《草食系男子が食系子に食べられるまで》第16章 新たなる朝5
*
雄介が目を覚ましてから、実に一週間が経過していた。 相変わらず記憶は戻らず、やっと包帯も取れ始め病室に出ることも許された。 雄介はとりあえずやる事が無いので、毎日とりあえず本を読んで過ごしていた。 病室は特殊な個室で、テレビも置いてあり、雄介の病室のある階には他の患者は居ない。
「なんだか閉じ込められてる気分だな……」
そんな事を考えながら、今日も本を読み進める。 今日から面會が許可されるらしく、夕方にもしかしたら誰か來るかもしれない、そう奧澤から言われた雄介だったが、誰が來ようと記憶が無いのだ、全員知らない人と変わらない。
「まぁ、自分がどんな人間だったのか、しは分かるかな……」
そんな事を考えながら、今日も孤獨に読書を進める雄介。 もうそろそろで読み終わりそうというところで、病室をノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
「失禮するよ」
ってきたのは、スーツ姿の背の高い中年男だった。 後ろにはメイドらしき人もついてきており、おそらくどこかの社長か何かだろと雄介は思っていた。 この人も自分の知り合いなのだろうか? そんな考えを浮かべながら雄介は異常な笑顔でぐいぐいベッドに迫って來る男に、若干引いていた。
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「ハハハ! 雄介君大変だったね~」
「は、はぁ……」
「私は星宮徹ホシミヤトオル、君にはすごくお世話になったんだ……」
明るく自己紹介を始める徹。 どこか寂し気な表で俺の顔を見つめる。
「こっちは、倉前恵莉奈クラマエエリナ君。私の家のメイドをしてくれているもので、君は彼の恩人でもあるんだ!」
「はぁ……そう言われましても……まったく覚えてなくて……ごめんなさい」
雄介は、あまりにも話を進めすぎる徹に正直に言い。 會話をしストップさせる。
「あ、あぁすまない……そうだよね……もうしゆっくり順を追って、私と君との関係を教えよう」
病室にある椅子に徹と倉前は座る。 雄介はベットに座りながら、星宮徹との関係を本人から聞いていた。 どういう経緯で出會ったのか、織姫との関係や倉前との関係も聞いたが、やはり思い出せない。
「まぁ、こんなじだよ、私と君の関係は」
「そうですか……あの、倉前さんって言いましたよね?」
「はい……どうかなさいましたか?」
倉前はどこか寂し気な表で雄介を見ていた。 雄介は、倉前と織姫と最近親しくしていたと徹から教えられ、自分がどんな人間だったのか、倉前に尋ねようと思い、倉前に話を振った。
「自分はどんな人間だったのでしょうか?」
「え……」
質問の容に困する倉前。 雄介は知りたかった。記憶を無くす前の自分がどんな格で、どんな日常を送っていたのか、知りたかった。
「そうですね……貴方は凄く優しい方で、お嬢様を変えてくれて……そして……ちょっぴり噓つきでした」
「……」
そう話す倉前はし涙を浮かべていた。 余計に分からなくなっていった。自分がどのような人間なのか、自分がどんな日常を送っていたのか。
「娘も來ているのだが……途中で君に會うのを斷念してしまってね……」
「そうなんですか?」
「すみません……本當は一緒に來るはずだったんですが……」
気まずそうに答える二人。雄介はきっと記憶が無いと知って、何を話せば良いかわkら無くなってしまったのだろうと思い、納得する。 しかし、同時に會ってみたかったとも思っていた。 自分の友達だった人に……。
「あ! すまない、お見舞いがまだだったね、お~いって來てくれ!」
「失禮しま~っす」
そう言ってはってきたのは、おそらく配送業者の人間であろう男が二人だった。 お晝に毎日やっていた、サングラスのおじさんの人気番組で、出てくるような花を部屋に運びこんでくる。
「あ、あの……これは……」
「お見舞いの花なんだが、いささか地味だな……すまないが、倉前君。もっと豪華なを後二、三個注文しておいてくれ」
「かしこまりました」
「いやいや、良いです! 十分ですよ!」
思わず突っ込んでしまった雄介。 そんな雄介に徹はし納得いかなさそうな顔で、注文を取り消すように倉前に指示を出す。 結局大きな花が病室にポツンと置かれ、異様な空気を放ってしまっている。
「あの…お気になさらず……自分は貰っても記憶が無いので……どう謝して良いのか……」
「君に記憶が無くても、私には君への謝の記憶が確かにある! け取ってくれ、娘を救ってくれた君には本當に謝しているんだ!」
必死に雄介に謝を伝えてくる徹。 そんな徹に雄介は若干引きながら恐る恐る尋ねる。
「あの……もしかしてですけど、どこかの會社の社長さんだったりしますか?」
「おぉ! もしかして記憶が……」
「いえ、なんかそんなじがしただけです」
「そ…そうか……」
雄介の問いに一瞬期待した様子で目を輝かせる徹であったが、すぐにその輝きは消え失せた。
「私は一応、星宮財閥の社長をやっていてね……」
「やっぱりですか……」
(記憶を失う前の俺、一どんな友好関係をもってるんだ……)
若干自分の記憶をたどるのが怖くなってきた雄介。 刑事に財閥の社長が、知り合いに居る高校生なんて、正直気味が悪い。雄介はそう思っていた。
「あぁ、忘れていた、これはないがお見舞い金だ。院費に當ててくれ」
「あの……高校生に渡すお見舞いの厚さではないと思うんですが……」
徹が雄介に手渡した封筒は文庫本二冊分ほどの厚みがあり、封筒から札束がはみ出していた。
「そうか? ないくらいだと思ったのだが……」
「いや、け取れませんよ、お気持ちだけで十分です!」
雄介は札束を徹に無理やり返す。 徹はやはり不服そうな顔で渋々札束をけ取った。 隣の倉前はそんな二人を見て笑っていた。
「良かったです……」
「はい?」
「貴方は、記憶が無くてもお優しい方で、良かったです」
倉前が、雄介に向かって、ほほ笑みながら言った。 しは安心させる事が出來たのだろうか? そうだと良いなと雄介は思っていた。
「じゃあ、雄介君最後に一つだけ言いたい事がある……」
「な、なんでしょうか……」
徹だけはなんだか苦手な雄介。顔を近づけて真剣な表で何かを言おうとしている徹から、若干をそらし、言葉を待った。
「今度からは、是非お父さんと呼んでくれ」
「え?」
なぜか瞳を輝かせながら言う、徹の言葉の意味が雄介は理解できず、首を傾げて考える。 徹と倉前はそれだけを言い殘して、病室を後にしていった。 雄介は一人になった病室で、頭を抱えて悩んでいた。
「記憶戻るのが、怖い……」
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