《脇役転生の筈だった》11

そして、梨と相対した日の夜。

私は再び父に呼び出されていた。

昨日の今日という事で張気味に父の部屋の扉を叩く。

「…れ」

その聲はし強ばっているような気がした。

また松江家から苦があったのだろうか?

それならば今回は仕方ない。

素直に怒られよう。

「失禮致します」

意を決して中にると目にってきたのは土下座した父だった。

「……へ?」

私の口からそんな間抜けな言葉がれる。

「咲夜!!

済まなかった!

私が一番お前を信じてやらなければならないというのに松江なんかの言葉を鵜呑みにして信じてやれなかった!

本當に済まない!」

それは、昨日の件の謝罪だった。

それは私を信じてくれたという事の現れでもあるのだろう。

その事が私にとって一番嬉しかった。

何より、父に私の頑張りを認められた気がした。

「もう良いですわ。

昨日の事ですもの。

ですから…そろそろ頭を上げてください」

それでも父は決して頭を上げようとはしなかった。

「お父様、私はもう気にしてませんから…頭を上げてください!」

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娘に土下座する父親とか……なんかシュール……。

というか、こんな父を見たくなかった……。

「……だが…」

未だに渋る父に対し私はならば……と、お願いをした。

「お父様、今度海外から帰ってくる際は味しいマカロンのお土産を買ってきてください。

それで許しますわ」

父は恐る恐るといった様子で頭をあげた。

「そんな事でいいのか?」

「…味しいマカロンじゃなきゃ嫌ですよ?」

なんて言って笑いあった後、松江家の話となった。

「咲夜、松江の事だが……。

松江の娘は転校になるそうだ。

それと、お詫びの品を屆けると言ってきた。

…正直、それでは気が済まないかもしれぬが…」

許してしい、と父は私に言ってきた。

父が何に怯えているのかは分からないが、私は笑顔で頷く。

確かに梨に対しては怒りをじていたがもう言いたい事は言った。

何より、紫月と梨が顔を合わせなければいい。

それに……梨は奏橙にご執心だった様だし奏橙と會えないという事が彼にとって一番の罰になるだろう。

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そう考えたからだった。

「咲夜、悠人を呼んで來てくれるか?」

「分かりましたわ。

…失禮しました」

兄に何の用があるのだろうか?

……天遠鏡の件だろうか?

それか梨の事……はないか。

…兄には迷をかけたし、ファンクラブの會長さんへのお禮もしなきゃいけないからクッキーでも作ろうかな?

とりあえず兄を呼んでからか。

兄の部屋の扉を軽くノックすると、扉の前にいたのかと思う程早く扉が開いた。

「咲夜、どうしたの?

一緒に遊びたいのかい?」

……兄の中の私はどれくらい小さいままなのだろうか?

私はもう高校生なのだが……。

「お父様がお兄様をお呼びですわ」

すると兄はガッカリした様子でテンションを下げた。

「…そう。

分かったよ。

咲夜が遊びにきてくれたわけじゃ無かったんだね……」

チラチラとこちらを伺う兄は正直に言ってウザかった。

だが迷をかけた事もあり強くは言えなく、私は心ため息をつくと機嫌を良くするため1つお願いをした。

「…お兄様、今度の休日ですが水族館に行きた…」

「一緒に行こうか」

……兄のテンションが急上昇した。

先程とは打って変わって満面の笑み。

対する私は思わず顔を引き攣りそうになる。

それをどうにか堪え笑みを浮かべる。

「ありがとうございます、お兄様!

私は戻りますね」

私は兄に止められないうちに逃げだすと廚房をのぞき込む。

すると、最近った見習いさんと目が合った。

「あ……お、お嬢様!?」

バレてしまったなら仕方ないと私は彼のそばまでいき、手元をのぞき込んだ。

彼の手元には細かく書きこまれたノートがあり、大切にしてきただろう事が伺える。

「お、おおおお嬢様!?

な、なな何を…!!」

その慌て様に思わずふふっと笑ってしまう。

すると彼は何故か顔を赤く染め上げた。

……恥ずかしかったのだろうか?

「あ…申し訳ありませんわ。

今日はあなた1人なのですか?」

「い、いえ!

料理長は食材の注文を…」

あぁ、だから今は彼1人なのか。

2人は多分休みかな?

「料理長はいつ頃戻ってくるか分かりますの?」

「出ていったばかりなので30分は戻らないと……」

そうか……。

教えて貰いながらやろうと思ったが……仕方ない諦めるか……。

…クッキーの作り方ならこの人でも分かるよね?

「お嬢様はどうしてこちらへ?」

丁度いい。

彼にお願いするか。

「お兄様にお渡しするクッキーを作りたかったんですの。

…教えてくださいませんか?」

兄との生活の中で上目遣いが一番有効であるという事は既に分かっている。

私は恥心を捨て、上目遣いでお願いする。

その効果はあったのか、彼は顔を赤くしながらも了承してくれた。

優しい人で助かった。

「お嬢様…」

「咲夜でいいですわ。

あなたの名前も教えてくださるかしら?」

「し、失禮しました!

私は、天司といいます」

さんか……。

、天……うん、覚えた。

「よろしくお願いしますわ、天さん」

「は、はい!」

そうして始まったクッキー作りは思いのほか順調だった。

中等部の2年以來だったが天さんの教えもあり上手くできた。

いくつか上手く焼けたものをラッピングをするとそのうちの1つを天さんに手渡す。

「え……」

「今日のお禮ですわ。

さんに教えてもらいながらでしたので天さんより下手かもしれませんが貰ってくださいませんか?」

どうせ作り過ぎちゃったし。

お兄様と、會長さんにあげるとして、殘りは13。

音と、紫月、天也、奏橙、皐月先輩、白鳥先輩、朝霧先輩、鬼龍院先輩に渡すとしても殘りは5つ。

母と父にも渡すとしても3つは余ってしまう。

あとは清水にも渡すとして殘り2つ。

音には弟がいたし、音繋がりで渡すとしても結局1つは余ってしまうのだ。

そのため、お禮の意もこめ天さんに渡そうという事であった。

「さ、咲夜様……俺…私なんかが貰っていいのでしょうか?」

「勿論ですわ。

…それとも、これでは嫌ですか?」

嫌と言われたら何か他のものを買って渡そう。

お禮はしなきゃいけないし。

あ、でもそうなった場合このクッキーどうしよう?

「い、いえ!!

滅相もございません!

ありがとうございます、咲夜様」

さんは笑顔でクッキーを貰ってくれた。

うん、よかった。

私はもう一度お禮を告げると兄は後回しにして母の元へ向かった。

「お母様、よろしいでしょうか?」

「あら、咲夜ちゃん。

勿論、いいわよ」

優しく微笑んでいる母にクッキーを渡すと嬉しそうに頬を綻ばせた。

「ありがとう、咲夜ちゃん。

後で味しくいただくわ」

そんな母の笑顔を見て私もつい頬を緩ませた。

そのまま母の部屋を後にすると廊下で私は考え出した。

…父と兄はまだ話ているだろうか?

話の途中でするのも申し訳ないし…清水に渡す事にしよう。

清水は簡単に見つかった。

私の部屋の前にいたからだ。

清水の表は見ている人を安心させるような程穏やかだった。

「お嬢様、お元気になられたようでよかったです」

清水は私と2人の時、お嬢様と呼ぶのだ。

何度も名前で呼んでくれと言っているのだが聞きれてはくれなかった。

清水は清水で私を心配してくれていたようで申し訳ない気持ちとし嬉しいような、そんなが混ざり合う。

「清水、心配をかけましたわ。

…お詫びといってはなんですけれど貰ってください」

清水は目を見開いた後、嬉しそうに目を細めた。

「…お嬢様、ありがとうございます。

家寶に致します」

いや、そこは食べようよ。

家寶って……腐るし!

本當、清水は大袈裟だ。

私は「言い過ぎですわ」などと困ったように笑い、最後に父と兄の元へ向かった。

丁度話が終わったところの様だ。

兄は薄く笑みを浮かべているが、父は何故か怯えたような引きつった笑みを浮かべていた。

…ま、いっか。

「お父様、お兄様先程作ったのですが…貰ってくださいませんか?」

なーんて、伺うように聞いてみると突然視界が暗転したうえ息苦しさもじる。

「咲夜!

咲夜咲夜咲夜咲夜!!

ありがとう、僕のために作ってくれたんだね。

い可い僕の天使…やっぱりあと30年くらいは婚約者を決めないようにしよう」

……兄が怖い。

いや、今に始まった事じゃないけどさ……。

だけど怖いものは怖いのだ。

というか兄よ。

30年は行き遅れになってしまうのだが…。

「お、お兄様!

苦しいですわ…!」

幸い、右手だけは無事だったので右手を使い兄の背中をポンポンと叩く。

そんな私に兄はハッとした様子で力を緩めた。

……依然として腕の中にいるのは変わらないが。

「済まない、咲夜!

咲夜が可すぎて……。

大丈夫?

怪我はない?

……あぁ、良かった…」

怪我って……。

抱きしめられただけで怪我って……。

……それは勘弁願いたい。

「さぁ、行こうか咲夜」

え……まだ父にクッキー渡してない…。

兄の顔を見上げると笑顔の裏にはヒシヒシと怒りが満ち溢れているような気がした。

これって梨のせい?

それとも父がまた何かやらかした?

「お兄様、しだけ待っててください。

…お父様、折角作ったので渡しておきますね。

お兄様、お待たせしました」

「咲夜、ありがとう」

父が目を細めると兄はすぐに睨みつけた。

するとそんな兄の咎めるような視線にウッと息を詰まらせると小さく「済まない」と呟いたのを私は聞き逃さなかった。

……兄は一何をやったんだろうか?

「……お兄様」

私はどうしても父の事が気がかりで兄に尋ねてみる事にした。

「どうしたんだい?

折角の可い顔が臺無しだよ?」

……安定のシスコン発言でした。

まぁこの際それは置いといて……。

「お父様はどうかなさったのですか?

先程と比べて元気が無…」

「咲夜は気にしなくともいいんだよ。

あんな僕の咲夜を泣かせるような奴の事なんて…ね」

兄の目は據わっていた。

口元だけは弧を描いていたが目は全く笑っていない。

その歪さが余計私に恐怖を與える。

私は兄をどうこうするのでもなく心の中で父に向けて合掌をした。

『…強く生きてください、お父様…』

その言葉が屆く事はなかったが 後數日。

父が無事に生きている事を願いたい。

あ、そうだ。

朝霧先輩と白鳥先輩、鬼龍院先輩、皐月先輩に渡すクッキー、兄に渡して貰おう。

「お兄様、皐月先輩と朝霧先輩と、白鳥先輩と鬼龍院先輩に渡してしいのですが……」

すると、私からのお願いだからなのか嬉しそうに微笑んだ。

その笑みを私以外のの人に向ければいいのに……。

例えば音とか皐月先輩とか……。

「咲夜からのお願いなら拒む理由は無いね。

分かったよ。

僕が責任を持って渡しておくよ。

……涼太や鬼龍院先輩には咲夜の手作りクッキーは勿ないと思うけど」

兄が最後に呟いた言葉は正直聞きたく無かったなぁ……。

あれ、そう言えば兄は私が天也と奏橙と関わるのは嫌そうにするのに朝霧先輩と関わる時だけ何も言わないなぁ……。

何でだろ?

…兄の親友だからかな?

「……燈彌にも勿ないないな」

……そうでも無かったようです。

この兄のシスコンもどうにかならないだろうか?

というものに興味がないわけじゃないのに兄がシスコンのせいでなんて考えられない。

……私がした時點で絶対に相手の人に対して兄が何かやるという自信があるから。

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