《奴ら(許嫁+馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…》家出
「つまり、住む場所がないからと困っていた許嫁を仕方なくここに住まわせ、一人暮らしが不安だという馴染が勝手に引っ越してきていたと」
「そ、そうです……」
結局、あの洗濯がかぬ証拠となり同居のことはバレてしまった。
友和なら「あ、それ俺のです」と誤魔化したのだろうが俺はそれを言えるほど勇者ではない。
なので正直に同居をすることになった経緯を全て話した。
「噂は本當だったようですね。散々私に説教をしていたのに、やっぱりあれはただの口から出任せだったみたいね」
何も言い返せなかった。
実際、俺は彼に噓をついていた訳だし騙そうともしていた。
偉そうにものを言える立場ではない。
「それで、生徒會長さんはどうするつもりなんですの? 興様に危害を加えるようなら虹咲グループの力をもって生徒會ごと潰してあげることもできるのよ」
それはただの脅しではなく、本當にやってしまいそうなのが八恵だ。
虹咲グループの凄さはこの家をプレゼントとして渡してしまうほどのもので全力ならそれくらい朝飯前なのだと言う。
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「別に天坂くんに危害を加えるつもりなんてないわよ。ただ同居をしているせいで問題が起こったりしたら困るの」
良く先生とかに言われるが、悪いことをすると同じ學校の生徒が同じ目で見られてしまうからそういったことはするな、という注意と同じことだ。
なので年頃の男が保護者のいない家で同居していると知れ渡ってはいけない。
「それなら心配ありませんわ。興様は紳士ですし、優しいですし、意外と真面目ですので」
意外と、は余計だろと言いたかったが何と無く空気が言える雰囲気ではなかった。
「まあ、本當に問題を起こさないのなら私は何も言いません。ただし、何かあったらすぐに生徒會長としてこの同居生活はやめさせるつもりですので、そのつもりで」
念を押してそう言うとそそくさと出て行った。
「はぁ……、とりあえず峠は越したな。生徒會長が認めてくれたんなら大丈夫だろ」
「認めてくれたっていうか、注意されただけなんだけどね」
などと付け足す理沙だが心ホッとしているに違いない。
「ですけど、やはり生徒會長自らここに來た理由は分かりませんでしたわね」
***
「ただいま帰りました母さん」
「あら、遅かったのね。今日は生徒會の仕事はないはずじゃないの?」
リンビングの機で何やら作業している母親に聲をかけるが、対応はいつものように冷たい。
勿論、魅雨は溫かい言葉など期待はしていなかったがある決心をしていた。
「天坂 興くんという人の家に行って來たの」
「⁉︎ 貴方、あれの家に行ったの? あれほど天坂という男には近づかないでって言ってたわよね。あれの子供なんてロクなもんじゃないに決まってるわ」
魅雨の母は『天坂』という言葉をタブーとしていた。
何故なら離婚したあの最低な夫の顔が浮かんでくるから、と言っていた。
「母さんは誤解しているわ。お父さんがどんな人だったか知らないけどあの人は関係ないじゃない! あの人は間違っていることは間違っていると言える、信念のある人だった」
人を見る目には自信がある魅雨は彼が母が言うほど悪い男ではないとすぐに気づいていた。
ただ、あの時はそれを口にするのが小っ恥ずかしくてあんな態度をとってしまっただけなのだ。
「それは演技をしているだけよ。後で手のひらを返されるのがオチよ」
「なんで……、なんで母さんはお父さんをそんなに憎んでいるの? 離婚してもう未練はないんじゃないの?」
「ええ、これっぽっちもないわ。ただし離婚したからといってあれがした事を許す気はないの。だから貴方もあれの息子となんて関わったりしないで験勉強をしていればいいの」
「でも、あの人は私の弟……なんですよね?」
天坂という苗字でもしかしたらと思っていたが、あの寫真で確信がもてた。
「母親は違うけど父親はあれだから確かに貴方の弟だけどそれが何?」
「私はずっと憧れてたの。家族全員で仲良く過ごせる日々を……。あの家は正しくそれだった。皆笑って毎日を送っているんだって、っただけで分かったわ」
こんな張り詰めた空気ではなく、溫かい空気で充満していた。
「言いたいことはそれだけ? いいから言うことを聞きなさい」
「もう母さんの指図はけないっ!」
溜まっていたものが吐き出されて魅雨はその衝に任せて外へと駆け出した。
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