《草食系男子が食系子に食べられるまで》第17章 帰宅と登校

皆がお見舞いに來た三日後、雄介は無事に退院していた。 の傷が治り、に異常も無い事から、記憶の方は後は日常生活に戻り、徐々に取り戻して行こうという奧澤の判斷だった。

「退院おめでと、記憶の方はゆっくり思い出せばいい、あまり無理はしない事だよ」

「はい、ありがとうございます」

退院の日、雄介は病室の玄関ホールで奧澤と話をしていた。 迎えに來るはずの紗子が遅れており、今はそれを待っている狀態だ。

「……しかし、君は々な人間にされているようで安心したよ」

「確かにそうですね……昔の俺は、どんな人間だったのか……」

「無理に思い出す必要はない、記憶というは不確かだ……すぐ忘れたり、何かをきっかけに思い出したりもする。焦らずゆっくりで良い……」

「でも、俺は知りたいです……自分を…なんでこんな事になってしまったのか……」

奧澤は雄介の言葉に目を閉じ、眉間にシワを寄せて考え込む。

「……忘れていた方が、幸せな過去もあるのかもしれないな……」

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「何か言いましたか?」

「いや、なんでもないよ。それよりも來たようだよ、それも大勢で」

雄介は奧澤が指さす方を見る。 そこには紗子と里奈、玄の他に、慎や凜、堀や江波と言った雄介の友人も居た。 しかし、そこに優子と織姫は居ない。 雄介は無意識にその二人が居ないのを確認し、安心する。 病室で二人から告白された雄介は、次はどんな顔をして二人に會えばいいものかと悩んでいたからだ。

「やっと退院か、でも無理すんなよ」

「ありがとう、山本君」

「……その呼び方やめてくれ、慎で良いよ。なんだかお前にそんな呼び方されると蟲唾が走る」

「君は酷いな……」

雄介に対し、記憶を無くす前と同じ態度をとる慎。 そんな慎の思に気が付いてか、雄介は文句を言うも表は穏やかな笑顔だった。

「雄介さん、退院おめでとうございます!」

「ありがとう…えっと、慎の妹の凜ちゃんだったよね。験勉強で大変な中ごめんね」

「いえ! 息抜きも必要なので!」

元気よく答える凜に雄介は笑顔でお禮を言う。 そんな純粋な彼の記憶さえも忘れてしまっている事が、雄介は申し訳なかった。

「今村、もしよかったら、明日休みだけど學校行ってみないか? 學校までの道のりとかも忘れてるだろ?」

「そう言うのも忘れるものなの? まぁ、堀にしてはいい案かもね」

そんな提案をしてくる堀と江波に、雄介は「是非お願いするよ」と、笑顔で答える。 そして、雄介はお見舞いに來た日から気になっていた事を二人に尋ねる事にした。

「二人は付き合ってるの?」

「「はぁ!?」」

聲を上げて、雄介に聞き返す。 その様子から、雄介はまずい事を聞いたかな? と思いながらも言葉を続ける。

「い、いや…二人とも仲良さそうだし……もしかしてと…」

「…今村、記憶が無くても言って良い事と悪い事があるわ……私がこんなバカとなんてあり得ない」

「なんだと! こっちだって願い下げだ! 彼しいが、お前で妥協するほど俺だって困ってねーよ!」

「な…妥協ってどういう意味よ!」

雄介の落とした弾によって、二人は言い爭いを始めてしまった。 聞かなきゃ良かった、そう思いながら雄介はそんな堀と江波を見ていた。

「なんでも良いけど、し靜かにしてくれるかい? 一応ここ病院だから」

「「す、すいません」」

奧澤に注意をけ、二人の罵り合いはそこで終了する。

「先生、ありがとうございました」

「紗子さん、玄さん。焦らず、今は雄介君との時間を出來るだけ大切にして下さい。寄り添い、會話をするだけも人は考えを変えます」

「はい…本當にお世話になりました」

雄介の両親は奧澤に深々お辭儀をする。

「大変なのはこれからです。私も協力しますから、頑張りましょう」

雄介達は奧澤に別れを告げ、病院を後にする。 病院を出た一同はこの後の事を話していた。

「皆、今日暇なら家に來る? 雄介の退院祝いするから、馳走を用意するわよ」

「良いんすか! じゃあ俺はお言葉に甘えて……」

「あんたはホントに、遠慮手ものを知らないのね……まぁ、私も行くけど」

「お前も一緒だろうが!」

紗子の提案に、皆が賛同し、一回解散したのちに今村家に集合する事になった。 皆と別れた今村家の一同は、し気まずい空気だった。 雄介は記憶が無く、紗子や玄とどう接して良いか分からず、里奈は里奈で、獲を狙う狼のような視線を雄介に向け続けており、雄介の心中は非常に複雑なだった。

「家に帰ると言っても、雄介にとっては他人の家にしか思えないだろうね…」

「そ、そうですね…家の事も覚えていなくて……すいません」

「謝らなくても良いさ、ゆっくり思い出せばいい」

車を運転しながら、玄は雄介に笑顔を浮かべて穏やかな口調でそういう。 病室以外の景を見ていなかった雄介にとっては、外の風景すべてが新鮮だった。

「あの公園、良く二人で遊んだんだよ?」

「そう…なんですか…」

里奈が窓の外を公園を指さしてそう言うが、雄介は何も覚えていない。 自分が育った街を見ながら、雄介は何か思い出せないかと考えるが、何も思い出せない。 景を見ていたら、家に到著し、雄介は車から降りて自分の育った家をボーっと見る。

「……ここが」

自分が育った家のはずなのに、やはり何も思い出せない、本當に自分の家なのかと言う確証さえも雄介には無かった。

「ここが我が家だよ。僕は最近あまり帰れて無かったけど……」

「忙しくて、家を空けすぎた私達にも問題があったのかもね…」

家についただけだというのに、既に空気はどこか重たい。 雄介はそんな空気に耐え切れず、話題を切り替え、二人に尋ねる。

「そ、そう言えば、自分の部屋は在るんですか?」

「いえ、無いわ…」

「え?」

答えたのは紗子や玄ではなく、里奈だった。 里奈は真剣な表で雄介に話始める。

「実はね、ユウ君と私の部屋は一緒なの」

「そ、そうなんですか?」

兄弟の部屋が一緒というのはよく聞く話しだが、雄介と里奈は年頃の男だ。 本當にそうなのだろうか? と雄介は半信半疑で里奈の話を聞いていた。

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