《脇役転生の筈だった》40

薄暗い路地裏を進んでいくにつれ、私の來ていたワンピースが何度か引っかかってしまう。

そんなワンピースを見て私は仕方ないと溜息をつき、膝から下をビリッと破いた。

ただの布となったものをここに捨てていこうかとも迷ったが一応持って行く事にした。

何かの役に立つかもしれない……そう思ったからだ。

「というか…このイベントヒロインに起こるイベントじゃなかった……?

しかもドイツでなく日本で……」

そう、これは兄のルートで起こるイベントだったはずだ。

なのに、何故?

なくとも私はヒロインでもないし兄ルートに進んだ覚えもな……兄がシスコン化したことが原因だとしたら……?

そんな考えが頭をよぎり、私は思わずその場にしゃがみこんだ。

だがすぐに思考を切り替える。

音が拐されるよりもいいじゃないか』

と。

それに私ならば音と違いまだ安全なのだ。

私にはまだ利用価値があるのだから。

「今の私は海野家の令嬢ですわ。

海野咲夜はそう簡単に諦めるような人間じゃありませんわ」

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私はそう口にしてから表に出ようと歩き始める。

だがその瞳には既に、恐怖というは消え去っていた。

きっと転生前…私が杉本香乃だった頃ならば諦めていただろう。

どうせ、帰る場所も、待ってくれている人もいないから、と。

だが今の私には帰るべき場所があり、待ってくれている人がいる。

「ふふっ、私は必ず帰りますわ」

私は天也の事を思い浮かべ、路地裏を進んでいくのだった。

一方その頃……。

「おい、あのはどうした!?

監視は何をしていたんだ!」

「す、すいません…!

どうやら窓から逃げたらしく……」

「くそっ!

テメェ等に任せた俺が悪かった!

チッ……いいからテメェ等はさっさと捕らえにいけ!」

「は、はいぃぃぃ!!」

その景を見ていた彼、ロイは逃げ出したという彼を思い浮かべる。

拐されたというのにも関わらず怖がる素振りを見せず気丈に振る舞う令嬢を。

今まで見た令嬢の中で一番変だとじたあのを。

そのとこの拐グループを思い浮かべロイは呟いた。

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「そろそろ引き際…か」

と。

「ロイ!

お前もさっさと行け!

使えない奴め……」

「えぇ、行かせていただきますよっと」

と取引をするためにも、ね。

~咲夜~

「さて……ここはどちらに行った方がいいのでしょう?」

私の前には右と左で別れた道があった。

だが、そこで悩んでいてもすぐに追手が來るだろう、そう判斷した私は右に進んだ。

左だと先程の監場所に近くなってしまうと考えたからだ。

より遠いだろう右の方がいいと判斷したのだ。

「はぁ、はあっ……どこまでいけば…表に……っ…!」

走り続けていたため息切れも起こし、疲労のみが溜まり続ける。

その時だ。

私の前に彼が現れたのは。

「お嬢様、ご案しますよ…っと」

「なっ……あなた、何故……」

そう、私を攫った張本人が目の前に突然出てきたのだ。

それも、私の味方の様な口ぶりで。

「あそこはもう駄目だと判斷したんで。

…弟のためにもここで摑まる訳にはいかないんですよ。

なので、取引をしませんか?」

「取引……?」

私は彼の言った事を繰り返す。

彼の表を見ると、その言葉は本気のようだとじた。

「えぇ、そうです。

私はあなたがここから逃げる手伝いをしましょう。

その代わり…あなたに私を雇っていただきたい」

「……それは、私に噓をつけ、ということですの?」

「えぇ。

あぁ、言い忘れていましたが…他の方が來る前に決斷してくださいよ?」

私は必死に頭を働かせる。

どの手を使えばいいのか、どうすれば確実に逃げられるのか。

そして、私は答えを出した。

「その取引、おけ致しますわ」

「ありがとうございます、お嬢様」

どうせここでけなければ彼は私を先程の場所へと戻しただろう。

ならばしでも可能のある方へと賭けたのだ。

その賭けが上手くいったのかは分からないが……。

だが、それでも可能があるのであれば私はその可能へと縋ろう。

そう思ったのだ。

「では、失禮します。

あぁ……しっかり捕まっていてくださいね?」

彼は私を抱き上げるとそう言って微笑んだ。

私は一瞬だけ固まった。

それを了承と判斷したのか彼は走り出す。

まるで庭のように進んでいく彼に嘆しながら私はチラリと後ろを見た。

未だに追いつかれてはいないらしくし安心しながらこの狀況について考える。

「……ここまでくれば大丈夫でしょう」

「えぇ……ありがとうございます。

改めまして、海野咲夜ですわ。

お名前をお聞きしても?」

私は彼のことを信用出來る人だと判斷し自己紹介をした。

「……この狀況で、ですか…」

「えぇ、この狀況だからこそ、ですわ」

私が微笑むと彼は苦笑しながらも肩を竦め、名乗った。

「ロイ・サルヴァンと申します」

「ロイさん、と呼ばせていただきます。

私の事はどうか、咲夜とお呼びくださいませ」

「えぇ……。

咲夜様、屋敷の方へ戻りますか?」

「…港とどちらの方が近いかしら?」

「港、ですね」

「では、港へ。

そこに客船が留めてあるはずですしそこからでしたら連絡も出來るでしょうから」

「承知しました」

完全に執事とお嬢様となった會話に私は苦笑をらす。

それに気づいていない様子のロイさんはどんどん進んでいってしまう。

「そういえば…弟さんがいるのでしょう?」

私がそう言うとロイさんはおもむろに立ち止まった。

「……えぇ。

今は院中ですが……」

「……院…?」

「……あいつ、心臓弁癥という病気なんですよ。

そのために手費がどうしても必要なんです」

どうやらそのために私の拐に手を貸したらしい。

なんでも手のためには膨大な手費がかかるらしい。

そして、その後の院費もありどうしてもお金が足りないのだという。

「……急ぎますわよ。

それと、戻ったら扱き使ってあげますわ」

その代わりに、私はロイさんの弟を助ける手助けをしよう。

そのためには、まず戻る必要がある。

どうやら私はまた、戻らなければいけない理由が出來たらしい。

「……咲夜様?」

「急いで案しなさい。

それと…もう二度とこの様な事をしないと約束しなさい。

給料は住み込みで1ヶ月…そうね、65萬し安く設定したのは私に対しての返済費と迷料よ。

文句はありませんわね?」

「……そ、そんなに貰えるんですか?」

驚いた様子のロイさんに私は告げる。

「これでも海野家で雇っている者の中では安い方ですわ。

注意事項は契約書にサインしてから伝えますわ。

それと…弟さんの事は安心しなさい。

私の自由に使える分でなんとか致しますわ」

「っ……な、何故そうも……」

そう呟いたロイさんを放って私は歩き出す。

私はきっと、天也や兄には甘いと言われるだろう。

だが私はそうは思わない。

ロイさんには理由があったのだから。

私を攫うしかないほど追い詰められていたのだから。

私だって誰か大切な人が危険な目に陥ったのであれば…何をしてでも助けたいと思ってしまうから。

港につくと、私は客船を探しだし近づいた。

そして船の上にいるだろうスタッフへと聲をかける。

「申し訳ありませんが、どなたかいませんの!?」

何度か聲をかけるうちに誰かが気付いたらしく降りてくる。

「咲夜様!?

その格好は…!」

「話は後にしてくださいまし。

まずはお父様かお母様に連絡をお願いしますわ。

それと、著替えを用意してくださるかしら?」

「しょ、承知致しました!

すぐにご用意させていただきます!

咲夜様、まずは船へとお乗り下さい!

それと……」

「ロイさんの服もお願いしますわ。

私を助けてくださった際に汚れてしまいましたので」

「承知致しました!」

そのスタッフは私を一室へと案すると、ロイを連れて部屋を立ち去った。

それからすぐにのスタッフが來て服を用意してくれる。

「咲夜お嬢様、お著替えはこちらに…」

「えぇ、ありがとうございますわ。

それと、ご迷をおかけしてしまい申し訳ありません」

「い、いえ!

咲夜お嬢様がご無事で何よりです!」

私が謝罪をすると彼はあたふたと慌てた後、退室した。

が持ってきた服に著替えると私は部屋を出た。

すると、そこには著替え終わったロイさんと先程のスタッフがいた。

「咲夜様、旦那様にお電話致しましたところ、すぐにお迎えに上がるそうです」

「分かりましたわ。

ありがとうございます。

それと……申し訳ないのですが2人分の軽食をご用意してくださるかしら…?

それと、落ち著く飲みを……」

「畏まりました。

後程お部屋へとお運び致します」

「お願い致します」

スタッフが去ったのを確認してからロイさんと共に部屋へと戻る。

そしてこれからの事について話始めた。

「これからですが…この後すぐにお父様が來るのでそこで説明致しますわ。

ロイさんの事は私が説明致しますので話を合わせてください。

そうですね…シナリオとしてはこう致しましょう。

ロイさんは私が逃げ出した後、路地裏で出會い助けてくれた、と。

その後は私をこの港まで送ってくださったとでも。

 そして、恩義をじた私はロイさんを専屬の執事として雇う……。

この様なシナリオで大丈夫でしょう。

もし何か聞かれたら私に口止めされていると言ってください」

「分かりました……ですが、本當にいいのですか?

私なんかを雇っても……」

「問題ありませんわ。

お父様もお兄様も私には甘いですから何とかできるでしょう。

問題のお母様は私の恩人だからと言えば問題ありませんわ」

そんなの作戦をたて、運ばれてきた軽食を食べ終わる頃、父達が迎えにきた

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