《甘え上手な彼》♯40
*
「き、張したぁ~……」
高志は紗彌を連れて、グランドのステージを後にして、人気の無い校舎裏に來ていた。
勢いで々とやってしまった高志だったが、冷靜に考えると優一がいなければ何も出來なかったかも知れないと思うと、今更ながら心臓がドキドキするのをじる。
あの後、輝は完全に忘れられ、會場の主役は高志になった訳なのだが、流石にあそこにいつまでも居る訳にもいかず、高志は紗彌の手を引いてここまで逃げてきた。
「……ありがと」
「え?」
ふと、隣の紗彌にそう言われ、高志は紗彌を見る。
紗彌は頬を赤く染め、高志の方をジッと見つめる。
「いや……あの……なんて言うか……ただ俺がムカついたから、あいつに々言いたかっただけだし……それに紗彌にお禮を言われるほどの事をしたと思ってないし……そもそも優一が……」
々と話す高志の口に、紗彌は人差し指を當てて言葉を止める。
「そう言うのはいいから……今私がしてしいこと……わかる?」
「えっと……なんとなくなら……」
「なら……それをしてしいかも……人目も無いし……」
そう言って紗彌は目を瞑るつむる。
高志はそんな紗彌に顔を近づけて行く。
一回しただけなのに、こんなにも慣れてしまうものなのかと、思いながら高志は自分のを紗彌のに近づけて行く。
あとしでが重なる。
そんな時……。
ガタン
「またか!!」
突然の音に、高志は思わずびながら、音がした方を見る。
そこには、顔を真っ赤にしながらジーッとこちらを見る芹那居た。
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メイド服を著て、何かを運んでいたのだろう、芹那の足下には箱が落ちていた。
「あ、あの……その……ど、どうぞ気にせず続きを!!」
「出來るか!!」
紗彌と良い雰囲気になる度に、誰かに邪魔されているじがすると高志は思いながら、高志は溜息を吐く。
そんな高志に紗彌は顔を近づける。
「え……さ、紗彌? 何むぐ……」
「きゃーーー!!」
紗彌は芹那が居るにも関わらず、高志の頬に手を當てキスをした。
見ていた芹那は、黃い悲鳴を上げ、高志は頬を真っ赤にして紗彌が離れた後も何が起こったのかわからないようなじで、ぼけーっとしていた。
「ごめん……我慢出來なかった……」
紗彌も流石に人前では恥ずかしかったのか、頬を真っ赤に染めて高志に言う。
芹那は芹那で、そんな場面に出會し、思考が停止し、その場に立ち盡くす。
*
「おい、売り上げはどうだ?」
「やっと帰ってきたな優一! 昨日以上だ! このまま行けばクラス賞も夢じゃない!!」
「そうか! 良し! これならあいつに……」
優一は自分のクラスに戻って來ていた。
自分が抜けた分、何かトラブルでも起きていないか心配だったが、何も無かったようで安心する。
「じゃあ、俺は営業戻るから、誰か休憩行ってこいよ」
「おぉ、助かる! じゃあ、次休憩の奴行ってこいよ!」
優一は接客に戻り、自らも売り上げに貢獻する。
「何してたの?」
「ん、なんだ門か……」
「なんだとは何よ!」
「てか、知ってるだろ? お前がグランドに居たの知ってるんだからな」
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「なんだ、知ってたの? まぁ、あのふざけた男を騙してくれた事には謝してるわ、私の紗彌をあんな男になんか渡せないから」
「あのなぁ……」
優一と由華は、カーテンで區切った、スタッフスペースで話しをしていた。
現在はそこまでお客さんが居ないので、優一と由華の出番はまだ無い。
「……でも、もう私も紗彌離れするときが來たみたい……」
「まぁ、そうだろうな、お前は宮岡との距離が近すぎるっていうか、そのうち何をしでかすかわからないじだったからな」
「なによ! 人をレズみたいに!」
「いや、正真正銘のヤバイ奴だったよ…」
優一はそう言って、溜息を吐く。
由華の紗彌に対する思いを優一は知っていた。
だからこそ、やっと気がついたのかと言う気分だった。
「正直、八重君に勝てる気がしないし……紗彌が好きになる男だもん、あれは良い男だわ」
「そうか? 俺にはただの後先考えない馬鹿にしか見えないが……」
「なら、なんでステージであんなことを言ったのよ?」
そう尋ねてくる由華に、優一は笑いながら答える。
「黒歴史だろ? 不良なんかとダチになっちまったんだから」
「今は違うんでしょ?」
「々あったんだよ……々……」
優一はそう話しながら、売り上げを數える。
由華は何かわかった様子で、優一を見て笑う。
「それより、アンタは良いの? 芹那ちゃんのこと」
「ハッハッハ! これを見ろ!! この店の売り上げだ! これだけの売り上げを上げた
店は、學校でもうちのクラスだけだろうよ! これでうちのクラスは勝ったも同然!」
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「そうじゃなくて。本當に良いの? ある一點を除いたら、可くて格の良い、アンタの理想の子じゃない」
「良いんだよ、俺はSじゃねーし! それに……」
「それに?」
「……なんでもねーよ! ほら、客だ客! 接客行くぞ!」
優一は話しをごまかすように、接客に向かった。
由華は優一が、芹那の癖以外に、何か付き合わない理由があるのでは無いかと思った。
*
文化祭の三日目は、あっという間に過ぎて行った。
優一が最後の追い込みをすると意気込み、みんな張り切って営業をし、三日間の中で一番の売り上げを叩き出し。
高志と紗彌は昨日の一件があって以來、學校中の噂となり、多くの視線を再び集めていた。
「はぁ……なんか今日一日疲れた……」
「行く先々で弄られてたもんな」
「昨日の事があったからだろ? はぁ……」
高志と優一は、今現在閉會式の為、育館に向かっていた。
「しかし、売り上げも申し分無いし、客の満足度も完璧だ! クラス賞はいただきだな!」
「まぁ、だろうな……そのせいで忙しくて、文化祭あんま回れなかったけど……」
「その分、今日の打ち上げで楽しむんだよ。さっさと閉會式で表彰されようぜ」
「自信満々だな……」
育館に到著し、高志と優一は閉會式に參加する。
最初に三日間通しての來場者の數や総評などが発表され、いよいよ各賞の発表となった。
クラス賞は、一年生から三年生まで全クラスが対象の為、一番最後に発表される。
『えぇ、それでは各賞の発表です! まずは校イケメンランキングトップスリー!!』
育館の壇上で司會者が、ノリノリで発表を始める。
よく見ると、二日目の學生のびの時の司會者と同じ司會者だった。
『……栄えある、校イケメンランキングナンバーワンは! 二年三竹輝さんでーす!! おめでとうございまーす!!」
「あ。あいつが賞か……』
「これで、校ランキング一位が宮岡だったら、笑えるな」
「確かにな」
そんな事を話しながら、高志と優一は壇上に気まずそうに上がって行く、輝を見る。
司會者の子生徒も、笑いを堪えるのに必死な様子だった。
『つ……続きまして……校ランキングのは、発表です……フフ』
笑いを堪えつつ、司會者の子生徒は二位と三位のとを発表、そして一位を発表しようとした時、一気に噴き出した。
『ぶふっ! も、もうダメ! アハハハ!!! 一位がこの子って、もう最高じゃん!!!』
司會者の様子に気がついたのか、司會者の換をする実行委員。
高志はそんな司會者を良い格してるなと思いながら、見送る。
代わりの司會者を出し、一位の発表から再びやり直す。
『えぇ……申し訳ありません、それでは一位の発表です。一位は……二年宮岡紗彌さんです!』
その瞬間、高志と優一は噴き出した。
「ハハハ!! 傑作だな、よりによって宮岡か!」
「お、おい……あんまり笑うな! 目立つ……フフ」
壇上に上がる二人を見ながら、優一と高志は噴き出す。
二日目に公開告白した人と、その相手が隣同士で立っている。
しかも、公開告白はあっけなく失敗。
紗彌は普段通りだったが、輝は今すぐにでも壇上を降りたい気持ちでいっぱいだった。
『えぇ、それではお待たせ致しました! クラス賞の発表です!!』
「よっしゃ! キタァァ!!」
「なぁ、萬が一にも負けてる可能は……」
「あるわけないだろ? うちのクラスのあの人気、あれで取れないハズが無い!」
三位から発表される、クラスの順位。
三位の発表が終わり、二位の発表が始まった。
『続きまして二位は………二年三組! テンションを売る店!』
「「え?!」」
二年三組は高志達のクラスだった。
まさかの発表に、高志と優一は驚く。
自分たち以上のクラスが、あったなんて知らなかった。
そんな顔で、壇上に上がる由華を見る。
由華も意外そうな表で、壇上に上がる。
「ま、まぁ、秋村のクラスよりは順位は高いだろうし……大丈夫だろ?」
「優一、俺は今のお前の言葉を聞いて、嫌な予がしてきたぞ?」
「なんでだ?」
「何かが立った音がしたからだよ」
「はぁ? 何を意味のわからん事を……どうせ一位は三年のどっかのクラスだろ? 三位も三年だったし……きっと……」
『一位は、なんと一年生のクラス! 一年二組! メイド喫茶!!』
司會者がそう言った瞬間、優一は真っ白な灰になった。
一年二組は芹那のクラス。
壇上にも芹那がメイド服姿で上がって行く。
一何があったのだろう?
自分たちのクラスもかなりの収益だったハズなのに、なぜ負けたのか、高志も不思議に思う。
そんなこんなで、々あった文化祭は幕を下ろしたが、優一の文化祭はここから再び始まった。
「秋村!!」
「あ! 先輩勝ちましたよ!!」
「一何をした!! まさかをう…どあ!」
「の子に何言ってんのよ、馬鹿!」
閉會式が終わり、高志と優一、そして由華と紗彌は芹那の教室に來ていた。
芹那以外に、教室に人はおらず、芹那だけがメイド服姿で教室に居た。
教室に來た理由はもちろん、最終的な収益を聞く為だった。
「すごいな、一年でクラス賞なんて、一どれくらいの収益があったんだ?」
「あ、見ますか? えっと、これが売り上げの集計です」
芹那はそう言って、プリントを高志達に見せる。
そこには三日間合計して、高志達の二倍近い収益額が記載されていた。
「な……ま、まじか……」
高志も驚き、優一ではないが、本當にいかがわしい事をして稼いだのでは無いかと疑ってしまった。
「ちなみにメイド喫茶だったわよね? メニュー見せて貰っても良い?」
「はい、これですけど」
「どれどれ……な、なにこれ! 結構良い値段ね…」
「それでも、皆さん沢山注文していってくれましたよ? 寫真は十枚取っていく人が平均でしたね」
「寫真一枚500円なんだけど……」
由華がメニューを見て驚く。
「なるほど、一日目は男子生徒が多額の金をここに落として、二日目以降は外部から來たおっさんとかが、多額の金をここに落としていったんだろうな……よく見ると校ランキングで上位5人にってた子も居るし、平均的に秋村さんのクラスは可い子が多か……紗彌?」
「なに?」
「なんで、俺の足を地味に蹴るんだ? 痛いんだが……」
「……別に…結構の子チェックしてるんだなって思っただけ……」
高志はそんな紗彌を見て、直ぐに紗彌の気持ちを理解し、誤解を解く。
「ち、違うんだって、折角紗彌が一位だったから、それ以外の子はどんな子なんだろうって思って、見てただけで……」
「じゃあ、高志の中で私は?」
「も、もちろん……一番だよ……」
「おい、そこのバカップル! イチャつくならよそでやれ!」
復活した優一が、高志と紗彌に言い放つ。
そして、優一は芹那の方を見て、大きく溜息を吐き、芹那に言う。
「負けは負けだ……」
優一は意外にも、潔く負けを認めた。
しかし、芹那は……。
「……やっぱり、約束は無しにしましょう………」
「な、なんでだよ! お前俺に勝つために、文化祭中頑張ったんだろ!?」
「そうですよ……なんとしてでも勝って、先輩と付き合いたかった……でも、八重先輩と宮岡先輩を見て、気がつきました……そんな勝負で勝ったから付き合っても、長くは続かないだろうなって……」
芹那は高志と紗彌を見て、笑顔で言う。
優一は、どこか複雑そうな表で、話しを聞いていた。
由華に至っては「この子は良い子だ」と良いながら、涙を浮かべていた。
「だから、先輩! これからは清々堂々、正面からぶつかって行きますので! 早く私を好きになって下さいね!」
「………」
ニコニコ笑いながら言う芹那に、優一は何も答えなかった。
何かを考えるように、頭に手を當て、優一は溜息を吐く。
そして芹那に言う。
「……なら、最初から勝負なんて言うなよ……俺、お前と人なんかになりたくなくて、頑張ったんだぞ……その上負けて……」
「お、おい! 優一、いくらなんでもそれは……」
優一の言葉に、高志は止めにる。
しかし、優一は言葉をやめない。
「なぁ、お前も二日目のグランド、あの會場に居たよな?」
「……はい」
「俺の過去を知ってどう思った?」
「……正直、わかりません」
「だろうな……俺も、俺をわかってくれるやつなんて、早々居ないと思ってるよ……一人馬鹿を除いてはな……」
優一はそう言って、高志を見る。
「でも、私はそんな優一先輩も知りたいって思いました!」
「……簡単に言うなよ……」
「はい、だから私は約束を無しにしてしかったんです」
芹那の考えが、高志はなんとなく分かり始めた。
それはこの場に居る、他の三人も同じだった。
「だって……私は優一先輩を何も知らない……それなのに私は一方的に好意を向けて……貴方を困らせて……だから、まずは友達になって、貴方を知りたい! そして……私の事を……好きになってしいんです」
「………」
優一はその話しを黙って聞いていた。
高志は、これ以上は自分たちは居るべきでは無いと思い、紗彌と由華を連れて教室を後にする。
「……宮岡が高志に告白したとき……高志は宮岡紗彌の事をあんまり良く知らなかったんだ」
「え……あんなに仲が良いのに…ですか?」
「あぁ、俺にも相談してきたよ……このまま付き合って居ても良いのかって……でも、最近高志は宮岡の事を知って、本當に好きになって……今は、見てるこっちが恥ずかしくなるくらい、ラブラブだ」
「そ、そうなんですか……」
「誰だって、好きな相手の事をよく知らないよ……多分……」
「え……」
「だって、そうじゃなければ、世の中のカップルはみんな上手くいってる。知っちまうから、みんな別れちまったりするんだ」
「………」
優一の言葉を芹那は黙って聞いていた。
「俺は……君に知られるのが恐いんだ……」
「な、なんでですか!」
「君は、俺にとって始めて、好意を向けてくれた子だから……知られて、嫌われるのが恐い……」
優一はいつになく弱気な様子で、芹那に言う。
そして、決定的な一言を芹那に発した。
「もう、俺を好きでいるのはやめた方が良い……多分、君は俺を知って後悔する」
その言葉に、芹那は涙を流した。
そして、芹那は優一に抱きつく。
「嫌いになんてなりません、私を信じて下さい!」
「!?」
優一は芹那のその言葉に、昔の高志を思い出した。
「もう決めましたあ! わたしは絶対貴方を嫌いになんてなりません! 絶対に振り向かせて見せます! 言っておくけど、私は苦しいのとか、痛いのが好きなドMですから! 粘り強いですから!」
優一はそんな芹那の言葉に、自分の考えを改める。
好きと言われた時も、自分の過去を知った時、芹那は自分を好きでいてくれるだろうかと、優一は悩んだ。
元は不良で、三十人を病院送りにした事もある。
そんな事を知ったら、誰だって離れて行く。
彼もそんな人間ではないだろうか?
そう思っていた優一の考えは、彼の真っ直ぐな思いにかき消えた。
「……じゃあ、やってみろよ……」
「はい!」
笑顔で言う優一に、芹那は笑顔で答える。
しかし、優一の中では答えはもう決まっていた。
(この子なら、自分をわかってくれるかも知れない)
優一がそう思った瞬間。
「じゃ、じゃあ、遠慮無く私を蹴って下さい! それでもわ、私は離れませんよ~。な、なんど蹴られてもしがみついちゃいますから……はぁはぁ……」
「………やっぱ、わかってくれないかも……」
がっくり肩を落とす優一。
本當にこの子に決めて良いのだろうか?
などと、優一は早くも自分の考えを改め始める。
「さ、さぁ……はぁはぁ……は、早く蹴って下さい! ご、ご主人様~」
「やめろ! 誤解されるから! まだ學校に生徒居るから!! あぁぁぁ!! 高志ぃぃ! 助けてくれぇぇぇぇ!!」
こうして優一の文化祭は幕を閉じたのであった。
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