《脇役転生の筈だった》13
そしてついに、土曜日。
水族館に出かける日であり、兄の誕生日だ。
私は水のロングワンピースに白いカーディガンというシンプルなデザインのものを選んだ。
これは、皐月先輩からのアドバイスをもとにして決めさせてもらった。
「咲夜、準備は出來たかい?」
「はい、出來ました!
お待たせしてしまい申し訳ありません、お兄様」
兄を待たせてしまったという申し訳なさからついそんな謝罪の言葉が出る。
すると兄は驚いた後、優しげに微笑む。
「待ってないから大丈夫だよ。
待っていたとしても咲夜のためなら何日だって待てるさ。
…それにしても…咲夜、今日は一段と可いね。
その服も似合ってるよ。
如月さんには謝しなきゃいけないかな。
こんなにただでさえ可い僕の天使をもっと可くしてくれたんだからね。
咲夜も、僕のためにありがとう」
……普通にそんな言葉が出るあたり流石は兄だと思う。
ただでさえ顔がいいのに…。
これなら學園で人気なのも頷ける。
「お兄様、からかわないでください!」
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まぁ、私はもう慣れたけど。
これが初等部の頃から続いてるんだから私としても嫌になってくる。
というか、毎回毎回よくもそう、違う言葉が出てくると思うよ。
「からかってなんかないよ。
咲夜は世界一…宇宙一可いからね」
いや、だからさ……。
もういいや……。
この兄には何を言っても意味がないだろうし。
「お兄様、早く行きましょう?」
「そうだね。
行こうか」
兄は自然に私の手を握り歩きだした。
速度を私に合わせてくれているようでそんな優しさが嬉しくじる。
「お兄様……私はそんなに子供では無いのですが……」
「分かってるよ。
咲夜は可いからね。
誰かに拐されないとも限らないだろう?
そのならないために必要なんだよ」
そんな事言ってるけどさ……。
兄の本音が分かりやすいんだよね。
「……私と手を繋ぎたいとかではないんですね?」
「それもあるけど…。
咲夜は嫌なのかい…?」
……兄に犬のような耳と尾がついてたら垂れ下がっているだろうと簡単に想像がつくのは何故だろうか?
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というか、そんな顔をされたら嫌とは言えないじゃないか。
「そんな事ありません。
ただ、お兄様には子供扱いされたく無かっただけですから」
しだけ拗ねたような口ぶりになってしまうが仕方ないだろう。
「……」
兄は何も言わずに立ち止まってしまった。
それに、私は首を傾げる。
何かあったのだろうか、と。
「お兄様…?
どうかなさいましたか?」
「……か……」
か……?
何かの暗號だろうか?
それとも私が聞き取れ無かっただけなのだろうか?
そんな私とは裏腹に兄は顔を手で隠してしまった。
……もしかして調子が悪いのだろうか?
ならば兄には悪い事をしてしまった…。
「か……可い!!
可すぎる!
咲夜が…僕の天使が可すぎて辛い!!」
……安定の兄シスコンだった。
心配して損した。
はぁ……この病気なんとかならないかな?
「……お兄様」
「…あぁ、ごめんね。
さぁ、行こうか」
兄は再び私の手をとり、歩き出した。
兄がこんなんだから兄妹ではなく、人として見られるんだ。
兄妹だって言って「噓だ!」なんて即答で言われた時は本當、大変だったんだ。
水族館では、「お似合いのカップル」と言われた事以外は何も無かった。
違うとは言ったのだが照れているととられたらしく聞いては貰えなかった。
だが、兄は何故か嬉しそうにしていた。
「…やっぱり天野は潰しておこう」
そう小さく呟いた言葉に関しては聞いていない事にした。
……天也には心の中で合掌しておいた。
「お兄様、今日はありがとうございました」
「咲夜のためなら何でもするのに…。
もっと何かしてほしい事があれば言ってほしいけどな…」
そこまで言うと兄に頼りすぎてしまう。
だから私は兄にお願いすることはしないようにしているのだ。
お願いするとしても、まずは自分の力で出來る範囲の事はやってからにしている。
「お兄様を頼ってばかりではいけませんから。
ですが…気にかけてくださりありがとうございます」
すると、兄は寂しそうな表をした。
「お兄様…?」
「うん?
どうかした?」
「あ、いえ…。
お兄様がどこか寂しげでしたので……」
兄は気づいて居なかったのか驚いたような表をしていた。
そのあと、優しく私の頭をでてくれる。
「何でもないよ。
…咲夜、他にどこか行きたい場所はあるかい?」
「ふぇ!?
…あ、えっと……」
兄の一言で私は隨分と狼狽えてしまった。
狼狽えてしまった理由は簡単だ。
……兄に私のたてた計畫がバレたのかと不安になったからだ。
「な、ないですよ?
お兄様こそ、何処か行きたいところでも?」
「僕は咲夜が行きたい場所に行きたいんだ」
ぐっ……。
兄よ……そんな事を笑顔で言わないようにしてほしい。
「だから咲夜。
何処か行きたいところはないかい?」
これ、絶対どこかしら言わないといけないやつだ。
……なら、著替えがしかったしこの際……。
うん。
我ながらいい考えだ。
「お、お兄様に服を選んでいただきたい…です…。
………駄目、ですか?」
いざとなると恥ずかしいものである。
顔が熱くなるのをじたのは気の所為ではないだろう。
「咲夜、いいよ。
行こうか」
兄は上機嫌で店に向かうように清水に告げていた。
「……流石咲夜様…。
悠人様を扱うのがお上手です」
なんて清水が言っていたが私は知らないフリを突き通した。
「…うーん。
天使に似合う服かぁ……。
やっぱり白がいいかな?
でも、ピンクも咲夜に似合いそうだし……。
うーん……」
兄よ……気が早すぎはしないだろうか?
しどころか結構、ひいてしまうのだが。
店に到著すると、兄はやはり上機嫌で私の服を選びだした。
そんな兄を後目に私は兄の服を選びだした。
…私の元々の目的は兄の服なのだ。
流石にこんなラフな格好ではまずいと考えたからだ。
兄ならば私の服はパーティー向けのような服を選ぶだろうと分かっていたからでもある。
「お兄様には黒が似合うかしら……?」
私の兄に対するイメージは黒だ。
それは日々の行いのせいでもあるのだが……。
私の兄に対するイメージがシスコンと腹黒といったものしかない。
だからだろうか?
レストランならばカジュアル系のものがいいだろう。
そう思い選んだのは他の服よりもラフなじの黒いスーツだった。
私が兄のもとへ戻ると未だに兄は私の服を選んでいた。
2つまで絞ったらしく白かピンクのワンピースで迷っていた。
「うーん……」
「…お兄様?」
迷っているらしい兄に聲をかける。
すると兄は悩んでいるような表のまま私に服を渡してきた。
「…やっぱり天使には白だよね。
咲夜、これはどうかな?」
天使には白…って。
私はいつ天使になったんだ。
……もう慣れたけどさ。
「お兄様がお選びになられたものですもの。
試著してきますね。
それと、お兄様に似合いそうだったので……。
どう、でしょうか?」
兄から服をけ取り、私は持っていたスーツを兄に見せる。
兄は嬉しそうに私からそのスーツをけ取った。
「ありがとう。
僕も試著して來るよ」
「はい!」
私達はそれぞれが選んだ服を試著するとそれぞれを譽めあった。
……ほぼ兄から私へ一方的にだったが。
「咲夜…。
流石僕の可いいもう…天使だね。
あまりにも似合い過ぎていて他の男には見せたくないくらいだよ。
本當に咲夜が可すぎて卒倒するかと思う程だよ。
今すぐにでも寫真にとって部屋に飾っておきたいくらいだ。
寫真だけじゃなくて抱き枕に…。
そうだね。
何で今まで僕は気付かなかったんだろう。
咲夜の等大の抱き枕を作ろう!
そうすれば……!!」
久しぶりに兄が怖いとじた。
これが兄じゃなかったら警察に突き出していた自信がある。
「……お兄様…。
お兄様もお似合いです。
……それでその言葉が出てこなければ良かったのですが……」
そんな私の最後の言葉は聞こえなかったらしい。
だが先程よりも嬉しそうだ。
靴やアクセサリーも選んでもらい私達は支払いを済ましそのままの服で店を出た。
朝早くから出てきた筈なのにも関わらず既に辺りは暗くなっていた。
そろそろ頃合だろう。
「…もうこんな時間か。
殘念だけど…そろそろ帰ろうか」
「……はい。
お兄様、今日は本當にありがとうございました。
お兄様のおかげで楽しい1日になりました」
「咲夜が楽しんでくれたようで本當に良かったよ」
だから、今度は私の番。
それに今日は兄の誕生日。
母と父が居ないのは殘念だけど……。
その分私が兄の誕生日のお祝いをしたい。
「うん?
この方向は……」
兄はもう気付いてしまったらしい。
清水の走らせている車が本來向かうべき方向とは逆の方向に向かっている事に。
「お兄様、もうしだけお付き合いください」
「……咲夜?」
兄は笑顔で告げる私に対し眉を潛めていたが嫌がっている様子は無かった。
その事に安堵しながら最終目的地へと到著する。
「……スカイツリー?」
「えぇ。
お兄様、こちらです」
最終目的地であるスカイツリーを不思議そうに見つめている兄を中へと導する。
スカイタワーの中にあるレストランの席に案され、座ったところで私はついにその一言を口にした。
「お兄様、お誕生日おめでとうございます!
遅くなってしまい申し訳ありません…」
兄は驚いたように目を丸くした。
そんな兄の反応に私はしだけ膨れた。
「……お兄様ににするの…大変だったんですよ?」
だからもうし、喜んでくれてもいいと思うんだ。
このレストランから見える夜景は幻想的で綺麗だ。
だからこそこのレストランを選んだのだが。
「ありがとう、咲夜」
いつになく穏やかに微笑む兄に私まで嬉しくなってくる。
そして、私は兄へのプレゼントを取り出した。
「私からのプレゼントです。
…お兄様が気にってくださるかはわかりませんが……」
それは、私が兄のためにと特注した品だった。
私と兄でお揃いのペンダントだ。
それぞれの名前が彫られている。
「これ……いいのかい?」
「えぇ。
私とお揃いのペンダントなんですよ?」
と、私は服の下にいれていたペンダントを兄に見せた。
「咲夜と……。
ありがとう、咲夜。
大切にするよ」
兄は大切そうに箱へと戻した。
その表は先程よりもずっと明るくなっている。
そして、食事が終わると兄は再び私にお禮を告げた。
「咲夜、ありがとう。
最高の誕生日プレゼントだったよ」
「お兄様にそう言ってもらえて本當に良かったです!」
兄に喜んで貰えたのなら今まで頑張ってきた甲斐があったというものだ。
いつもの謝もこめての誕生日プレゼントだったからね。
喜んでもらえたようで本當に良かった。
「……本當、咲夜が可すぎてやばい…。
咲夜の笑顔が兇すぎる。
僕の天使が可いのは今に始まった事じゃないけどここまでとは……。
いつもの何倍も可い…!
絶対に咲夜を他の男には渡さない…」
車での兄の様子が本當に怖かった。
そんな兄に清水がボソッと呟いた。
「……咲夜様が好きなのは分かりますがもうし悠人様も抑えてほしいものです。
確かに咲夜様は可らしいですが……」
清水もか!?
本當おかしいんじゃないの!?
確かに、確かに前世よりは可いと思うよ!?
でも音や皐月先輩より劣ってるって自覚はあるのに!!
兄や清水の目は節か!!
そう口走りたくなってしまうのを何とか抑え込む。
せめて天使って言うのとか、人前で可いって言うのは辭めてほしいなぁ。
それと、天也や奏橙を潰すとか言うのも無くならないかなぁ。
本當、シスコンじゃなければ完璧な兄なのに……。
シスコン化によりシナリオが変わってるのは嬉しいけどさ。
流石にやりすぎではないのだろうか?
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