《草食系男子が食系子に食べられるまで》第12章 後編21 草食系とお嬢様

「し…仕方ねーな……まぁ、これからも仲良くしてやるよ…」

渡辺は雄介から差し出された手を握り返し、握手ををわす。恥ずかしさから、頬を赤く染める渡辺に、雄介は熱でもあるんじゃないのかと、全く的外れな想像をしていた。

「雄介~」

「ん?」

名前を呼ばれ、雄介は聲のした方を振り向く。そこには、メイド服に著替えてきた優子が立っていた。

「どうどう? メイドさんだよ~」

白と黒のスタンダードなメイド服にを包んだ優子が、雄介の前でポーズをとる、想を求められた雄介は、何も言わず無言で一歩後ろに下がり、優子から距離をとる。

「よし、優子。お前はそのまま俺に近づくな」

「む~、またそんな事言って~、見るくらい別に大丈夫でしょ! ほら!」

「わっ! バカ! 近づくな!!」

「あ! 逃げた!! 想ぐらい言ってよ~」

雄介は廊下に逃げ出し、それを追いかけて優子も廊下の方に消えて行く。殘った渡辺は、先ほど完した看板を見つめてこうつぶやいた。

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「……とりあえず、さようなら…俺の元嫁達」

雄介が初めて異以外から好意を向けられた瞬間であった。そんな一連の流れを見ていた者が一人いた。

「…あいつ……マジか……」

若干顔を引きつらせながら、慎は看板を見つめる渡辺を見て思わず口からそんな言葉が飛び出した。 また面倒な事に、なんて考える慎だったが、心では更に面白くなってきたと、狀況を楽しんでいた。

學園際がいよいよ一週間後に迫った週末。雄介は最近學園祭の準備で、會いに行けていなかった織姫に會いに向かっていた。事前に倉前さんに雄介は連絡をれ、朝からバスで屋敷に向かっていた。

「なんだかんだあって、二週間も會ってなかったなぁ……まぁ、連絡は取っていたが…」

ゲームを通じて、織姫と雄介は連絡を取り合っていた。連絡を取り合うのは大夜で、容は今日は學校で何があったとか、イベントは何処まで進んだかなど、々だった。最近家に行けなかった理由も雄介は伝えており、あまり心配はしていなかった。

「何度見てもデカイなぁ~」

屋敷に到著し、雄介は改めて屋敷の大きさに驚きながら、インターホンを押す。

「お久しぶりです、今村様。どうぞこちらへ」

「倉前さん、お久ぶりです」

いつものように倉前さんが雄介を出迎え、案をしてくれる。

「あいつは元気ですか?」

「あいつ…とは、お嬢様の事でしょうか? 今村様が來なくて寂しがっておられましたよ」

「あはは、冗談が上手ですね倉前さん。あいつとは連絡取り合ってましたけど、そんな様子。微塵もじませんでしたよ」

倉前さんの発言を雄介は笑い飛ばす。織姫の気持ちを一番理解している倉前さんは、雄介の言葉にため息を吐く。 二人でいつものように織姫の部屋に向かう道すがら、一人のメイドが倉前さんのところに小走りでやってきた。

「倉前さ~ん、大変なんです~。すぐ來て下さ~い」

「あらあらどうしたの? 今村様、申し訳ありません。ここからはお一人でも大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ。何回か一人で行った事もありますし」

「そうですか、すいませんそれではお願いいたします。私も後から參りますので」

そういうと倉前さんともう一人のメイドさんは、廊下の奧の方に消えて行った。一人殘された雄介は、さっきのメイドさんの顔に見覚えがあった気がして、しの間その場で考え込んでいた。

「あの人…どっかで……」

気のせいだろうと結論付け、雄介は織姫の部屋に向かった。広い屋敷も何回か來るうちに構造を覚え、今では迷わなくなり、雄介はちょっとした金持ち気分を味わいながら廊下を歩いて行く。 すると、前の曲がり角から誰かが走ってくる音が聞こえた。

「早く戻らないと!」

曲がり角から出てきたのはの子だった。長いブロンドの髪に整った顔立ち、風呂上りなのだろうか、シャンプーのいい匂いが雄介の橫をかすめて行く。 の子は、雄介を見るなり立ち止まって固まってしまった。雄介も初めて見る相手に、一瞬戸い一歩後ろに下がる。

「あ…えっと、俺はこの家のお嬢さんに會いに來たんだけど……君は?」

「い……」

「い?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

の子は何も言わずに、奇聲を上げて一目さんに廊下の奧に消えて行った。

「な…なんなんだ?」

新しいメイドさんだろうか? などと考える雄介だったが、あのの子にも見覚えがあった。

「今日はなんか多いな、そういうの」

見覚えがあるが、誰だったか思い出せない事が二回もあり、雄介は変な気分になる。気を取り直して雄介は織姫の部屋に向かい、いつも通り準備されているドア橫の椅子に座って、話しかける。

「おーい! 起きてるか? 久しぶりに會いに來てやったぞ~。會いはしねーけど……」

大聲で尋ねる雄介、するとしして返事が返ってくる。

「な…なんですか急に!! こっちはさっきまでシャワーを浴びていたんですよ!! 來るなら來るって言ってください!!」

「あれ? 倉前さんには言っておいたし、ゲームの方でもメールしておいたぜ?」

「……あ、來てた」

「見てなかったのかよ……」

部屋の中からカチャカチャとキーボードの音が聞こえてくる。おそらく今確認したのであろう。それと同時に雄介はもう一つ疑問を聞いた。

「そういえば、お前さっき風呂って言ったけど、さっきすれ違たのって……」

「……そうです。私です。男の人を直接見てしまったので、びっくりして逃げ出しました」

「あぁ、そういう事。まぁ、いいや。それよりも今日は何話す?」

「え……」

雄介のさらっとしたけ答えに、織姫は驚く。先ほど、雄介は自分に対して何もしていないのに、織姫は失禮にも悲鳴を上げて逃げてしまった。せっかく雄介が歩み寄ってくれているのに、自分はなんて失禮なんだろうと、織姫は思っており、だからこそ、雄介に尋ねた。

「貴方もわかったんじゃないですか。こんな事を続けても、私はこの家から出られない。普通の生活を送れない。貴方は頑張ってくれているかもしれません。でも……私は、駄目なんです……」

今にも泣きだしそうな織姫。そんな織姫に雄介はそのまま話始めた。

「あー、なんていうか、俺は一度もお前を部屋から出そうなんて考えた事なかったぜ?」

「は……はいぃぃぃぃ!?」

雄介の思いがけない一言に、織姫は大聲を上げる。その大聲は屋敷中にこだました。

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