はねぇよ」
「うふふ、頑張ってねぇ、あなた」
「あー」
「ティグレ先生にベルナ先生! あ、こんばんはティリアちゃん」
「あーうー!」
「ティリアちゃん可いー」
ベルナ先生と娘のティリアちゃんを連れ、ティグレ先生も到著した。學院でお晝寢をしているからか、めちゃくちゃ元気だ。アイナの一つ下にあたる。
俺達がティリアちゃんと握手をしていると、その後から出て來た人がティグレ先生に聲をかける。
「きちんと面倒を見るのよ、ティグレさん」
「當然だ。それより、そっちもベルナを頼むぞ?」
「わたしもルツィアール國の第二王よ? アンデッドより怖い相手なんてそうそういないでしょ。剣の扱いなら慣れてるんだし。……ねーティリア♪」
「あー♪」
ベルナ先生の姉である、グレース様だった。彼は結婚式を境に、この町へ遊びに來るようになった。お付きの人は宿に泊まっていて、グレース様達は山の中の家で寢泊まりをしているのだ。特にティリアちゃんが生まれてから頻繁に來るようになった気がする……。シーナ様がまだ子供を授かっていないのも原因のようだけど。
「ウチの姪っ子可い……! もう結婚しなくてティリアの長を見屆けるのもいいかも」
「それはお父様が泣くから止めましょうねぇ? どこかの領主の長男といい話があるって手紙を見たわ」
「う……?!」
仲は徐々に良くなっているようで何よりだ。
そうしていると、屋敷の方角から泣き聲が聞こえ、それが段々と大きくなってくる。何事かと思っていると、アイナを寢かしつけようとした母さんが、アイナを連れて庭に出て來たところだった。
「どうしたマリアンヌ!? 大泣きじゃないか」
「ああーん! でーにーちゃ、らーにーちゃ、さーゆぅ!」
「どうしたも無いわよ。みんなが庭に行った途端、火がついたように泣きだしたの。いないってことが分かるのかしらね? ほら、お兄ちゃんたちよ」
本當に良く懐いてくれる可い妹である。俺と兄さんがアイナの手を取ると、泣くのをピタッとやめ、笑いだす。
「にーちゃ♪ さーゆは?」
<我はここだぞ>
ぬっと顔を下げてアイナの前に出てくるサージュ。そこで俺は慌てて聲をあげる。
「ちょっと待って!? 大きくなった姿を見せたのって初めてじゃなかったっけ? 怖がって大泣きするんじゃ――」
「さーゆぅ♪」
「平気みたいだよー! 仲良しだもんね、アイナちゃんとサージュ!」
「のーあ!」
「うんうん♪」
<うむ。もう友達だからな>
……俺の心配をよそに、アイナはごつごつしたサージュの顔をペタペタとり、嬉しそうに笑う。將來大になりそうだと思いつつ、何のスキルを授かるか気になるところだ。
<さて、アイナの機嫌も直ったようだし、そろそろ出よう。オーファ國へはすぐ著くとは思うがな。地図からすると、一時間といったところか>
「ルツィアール國までそんなにかからないサージュで一時間なら結構遠いね。馬車ならかなりかかるってことか」
「ゆっくりでもいいと思うけどね。まだ夜は長いし」
兄さんがそう言うと、サージュが頷きを橫たえる。俺はレビテーションで先に乗り、人が乗れるように気球のかごのようなものをサージュの腕にロープを巻き付けて取り付ける。
「とうー! 久しぶりにサージュの背中だー」
「はしゃいで落ちないでねノーラ」
「うし、いつでもいいぜ!」
<では行こう!>
全員が乗り込み、羽ばたこうとしたら先ほどまでにこにこしていたアイナが表を崩し、大きな聲でびだす。
「……!? にーちゃ! さーゆ! のーあ! ……ああああああん!」
「あら、また泣きだした。どこかへ行くのが分かってるのねえ。よしよし、すぐ帰ってくるからねー」
「ああああああ! にーちゃぁぁぁぁ!」
だんだん高度を上げ始めるサージュ。俺はバタバタと暴れているアイナをあやしている母さんに聲をかける。
「どうしよう、連れて行こうか?」
「ううん。小さいから危ないし、ここで連れて行っちゃうと泣いたら思い通りになるって覚えちゃいそうだから我慢してもらうわ」
「そう? それじゃ、行ってきます!」
「気を付けてねぇ!」
「お金、高そうだったらあたしに言うのよー」
「あーう」
グレース様、皇帝を倒したお禮はまだ終わっていないと手を振りながらありがたいことを言ってくれる。俺達は庭にいたみんなに手を振りながら、輝く月夜の空へ登り、
<出発だ!>
「ゴー!」
「いいわよ!」
鍛冶屋のあるエネイブルの町へ進み始める。 俺はカバンにっているサージュの牙を握り、月明りの中の高鳴りをじるのだった。
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