「今日はどうしたの？　いつもはムードも何も無い居酒屋なのに」

「まぁ、偶には良いじゃ無いですか」

俺は子さんに笑顔でそう答えながら、食事を口に運ぶ。

俺がなんで、今日ここに子さんを連れてきたのか、それには重大な意味があった。

「すいません、しお手洗いに……」

「うん、行ってらっしゃい」

俺は子さんにそう言って席を立ち、トイレ……では無く、店の裏のスタッフさんの元に向かう。

「すみません、そろそろお願いします」

俺が子さんをこの店に連れてきた意味、それは今日この店で子さんにプロポーズをするからだ。

一ヶ月ほど前から、予約を取りサプライズを店側にお願いし、今日ようやくそれが実現する。

「花束はどのタイミングでお渡ししますか？」

「えっと、答えを聞いた後でお願いします」

「ケーキも同じタイミングでよろしいですか？」

「はい、お願いします」

著々と準備が進んでいく中、俺は今更ながらに張していた。

斷られたらどうしよう、そんな事も考えてしまったが、俺は大學二年の頃の正月に子さんに言われた事を思い出し、自信を持つ。

あの時はムードも何も無かったが、今回は違う。

夜景、レストラン、サプライズ！

が夢見るような素敵なシチュエーションを揃えた。

あの日、子さんに「もっとちゃんとしたところで言ってしい」そう言われてから、俺は考えた。

そして今日、俺は子さんにプロポーズする。

正直、指もレストランのお金も決して安くは無かった。

しかし、お金が惜しいともじなかった。

子さんの為なら、躊躇無く貯金を崩せた。

「それでは、そろそろ照明を落とします。他のお客様には事前にお伝えしていますので、ご安心下さい」

「ありがとうございます」

「それと……頑張って下さい！」

「はい！」

店のスタッフさんに応援され、俺は指のった箱を持ってスタンバイする。

正直こう言う事をするのは、あまり俺のキャラでは無い。

張しながら、俺は照明が消えるのを待った。

子さんは、夜景を見ながらワインを飲んでいた。

そして、子さんがワインのグラスを機に置いた瞬間、照明が消えた。

「え？　停電？？　でも、外は電気ついてるし……」

流れはこうだ。

辺りが暗くなっている間に、俺が子さんの元に近づく。

電気がついたところで子さんにプロポーズをし、功だったらスタッフの皆さんとお客さんにクラッカーを鳴らして貰う。

そして、用意した花束とケーキを持ってきて貰う。

そう言う流れなのだが、やはりどうしても斷られた時を考えてしまう。

いや、大丈夫！

そう自分に言い聞かせ、俺は子さんの側に行く。

照明が付き、子さんと目が合う。

「え？　ど、どうしたの？」

店の様子の変化に、子さんは困していた。

俺はそんな子さんにすかさず、言葉をかける。

「子さん、昔駅のホームで俺に言った事、覚えてますか？」

「え？　えっと……何年前？」

「もう、五年ですかね……子さんの実家に初めて行った時です」

「あ、う…うん……覚えてるよ……」

俺の言葉で、何となく察しがついたのか、子さんは顔を赤くして俺とあまり視線を合わせようとしない。

「あの時、子さんがもっとちゃんとしたところで言ってしいっていうので、このレストランで言う事にして、今日ここに呼んだんです」

「そ、そう……」

俺は子さんの顔を真っ直ぐ見て、真剣に話す。

話している途中、々な事が走馬燈のように頭に流れてきた。

子さんと出會って、子さんに振り回されて、そのおかげで付き合って……。

本當に々な事があった。

「子さん……俺は貴方が……」

そう言い始めた瞬間、子さんは泣き出してしまった。

顔を真っ赤にし、涙で濡れた顔を隠しながら子さんはそれでも俺の話を聞こうと、首を立てに振って相づちを打つ。

「世界で一番大好きです、結婚して下さい」

俺はそう言って、指を差し出す。

言った。

言い切った。

後は子さんの返事を待つだけなのだが、泣いているのかなかなか返事が帰ってこない。

「……わ、わたし……すっごいわがままだよ？」

「知ってます」

「家事とか……未だに……あんまり出來ないよ？」

「知ってます」

「獨占も……最近強いし……」

「知ってます」

「………私も……次郎君が……好きだよ」

「……知ってます」

俺はそう言って子さんを抱きしめる。

その瞬間、店の中に大きなクラッカーの音が鳴り響く。

その後に続いた拍手の嵐の中、俺は子さんの指に指を付け、持ってきて貰った花束を手渡す。

「岬子、なんてロゴが悪いですかね？」

「そんな事気にしないわよ……ありがと、次郎」

子さんの俺を呼ぶ呼び方が変わった。

それはきっと、関係の変化をけれると言う子さんの現れなのだろう。

「約束します、貴方を……子を幸せにします」

この日の出來事を俺は忘れる事は無い。

あの日、子さんに出會い、際を始めて、そして今日プロポーズをした。

わがままで自分大好きなお嬢様。

そんな言葉が似合う俺の彼は、今日も綺麗で人だ。

＊

五年後＿＿。

「パパー」

「ん？　どうした、幸(みゆき)?」

「パパは、ママとあたしのどっちが好き？」

「どっちも好きだよ」

「ちゃんとえらんで！　どっちなの！」

「幸……お前ママに似てきたなぁ……」

肩をがっくりと落としながら、俺は娘の幸にそう呟く。

ママに似てこの子は人になりそうだ、なんて思っていた俺だが、格もママに似てしまったようだ。

「何言ってるの幸、パパはママが一番好きなのよ」

「う～！　そんなことないもん！」

「子……頼むから娘と本気で爭うな……」

「甘いわね、に娘も親も関係ないのよ！」

「そこは子供に譲ってくれよ……」

「パパ抱っこ～！」

娘にせがまれ、俺は幸を膝の上に乗せる。

この子が生まれてもう四年。

俺も子も大切に育ててきた。

やはり親に影響されるのか、すこしわがままなところがある。

「じゃあママはここね」

「はいはい」

そう言って子は、俺の肩に頭を乗せて來る。

家族でこうしている時間が、何よりも幸せであると、俺は最近実する事が多い。

「で、そろそろ結婚記念日だけど、今年は何してくれるの？」

「ちゃんと考えてますよ。子はわがままだから、毎年考えるのが大変だよ」

「ウフフ、毎年ありがと」

俺は笑顔でそう言う子に尋ねる。

「子」

「なに？」

「幸せ？」

「うん。幸せよ」

END