《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第百六十七話 薬
「くっく……あいつら飲んだね」
「まあ、追い詰められたら仕方ないね。さて、最近ラース君はサボりがちのようだけど彼らに勝てるかな?」
「まあ戦鬼も學院長もいるし勝つのは無理だろうけど、足止めにはなる。クラスメイトが狙われれば本気を出さざるをえないだろう」
「ドラゴンの介は?」
「“サージュ”はあのサイズだと參加はできないだろうさ。小さくなって火球でも吐かれたらひとたまりも無いだろうけど」
「ま、アクシデントでも起こらないかぎりあの冒険者達は勝てないだろうね?」
「は止めてくださいよ『先生』……」
「お、いよいよだ、さて実験の果は、と――」
◆ ◇ ◆
「ああ!? うあああああああ!?」
「うがああああああ!?」
「お、おえ……おぼろろろろ……」
「ぎゃああああああ!?」
「な、なんだ?」
怪しげな薬を飲んだ四人が絶に近い悲鳴を上げ、森に響き渡る。その尋常ならざる暴れように、抑え込もうとしたティグレ先生も僅かに怯む。
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「嫌な予がする……バスレー先生、リューゼ! ルシエラを連れてここから離れて!」
「ラース!」
俺はリューゼにルシエラを渡すと、ガダルの首っこを摑み遠くへぶん投げ、様子を見る。演技だとしてもどうせ逃げられないし、逃がすつもりもない。チラリと先生達へ目を向けると、同じく様子を見ているようだった。
マキナを見ると、俺と目が合い、神妙な顔つきで頷いてサージュの近くへパティやルシエールを導してくれる。流石、騎士を目指すだけあって危険を察知してくれたようだ。
まだのたうち回る拐犯の間をぬってリューゼとバスレー先生もマキナ達のところへ到著する。
<……我の近くにいるんだ>
「お姉ちゃん!」
「ん……ルシエー……ル?」
ルシエールが泣きながらルシエラを抱きしめ、俺は安堵する。さて、となると後はこっちだけど……
「うがががが……う……? お……?」
目の前に転がっているガダルが急にぴたりと絶を止め、の震えも無くなっていた。するとすぐに立ち上がり、手首の様子を確かめた。
「い、痛くねぇ、治っているぞ!? それに力が湧いてくる……!」
「なんだって?」
「ガキが、さっきはよくもやってくれたな? お禮をさせてもらうぜ!」
「それはこっちのセリフだよ。もう面倒だから気絶してもらうよ」
「生意気な!」
ガダルが前傾姿勢で踏み込もうとした瞬間、俺も剣を半で構える。しかし次の瞬間、俺は目の前の出來事が信じられないと目を見開く。
「!」
「ふん!」
「速い!? さっきとは段違いだ! だけど……!」
俺は毆りつけてきた右腕を避けるため懐に飛び込むと、剣の柄で鳩尾を思い切り打ち付ける。無防備になったところを気絶させれば――
「さっきの勢いはどうしたガキぃ!」
「な!? <オートプロテクション>」
「なんだ? 膝がこれ以上かねぇ?」
ガダルは俺へお返しとばかりに俺の鳩尾を狙ってきた膝蹴りを繰り出してきた。咄嗟にオートプロテクションを発し攻撃を防ぎ、ガダルを片手で押しのけた後、剣で右肩口を狙う。
「大人しくしなよ!」
「チッ……! ガキがいきがるな! さっきは油斷したが、腕が治ってりゃお前なんざ!」
「そうだといいね……!」
「くっ!?」
ガダルは押しのけられた時に剣を拾い、俺と激しく戦する。夜の森に鉄のかち合う音が響き、火花が舞う。
……おかしい、さっきは急だったとはいえ手首を摑むくらいの速度だったのに、今は俺の剣についてきているね。驕るつもりはないし、本來の力なのかもしれないけど明らかに先ほどまでとはきが変わった。
「この俺についてくるとはなんだこのガキは……! うお!?」
「一気に叩かせてもらう<ファイア>!」
ガダルが隙を見せた一瞬、俺はファイアでガダルの顔を焼いた。顔を押さえて蹲ったので、俺はハイドロストリームでトドメを刺す。
勢いよく吹き飛び、大木に叩きつけられてガダルはずるずると大木を背に地面にもちをついて気絶した。
「ふう、手慣れた冒険者ってし手ごわ――」
「ちょ、ちょっと!? な、なんですかこいつ!?」
「いやあああ!?」
バスレー先生の聲と、ルシエールの悲鳴に振り返る俺。だが、直後に視界がぶれる。
「がっ……!?」
「ふううう! 殺す……殺してやる……!」
「痛ぅ、こ、こいつ……!?」
ハイドロストリームで気絶したと思っていたガダルが俺の後頭部を毆ったらしく、鼻息を荒くして俺を睨む。そもそもあの距離を一瞬で詰めたことが驚愕だけど、それ以上に『目』が変わっていた。
先ほどまでとびだった目が紅く、怪しく輝いているのだ。
「あんた、その目は……」
「うううるせぇぇぇ! 死ね! しねぇぇぇぇぇ!」
「くそ!?」
「がああああああ!」
毆られても手放さなかった剣を振り上げ仕方なく腕を切り落とそうと全力で斬る。今度はまた変化があり、突っ込んでくるだけだったので右手首にクリーンヒットした。
「……え!?」
「があ!」
「くっ……!」
だけど人間とは思えないさに弾かれ俺は首を摑まれ吊り上げられた。そして、ガダルは口から泡を吹きながら締め上げてくる。さらにが膨らみ始め、皮のが緑になっていった。
「ラース君! 【カイザーナックル】!」
「があああ!」
慌てて突っ込んできたのはマキナだった。
ガダルは左腕をへし折られながらをくの字に曲げる。咄嗟にゆるんだ手を払い、俺は地面に著地できた。
「げほっげほっ!?」
「だ、大丈夫!? 向こうの三人も様子がおかしくなったわ、こいつらただの拐犯じゃないのかしら……?」
マキナが青い顔をして俺に言う。確かにティグレ先生と學院長先生の前にも大化した冒険者が剛腕をふるっていた。
「というかこいつらどこかで……そうだ、本で見たことがある! こいつらトロールに似てるんだ!」
「トロールってオークよりも數段上の魔じゃない!? こいつら人間じゃないの!?」
「いや、さっき飲んだ薬……あれが怪しい。耳も尖ってきた、間違いなく何かが作用しているはずさ」
「どうするの?」
「倒す。トロール相手なら再生力もあるし、全力を出しても死なないだろうから。マキナ、手伝ってもらえる?」
「當然……! ティグレ先生と學院長先生はいいとして、リューゼとバスレー先生がひとり請け負っているわ。こっちは速やかに倒しましょう」
俺が剣を渡すと、マキナが逆手に剣を持ち構えを取る。俺は魔法オンリーで構わない。
ルシエラも心配だし、どうも薬は自前じゃなさそうだ。正気に戻るか分からないけど、さっさと倒してこいつらの目的を聞かないと!
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