《草食系男子が食系子に食べられるまで》第12章 中編2 草食系とお嬢様

一階ではいまだに、紗子と里奈が親子喧嘩の真最中なのだろう。ドタバタとやかましい騒音が度々聞こえてくる。當分は終わりそうにないなと、雄介は心で思いながら現在部屋に居る子三人の様子を見る。

「う~ん、雄介の匂いがする~」

「こういう本読むのね……」

「雄介さんの部屋……雄介さんが過ごす部屋……雄介さんが……」

相変わらず俺のベットに寢っ転がって布団の匂いを嗅ぐ加山。本棚をしながらぶつぶつと何かをつぶやく沙月。大人しく座っていると思いきや、何やら顔を真っ赤にしながらブツブツと何か思いに耽っている凜。 雄介はため息をついて、早く帰ってしいと願っていた。

「お前ら、何しに來たんだよ」

「雄介が來いって言ったんじゃなかったっけ?」

「冗談上手くなったな、加山……」

「優子、違うわ。この前のお詫びをしてもらいに私達は來たのよ。だから何を言っても彼は斷れないはずよ」

「沙月さん、確かに申し訳ないと思ってますけど、なんでもは無理です!」

「私は、雄介さんの部屋にれたのでもう満足です!」

「凜ちゃんは、ほんとに何しに來たの……」

呆れつつも、雄介はこの前のお詫びをしなくてはという気持ちは確かにあった。勝手に空気を悪くしたのは事実だし、理由を何も言えないからこそ、しっかりお詫びはしようと思っていた。

「詫びって言っても、俺は何をすればいいんだよ?」

「そうね、じゃあ私に対する敬語を辭めてもらえるかしら? 私達は同い年でしょ?」

「そ、それもそうだな……」

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雄介は沙月に対して、どこか苦手意識があった。自分よりも冷靜でクールな彼近に居る人間の中で一番大人っぽかったから、沙月に対しては敬語を使っていた。今からフランクに話せと言われてもし難しいと雄介は思っていた。

「じゃあ、次は凜ちゃんね」

「え! 良いんですか! 私は、もう部屋にれただけでもう満足ですよ!」

何やら興した様子で話す凜に、雄介は苦笑いする。しかし、凜に迷をかけたのも事実なので、雄介は凜の願いも聞くことにした。

「じゃ……じゃあ、お言葉に甘えて……」

申し訳なさそうな様子で話し始める凜。雄介は、彼ならそこまで変な事は言わないだろうと、心でホっとしながら凜の言葉を待った。

「今度私と二人でデートしてください!」

「え?」

思いもかけない凜の言葉に、雄介は目を丸くして間の抜けた聲を出してしまう。あれだけ申し訳なさそうにしていた割には、外と面倒くさい願いに雄介は顔を引きつらせる。第一、雄介は里奈以外のとは、あまり二人で出かけたくはない。理由は簡単で、雄介の調が悪くなった場合に、面倒なことになってしまうからだ。

「いや…あの…ほかの事じゃダメかな?」

「やっぱり、私と二人は嫌ですか……」

「いや、そういうわけじゃなくて…ほら、もしも一緒に出掛けて俺が調悪くなったら、凜ちゃんに迷がかかるし……」

「でも、雄介さん。最近私の家に泊まった時に一緒にお風呂ったけど、大丈夫だったじゃないですか?」

「一緒にお風呂!?」

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大聲を上げたのは加山だった。加山もその日は慎の家にいたのだが、雄介の風呂に凜がしたことは知らなかった。加山は寢転がっていたベットから飛び起きて、雄介の方を向いた。

「私とはってくれなのに!! ずるい! 一二人でお風呂で何をしたの?」

「なんもしてない! 凜ちゃんが勝手にしてきただけだ! すぐに俺は逃げたんだ!」

雄介は加山の質問に答えるが加山は納得していない様子で、口をとがらせ雄介をジト目で見ている。

「で! 雄介さん! 結局私のお願いはどうなるんですか!」

「そんなのダメに決まってるでしょ? 彼の私を差し置いてデートなんて」

「加山、ちょっと黙れ」

凜の質問に答えたのは、雄介ではなく加山だ。雄介はそんな加山に呆れながら、凜の頼みをどうしたものかと考える。

(そういえば、凜ちゃんの言う通り、あの時はで抱き著かれたにもかかわらず、俺のはなんともなかったな……いつもなら倒れて意識を失うレベルのはずなのに……)

あの時の狀況を思い出す雄介。雄介は試してみる価値はあるのかもしれないと、凜の頼みを聞きれることにした。

「わかった良いよ」

「え! 本當ですか?」

(もしかしたら、になれる良い気會かもしれない。それに、凜ちゃんだったら加山と違って、くっ付いてきたりはしないだろう)

「じゃあ、今度暇な日にでも連絡するよ」

「はい! 楽しみに待ってます!」

「む~、私は? 私のお願いも聞いてくれるんでしょ?」

加山が顔を膨らませて雄介に聞いてくる。雄介は一番面倒なのが來たと思いながら、顔をゆがませる。

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「で、お前は何なんだよ?」

「じゃあ、私と付き合……」

「嫌だ」

「まだ途中なんだけど!」

言葉をさえぎられ、雄介に文句を言う加山。雄介は加山が言い終える前に何を言うのか予想が出來ていた。

「お前の言いそうなことなんて予想できるよ。だから先に拒否しただけだ」

「む~、分かったわよ。じゃあ……加山って呼ぶのやめてよ」

「はい?」

雄介は加山の言葉に首をかしげる。

「だから、雄介って私の事だけ苗字で呼ぶじゃん。だから私の事も優子って呼んでよ」

「あぁ、そういう事。まぁそんなんで良いなら……」

雄介がそういうと、加山は目を爛々と輝かせて喜ぶ。

「やった! せっかくだから呼んでみてよ!」

「なんで、わざわざそんな事しなきゃいけないんだよ!」

「良いじゃん、せっかくだしさ!」

「斷る! なんで用もないのに名前を呼ばなくちゃならないんだ…」

「それなら、名前を呼ぶくらい簡単な事じゃん! さぁ!」

ベットから降りて、雄介の傍によって來る加山。雄介は知っている。こうなった加山は、名前を呼ぶまで頑としてかない事を…… 他の二人が止めてくれないかと、凜と沙月の方を見ると、凜は雄介のベットを見つめながら顔を赤くしてブツブツ何かを言っている。沙月は部屋の中を興味深々の様子でしている。 自分で何とかするしかないと悟った雄介は、ため息を一つ吐き、あきれた様子でつぶやいた。

「……優子」

「キャー!! 大好きだよ雄介!」

「や、やめろ! 抱きつこうとするな!」

加山は雄介から名前で呼ばれた事がうれしかったのか、雄介に抱き著こうとする。雄介はそんな加山から逃れるために廊下の方に避難する。

「バカ! あんま近づくな!」

「ああ、なんで逃げるの~」

「お前に近づかれると合が悪くなんだよ! しは察してくれ!」

優子、そういわれた事が相當うれしかったのだろう。加山優子はいつも以上に雄介に対して積極的にアプローチする。狹い廊下で、雄介は優子から逃れるのに必死だった。そのせいか、階段を上がってくる足音には気が付かなっかった。

「ゆ~う~く~ん……」

「ん? あ、里奈さん。落ち著きましたか?」

優子から逃れた一心で、雄介は里奈の方に駆け寄る。里奈の前では優子もあまり大膽な事は出來ないだろうと雄介は思っていたからだ。しかし、雄介は気づいていなかった。姉がいつも通りでは無い事に…

「ユウく~ん、どうかしたの~?」

「いや、いつもの通り加山が……」

「あ! 名前!」

「慣れないんだよ! 仕方ないだろ!」

雄介が優子と言い爭いをしていたその時だった。里奈は雄介のを摑み、どこかに引っ張っていこうとする。

「あ、あの? 里奈さん?」

あまりにも強い力で腕を摑まれた雄介は驚き、里奈の方を向いた。何やら里奈から黒いオーラが出ているような気がして、雄介は若干の恐怖を覚える。 そして、里奈はゆっくり口を開いた。

「ユウ君! もうこの家は駄目だわ! 二人で駆け落ちしましょう!!」

「何があったんですか!! 紗子さんと一何がぁぁ!」

話をしている間も里奈の摑む力は緩むことはない、次第に力は強くなっていく。

「さぁ! お姉ちゃんとこの家を出て二人で暮らしましょう! 大丈夫、お姉ちゃんが一生養ってあげるから!」

「待ってください! どうして急にそうなるんですか?!」

「この家を出れば、私たちは兄弟じゃなくなるわ! そうすれば結婚も……」

うっとりとした表を浮かべながらも、雄介の腕を摑む力は緩まない。そんな雄介と里奈の姿を見ていた優子は、里奈と雄介を引きはがそうと、間に割ってっていった。

「ちょっと、お姉さん! 何やってるんですか!」

「出たわね、私の宿敵! 今回は引けないわ、必ずユウ君を連れだして、二人で明るい家庭を築かなきゃいけないのよ!」

「何が明るい家庭ですか! それは私と雄介が築くので、安心して下さい!」

「どっちとも築かねーよ!!」

雄介は二人に腕をつかまれてきが取れない、加山に腕を摑まれている影響なのか、雄介の調はどんどん悪くなってきていた。 そんなところに、またしても階段を上がってくる人影が一つあった。

「まったく、何やってんの」

「さ、紗子さん……たすけ……」

階段を上がってきたのは紗子だった。呆れた様子でめている三人を見つめながら腕を組んで仁王立ちしている。雄介に助けを求められ、紗子は雄介と二人を引きはがす。

「まったく、雄介がもう瀕死じゃないの」

「もう、優子ちゃんが離さないから……」

「お姉さんが変なこと言って、雄介を離さないからじゃないですか!」

廊下での騒ぎに気が付いたのか、雄介の部屋のドアから沙月と凜が顔を出して様子を見ている。

「はぁ、なんだか私が居ない間に、雄介がずいぶんモテモテになったみたいね」

「……べつに…モテてない……です…」

「ハイハイ、とりあえずみんな下のリビングに來ると良いわ。そっちの方が広くて良いでしょ? それにお客様にお茶を出したいし」

紗子の提案により、二階に上がっていた一同は一階のリビングに移した。一階では慎がお茶を飲みながらお菓子を食べてくつろいでいた。

「お前、何してたんだよ?」

「ん? あぁ、お前の姉と母親の親子喧嘩を見てたよ……」

雄介はさっきの影響で若干フラフラになりながら、慎の隣に座った。

「俺の苦労がすこしはわかっただろ?」

「まぁ、そんな話は置いといてだ。お前って見合いすんの?」

「はぁ!? なんでそんな話になってんだよ!」

慎が周りには聞こえないように、雄介の耳元でささやく。雄介はそんな慎の質問に、驚きつつも小聲で慎に聞き返した。

「いや、二人のケンカ中にそんな話を聞いたからさ、たしか相手はお前の母親の知り合いの社長さんの娘だって聞いたが?」

そこで雄介はこの間、紗子から頼まれた話を思い出す。酷い男嫌いの娘さんと會ってしいと言われており、雄介はその話を引きけたのだ。

「あぁ、それは見合いじゃねーよ。ただの顔合わせみたいなもんだ」

「そうなのか? 俺にはまたお前の周りに一人の子が増えるような気がするんだが?」

「なんでそうなんだよ……」

雄介と慎がこそこそと話をしていると、沙月が興味を持ったのか、二人の側に寄り話を聞こうと耳を澄ませてきた。それに気が付いた雄介と慎は話を終わらせ、沙月の方を向いた。

「なにかようですか?」

「男二人で何をこそこそしているのかと思って」

「まぁ、気にすんなって、それより加山と雄介の姉さんがまたなんか言い爭ってるぜ」

慎が沙月の気を自分たちの方から、今まさに口げんかの真っ最中の加山と里奈の方に向けようとする。

「あっちはあの人が居るから大丈夫よ」

そういって沙月は、雄介たちの方に向き直る。雄介と慎は誰の事かと思い、優子と里奈の方を見ると、二人を抑える紗子の姿があった。雄介と慎は「あぁ、なるほど」と思い、視線をもとに戻す。

「で、なんの話?」

「いや、太刀川さんよ。雄介の周りにまたしてもの子が増えそうなイベントが発生しているんですよ」

「まぁ、山本さん、それは本當?」

「そのわざとらしい口調を今すぐやめろ! あと、慎! 俺の予定にそんなイベントはない!」

雄介が二人に文句を言っている間に、慎は沙月に事を説明する。

「なるほど、天然のモテ男君の事だから、そろそろお嬢様ポジションの獲得に出てくるかと思ったけど、まさかこんなに早いなんてね……」

沙月はごみを見るような目で、雄介を見つめる。

「ちょっと待て! 俺の話を聞いてくれよ!」

雄介はそういうと、二人に事の経緯を説明し始めた。お互いに男恐怖癥と恐怖癥で、互いに似た質だから、お互いのリハビリになるかもしれないから會うだけで、別にお見合いというわけでは無いと……

「そういう事なら良いけど、一言だけ言っておくわ」

「なんでしょうか?」

「優子泣かせたら……」

沙月はいつもの無表のまま、雄介を見つめる。若干の沈黙の後、沙月はようやく口を開いた。

「……殺す」

((目がマジだ……))

雄介と慎は沙月の言葉に恐怖を覚え、冷や汗をかくのをじた。いつも無表で何を考えているかよくわからない沙月だが、優子の事になるとを表に出すことを雄介は知っていた。

「まぁ、というのは半分冗談で」

「半分かよ……」

「貴方が嫌いで優子と付き合えないのは知ってるし、はっきり斷ったのも知ってるけど……その質が治ったら、あの子をちゃんと見てあげて」

「あ、あぁ……」

沙月の真剣だと思われる表に、雄介は歯切れ悪く答える。雄介自も考えてみた事はあった。もしも自分が普通の高校生で、優子から告白されたらどうしたのかを__ しかし、わからなかった。それは當然で、今の雄介は普通じゃないからだ。

「なんでも良いけど、あれは止めなくていいのか? 二人が三人に増えてるぞ」

慎がさす方向を見ると、優子と里奈のほかに紗子までもが參戦し、凜は一人でその三人を止めようと闘していた。

「なんであんなことになってんだ……」

雄介と沙月は三人を止めにり、なんとか三人は落ち著き、その場は落ち著いた。

「はぁ、なんだし心配になってきたわ……」

「今更ですか、紗子さん……」

紗子はソファーに座って頭を抱えて悩んでいる。雄介は早く気づいてほしかったと思っていたのだが、ようやく気付いてくれたようで安心した。

「なんだか、一向に雄介の癥狀が回復しない理由が分かった気がするわ」

「わかって貰えたのなら、なるべく余計なことはしないでください…」

そもそも、紗子と里奈が変なことを言わなければ、こんなにややこしい事にはならなかった気がする、雄介は聲には出さないが、心の中でそう思っていた。

「まぁ、の子が嫌になったからって、同に行くのはやめて頂戴ね…」

「大丈夫です。絶対にないですから、俺と慎を互に見るのはやめてください」

まるで関係を疑うかのような視線で、紗子は雄介と慎を互に見る。 そんな視線を向けられ、雄介と慎はお互いに距離をとった。

「その可能はありそうで怖いのよね……」

「確かに、お兄ちゃんと雄介さんってすごく仲いいですよね……」

紗子の言葉に反応して、優子と凜が疑いの目を雄介と慎に向ける。里奈も鋭い目つきで、慎を睨みつけている。その様子に慎は恐怖をじ、目線をそらしていた。

「はぁ~、あの話はけてきて正解だったかもね……」

「紗子さん! その話は今しなくても!」

紗子が話そうとしている容に、いち早く雄介が気が付き、紗子の言葉をさえぎる。雄介の行に不信を抱いたのか、優子は紗子に何を言いかけたのかを尋ねる。

「どうかしたんですか?」

「ん? 実はね……」

「紗子さん!」

紗子は雄介を無視して、昨夜の話を皆に説明し始めた。里奈は話を知っていたからか、常時不機嫌そうに話を聞いていた。

「はぁ…またライバルが……」

「出來そうな予ですね…」

話を聞き終えた凜と優子が口々に言う。慎といい、この二人といい、さっきから何を言っているんだと、心では疑問を抱いていた。

「早速次の日に會う事になってるのよ~、優子ちゃんと凜ちゃんには悪いけど、これは爭奪戦になるかもね~」

「大丈夫です! 私負けません!」

「私も、優子さんにも負けないです!」

紗子の一言に、凜と優子は激しく反応する。雄介は「何が爭奪戦だよ…」と呆れながらその様子を見ていた。 そんな様子に不満を抱く人が一人いた。

「ちょっと! なんで私を置いて話を進めるのよ! ユウ君はお姉ちゃんのものです!」

不満を抱いているのは最近何かと機嫌の悪い里奈だ。紗子が帰って來てからというもの、更に機嫌が悪くなっているような気がすると、雄介は思っていた。

「あんたはさっさと弟離れなさい、このままじゃ雄介の貞が心配よ」

「私だって心配よ! どこぞのにユウ君がされないかがね!」

里奈は優子と凜を見ながら言葉を発した。意味を理解した優子と凜は里奈を睨む。周りは「また始まったよ」ともう當たり前かのように、その様子に慣れていた。そのせいか、沙月と慎は、出されたお茶菓子を優雅に楽しんでいる。

「なんでも良いけど、お前らもう帰れよ……何しに來たんだよ……」

そんな中で、雄介ただ一人が、疲労とストレスの限界を迎えようとしていた。

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