《甘え上手な彼》♯35
*
「おい……おい!」
「え……あぁ、優一か……どうした?」
「どうしたじゃねぇ!! 指からがあふれてんぞ!!」
「え……あぁ、なんか指が暖かいと思った……」
「馬鹿野郎! 早く押さえろ!! おい! 誰かハンカチとか持ってねーか!」
高志は屋上から戻り、作業をしていた。
しかし、ぼーっとしていたせいか、指を切ってしまった。
本人はが垂れているなんて気がつかず、橫を通り掛かった優一が異変に気がつき、高志の指を押さえたのだ。
「何やってんだよ、危ねーだろ?!」
「あぁ……わりい……」
「どうかしたか? なんかぼーっとしてるみてーだけど……」
「……いや……なんでもねーよ」
高志は優一に笑顔で答える。
そんな高志の笑顔に、優一は違和を覚える。
「疲れてるのか? それとも、何か嫌な事でもあったか?」
「大丈夫だって。ほら、早く進めないと、準備終わらないぜ?」
「……まぁ、お前が大丈夫なら良いけどよ…」
優一はそう言って、高志に絆創膏を渡して自分の作業に戻っていった。
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高志は指に出來た切り傷を見ながら思う。
あの屋上での出來事は、現実だったのだろうか?
紗彌は、自分に噓をついていたのだろうか?
ようやく自分の気持ちがわかっただけに、高志はあの景を思い出す度に、がちくりと痛んだ。
「おーい、男子! そっちはどんなじ?」
「なんだ、門か」
「なんだとは何よ! 子の方は大終わったわ、何か手伝うことはある?」
「いや、こっちも皆頑張ってくれてるからな、別に何もないな」
「そう。じゃあ、私たちは……って八重君!? 何してるの!」
「ん? お、おい高志!! 今度は腕からが垂れてんぞ!!」
「え? あぁ……ホントだ」
高志はまたしてもぼーっとして、切り傷を作ってしまった。
話しをしていた優一と由華は驚き、高志の元に近づいて、傷口を押さえる。
「おい、本當にどうした? お前らしくないぞ?」
「いや、ちょっと手をらせただけだ……」
「手をらせて、こんなに深く傷が付く?! しかも気がつかなかったって、八重君何かあったの?」
由華に言われ、高志はまたしても思い出してしまった。
あの嫌な景を……。
「高志? どうしたの、その怪我?! まみれじゃない!!」
「!! ……紗彌」
由華の聲を聞いてやってきたのだろう、紗彌はやってくるなり、まみれの高志に視線を向け、心配そうな表で近づいてきた。
いつもの高志なら、紗彌に笑顔で「大丈夫だよ」と言って、安心させるところなのだが、あの景を思い出し、高志は紗彌から離れるように立ち上がり、傷口を押さえながら逃げるように教室を後にする。
「保健室に行ってくる……」
「あ、あぁ……行ってこいよ。今日の作業は終わりだからよ」
「あ、じゃあ紗彌、付いて行ってあげたら? どうせ心配でしょ?」
由華の提案に、高志は三人に背を向けて答える。
「いや、大丈夫……三人とも先に帰ってくれ……」
高志はそれだけ言い殘すと、保健室に一人で歩いて行った。
「高志! 本當に大丈夫?!」
後ろから、紗彌の不安そうな聲が聞こえてきた。
高志はその言葉に立ち止まり、無理矢理に笑顔をを作り、彼に言う。
「大丈夫」
高志はその一言だけを言い殘し、保健室に向かった。
紗彌はその笑顔を見ても、安心することが出來なかった。
逆に、紗彌はなんだか嫌な予がした。
どんどん離れて行く高志を見て、なんだかすごく不安になった。
このまま高志が、自分の元から離れて行ってしまうような気がした。
(追いかけなくちゃ!)
紗彌はそう思って、高志の後を追った。
「あ、宮岡さん」
「せ、先生。何か用ですか?」
「えぇ、ちょっとお願いがあるんだけど、今良いかしら?」
紗彌は世界史の先生に捕まってしまった。
先生の話しを聞いている間も、高志はどんどん離れて行く。
「すいません、急いでいるので」
「あら、ごめんなさい、じゃあ他の人にお願いするわ」
「失禮します」
紗彌はそう言って先生に頭を下げ、高志を追う。
しかし、高志の姿は既に何処にも無かった。
目的地はわかっているので、紗彌は保険室に急いだ。
追いかけなければ、何かとんでも無いことになる予がした。
「失禮します!」
「おや? どうかしたのかい?」
「先生、さっき男子生徒が來ませんでしたか?!」
「あぁ、來たよ。でも絆創膏をあげたらすぐに帰っちゃったよ」
「そう……ですか……」
保険室の男教師は、紗彌に笑顔で答える。
紗彌は先生の話を聞きくと、保健室を後にした。
「……これでいいの?」
「はい、ありがとうございます」
紗彌が保険室を後にした後、高志はベッドのカーテンから姿を現した。
高志は先生にお禮を言うと、近くの椅子に座って傷を先生に見せる。
「急に來て、隠れさせてくれ、なんていうから、何事かと思ったよ……彼と喧嘩でもしたのかい?」
「いえ……ただ、今は會いたく無くて…」
「それを喧嘩って言うんじゃないのかな?」
先生は高志の腕の傷を見ながら答える。
「隨分ざっくりいったんだねぇ、痛くなかったのかい?」
「……それ以上に、なんか々気になっちゃって…」
「なるほど、深い傷を負ったのは心の方だったって事か……」
先生は高志に笑みを浮かべながら話す。
そんな先生に、高志はおもわず尋ねる。
「先生は……浮気とかされたことありますか?」
「君は彼に浮気されたのかい?」
「………確定ではありませんが……」
「ハハハ、そうかい、そりゃあ災難だったね」
「笑い事じゃ無いですよ……」
「ごめんごめん、浮気か~……僕はそう言う経験は無いよ」
「そうですか……」
「でも、一つ言えるとしたら……ちゃんと話しをしないと、わからないよね」
「………そうですよね」
「現実から目を背けたい気持ちもわかるけど、彼とちゃんと話しをしないと、解決しないよ?」
「わかっては……いるんですが……」
「まぁ、そりゃあ聞きづらいよね」
「はい……」
聞いて、もしも高志の予想通りの答えが返ってきたらと思うと、高志は恐かった。
「もうすぐ文化祭だし、そのときにでも聞いてみたらどうだい?」
「……そうですね、聞かないと始まりませんもんね」
「そうそう……はい、完」
話している間に、処置は終わっていた。
「ありがとうございます。じゃあ、失禮します」
「頑張ってね、応援してるからさ」
「はい」
高志は先生にお禮を言い、保険室を後にした。
鞄を取りに教室に戻ると、そこには紗彌が一人で待っていた。
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