《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第百六十八話 変異した存在

「グルアアアア!!」

「<ハイドロストリーム><ファイヤーボール>!」

本來ならこの水流でズタボロにできるだけの威力があるけど今回は木に押し付けるために使用した。叩きつけた後、そのままファイヤーボールの追撃で足を焼いて再生力を確認するつもりだ。

すでにガダルのは元の二倍以上に大きくなり、裝備していた鎧も壊れ、上半はほとんどになっている。

「グガ!?」

「やああああ!」

ファイヤーボールが直撃して足が燃えたところにマキナが接近し逆手の剣を斬り上げて左腕を狙う。ガダルは右手を振り下ろすが、マキナはカイザーナックルでそれを正面から抜く。

ガダルはぐぎゃっと短くいてマキナから距離を取る。俺がマキナの橫に並ぶとマキナはガダルを睨みながら口を開く。

「腕は斬れないわね……! でも、打撃は通るわ」

「みたいだね。だけど足の再生と一緒で、多分マキナが砕いた拳の骨も回復している」

「グフウウウ……」

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ガダルは右手を二回握り、合を確かめるとにやりと笑う。喋らないところを見ると、知能は低下しているようだ。

どうするか考えあぐねていると、ティグレ先生の怒聲が響いてくる。

「そっちにゃ行かせねぇつってんだろうがよ! “インパクトブレイク”!」

「がああああ!?」

「あっちいって! 【金剛力】!」

「ぐぎゃ……」

ティグレ先生の一撃でもう見た目が判別できないトロールと化した男が斜めに斬られ、真っ二つになった。クーデリカが斬れてずるりと落ちそうになる上半を渾の力を込めて押し出すと大きな巖にぶつかりカエルのような聲を上げてかなくなった。

近くでは學院長も剛腕を避けながら眉を潛める。

「<アイスニードル>! ……それでも向かってくるか……こいつら死が怖くないのか……? さっきとは別人だぞ……ならば<ウォータージェイル>!」

上手い、それなら確かに拘束できる! 俺も真似をしようとガダルに向こうとしたが、すぐにその考えを中止することになる。

「うぐぐぐ……がああああ!」

「引きちぎっただと……!? こいつらトロールじゃない、もしかしてオーガか……!? そうなると一筋縄ではいかん、ティグレのように殺すしかないか……? <フレイムウィップ>!」

學院長はそれでも殺さないことを模索するため炎の鞭で足を引っかけて転ばす。

「殺す……」

「人間だったものを殺すのか……俺は……」

嫌な汗が吹き出し、レッツェルを倒したときのことを思い出す。あの時もルシエール達が人質に取られて怒りのままドラゴニックブレイズを放ったけど、できれば殺さずに何とかしたい。

「來るわよ……!」

「うん、俺が足を切斷するから剣を貸して!」

「ラース君、殺す気でいかないと! あ、待って!」

マキナから剣を返してもらい、俺は一気に駆け出す。

とにかくきを封じよう! そのためには片足を嫌でも切り落とすしか……!

◆ ◇ ◆

「おっと、さすがはティグレ先生。あっさり殺したね」

「戦鬼は容赦しないだろうね、それよりもラース君だ。魔力はあのころからまあまあ高くなっているけど、オーガに苦戦するようじゃまだ甘いね」

「というか、殺すのをためらっているじがしますよ? 自分達がやられそうだってのに、あ、あの黒髪の子は分かってますね」

ラースの魔法がガダル・オーガのきを封じ、足を執拗に狙うのを見てフードの人達が話し合う。マキナは心臓のある位置にカイザーナックルを繰り出したり、肘から腕を折ったりと確実にダメージを與えていく。

「……うーん、ラース君は生溫いね。ルシエールをさらって見せしめにするつもりだったけど、この際彼でもいいかな?」

「ああ、マキナを気にしている様子もあったし、いいと思う。ではそのように――」

小柄なフードが笛を取り出すと口に咥えて音を出し、その音は眼下に見えるガダル・オーガの耳にって行く――

◆ ◇ ◆

「くそ……全然弱まる気配が無い……!」

「なら私が足を狙って折ったところを斬るのはどう?」

「それはマキナが危ないから卻下だ、じゃあ――」

俺は噴き出る汗を拭いながらドラゴニックブレイズで吹き飛ばすことを考え始め、止む無しと覚悟を決める。吐き気がこみあげてくるけど、我慢だ!

~♪

「なに……?」

「笛の音? 一どこから」

「う、う、ウウウウウ……」

突然聞こえてきた笛の音に、俺とマキナが呟くと目の前のガダルが頭を抑えてガクガクと震えだし、次の瞬間マキナに目を向け、ガダルが迫る。それもとんでもない速度で。

「【カイザー――きゃあああ!?」

「マキナ!?」

不意を突かれマキナはガダルの拳をまともにけてしまう。さらに迎撃をしようとばした手を摑まれ、手元に引き寄せられる。

「う……」

「グフフフ……」

「マキナを放せ! ……お前!」

俺が魔法を撃つため手をかざすと、ガダルはマキナを盾にし不敵に笑う。そして――

「グァッハッハッハ!」

「きゃ……!? うぐ……!?」

マキナを吊り上げ、背中を拳で打ち付け始めた! 知能が殘っているのか? いや笛の音が鳴り出してから……?

「がはっ!?」

「マキナ! くそ、考えている場合じゃない! <インビジブル>!」

俺は頭を振り、闇に溶け込むようにインビジブルでガダルの前から消える。マキナに夢中になっているガダルは俺が消えたことには気づかなかった。背後に回り込んで背中に手を當てた瞬間まで。

「<ファイヤーボール>! <フレイム>!」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!?」

ファイヤーボールで傷を作り、そこをさらにフレイムで焼き盡くす。再生ができても痛覚は殘っているだろう!

「マキナ! マキナ!」

「う……ご、めん、足手まといに……」

「喋っちゃだめだ<ヒーリング>!」

背中に鎧はあったもののひしゃげ、服は破かれて痛々しいがむき出しになっていた。

「ごめん、俺のせいだ! 俺が迷っていたから……!」

「そんなこと、ないよ……き、気を付けて」

「もう回復したのか……!?」

マキナの視線で顔を上げると、ガダルが拳を振り下ろしているところだった。にやけるその顔を見て、俺はあの時と同じく頭が煮えたぎる。怒りは自分に対してだ。

「二回目だ……俺はまた間違えた……! ここは日本じゃないんだ! それをいいかげん理解しろ! こいつは魔になった! ルシエールを拐した! だから――」

俺は右手を突き出し力を込める。歯を食いしばりガダルの拳を手のひらでけ止める。直後、重い塊が乗ったような衝撃をけ視界がブレる。だけどマキナがけたダメージはこんなもんじゃない。

「お前は消えろ……! <ドラゴニックブレイズ>!!」

けた右手からそのまま魔法を放つ。

「!?」

全力で出したドラゴニックブレイズは文字通り白いドラゴンの頭のような形になり、ガダルを飲み込んだ! な、なんだ!? 見たことないぞこんなの!?

「グギャ……ギャアアアアアア……」

のドラゴンに包まれたガダルは空に吹き飛ばされながら、レッツェルと同じく跡形も無く消え去った。これで、良かった……今はそう思う。

「や、やったね……! さすがラース、君」

「……」

ウインクしてくれるマキナに俺は泣き笑いの顔で応えた。すぐにヒーリングを再開するも、俺はハッとしてリューゼ達を見る。

「そうだ、他のみんな!」

そこに見えた景は――

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