《甘え上手な彼2》第20話

夏休みも中盤に差し掛かった今日この頃。

高志は土曜日の晝間から、クーラーの効いたリビングでテレビを見ていた。

珍しく紗彌と一緒では無く、高志はスマホゲームをしながら暇をつぶしていた。

「暇だ……」

「そうだな……」

現在の八重家には、高志と高志の父しか居ない。

高志の母は紗彌と紗彌の母と共に買いに行ってしまい、今は家に男しか居ない。

高志の父はリビングのソファーで新聞を読んでいた。

「暇だな高志」

「そうだね父さん」

「たまには男同士で話しをしようじゃないか」

「いきなりどうしたよ?」

「お前が紗彌ちゃんとイチャついてばっかりで、さっぱり會話をしていないからさ」

「そう言われても話すことある?」

「ない」

「じゃあ、言うなよ……」

「そうは言っても暇じゃないか……そうだな、確か紗彌ちゃんのお父さんも暇しているだろう……ちょっと行ってくる」

「え?!」

高志は父の言葉に驚き、スマホから目を離して父を見た。

「どうした?」

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「いや……あ、あそこのお父さんは……ちょっと特殊らしいから……」

「特殊? お前は何を言ってるんだ? そうだ、あっちが子だけなら、こっちは男同士で出前でも頼んで飯でも食おう」

「それは絶対やめた方が良い!」

高志は父の提案を全力で否定する。

高志の父はなぜ息子がここまで自分の提案を否定するかがわからず、首を傾げる。

「なにかあったのかおまえ?」

「まぁ、あったというか……見てしまったというか……」

「何を見たんだ?」

「人の狂気を……」

「うちの裏手にはどんな家族が住んでいるんだ……」

高志の言葉に父は険しい顔で答える。

しかし、高志の父にも考えがあった。

息子の彼と言うことで、高志の両親は裏手の奧さんとは流があっても、旦那さんとは流が無かった。

高志の父親は家族ぐるみで仲良くなりはじめているのだから、旦那さんとも是非仲良くなりたいと思っていた。

「じゃあ高志はここで待ってなさい、私が一人で行ってこよう。確かに娘の彼氏とその父親で急に尋ねたらあっちも困るだろう」

「いや、そういう意味じゃないんだけど……」

「とにかく行ってみるよ、じゃあ高志は適當にお晝食っておいてくれ」

「どうなっても知らんぞ……」

高志の父親はそう高志に言い、家を出て裏手の宮岡宅に向かった。

「はぁ……」

宮岡宅では紗彌の父親が、一人で寂しく留守番をしていた。

昔は家族で休日を過ごす日が多かったが、最近は一人で過ごすことが多い紗彌の父親。

一応趣味も持っているが、その趣味というのも紗彌の寫真を撮ることなので、紗彌が居ないと意味が無い。

「退屈だ……」

溜息をつきながら紗彌の父はカメラのレンズを拭く。

そんな時だった、家のチャイムが鳴り玄関に向かった。

「はーい、どなたで……って、あなたは」

「どうも、裏の八重です。こうしてお話するのは始めてですね」

ドアを開けると、そこには高志の父が居た。

紗彌の父親は若干驚きつつも、大人の対応をする。

「あぁ、いつも妻と娘がお世話になっております」

「いえいえ、こちらこそ。お互いに房が不在ですから、よろしければ出前でも取って一緒に飯でもどうですか?」

高志の父からの提案に、紗彌の父親は頭を悩ませる。

自分にとっての敵(高志)の父親と食事というのは、どうしても考えてしまう。

もしかしたら上手く言いくるめられてしまい、そのまま二人が籍してしまうのではないかとまで考える。

考えた末に紗彌に父親は答えを出す。

「なんと言われても同意の判子は押しませんよ!」

「えっと……なんの話しでしょうか?」

高志の父は、先ほどの高志の話をし思い出した。

高志の父の名前は勲(いさむ)。

紗彌の父の名前は一(こういち)。

と互いに自己紹介を済ませ、二人のお父さんは宮岡宅で壽司を食べながら、ビールを飲んでいた。

「いやぁ~それにしてもいいですかね? 真っ晝間っからビールに壽司なんて!」

「何を言いますか勲さん! 共は今頃外で味いを食っているんです! 私たちもたまの休みくらい、豪勢に行きましょう!!」

「それもそうですな!」

酒のせいもあってか、二人はだいぶ意気投合していた。

顔を赤くしながら、二人は互いに名前で呼び合い、最近の紗彌と高志の話をして盛り上がっていた。

「勲さん、私はね! 紗彌が可くて可くてしかたないんです!!」

「話しを聞いていれば、大察しはつきますよ! この親馬鹿~!!」

「それは私にとっては褒め言葉ですよ!」

「「アハハハ!!」」

互いにくだらない話しをしながら、二人は酒を飲み進めていく。

「悪いですけど、娘は誰にも渡しませんよ~」

「お! 言いますね~、まぁ正直私も高志に紗彌ちゃんはもったいない気がするんですよ! 私はあんな暴君が妻なのに……」

「でしょう!? 紗彌たんは良い子なんです!! その上可い!! うちの嫁以上に!!」

「最近の若い子にしてはしっかりしていますよね? いやぁ~出來たお子さんで!」

「そうなんです! 直ぐにフライパンで毆ってくるうちの暴力嫁とは違うんです! 天使なんです!」

互いに紗彌を褒め、互いに自分の嫁の愚癡を言う二人。

酔っ払っているためか、二人は調子に乗ってどんどん愚癡を溢す。

「この前なんてうちの妻が私になんて言ったと思います? サラリーマンは休みがあって良いわね、専業主婦に休みは無いのに………って酷くないですか!」

「わかります! 平日に頑張って働いて、休日に家でを休めて何が悪いのか!」

「給料持ってきてるのは私達なのに……家での扱いは酷いし……」

「本當にそうですよね! 私だって紗彌たんと休日はれあいたいのに!!」

「それに関してはうちの息子がすいません……」

どんどん盛り上がる二人。

そんな二人は気がつかなかった。

家のドアの鍵が開いた音に……。

「嫁が可いのなんて、結婚後の數年ですよねぇ?」

「そうですねぇ~、もう今じゃただのババ……あ?」

「へぇ……ただのババアなんだ……」

「………お、お前がなぜ……」

勲が話しをしている途中、勲の頭を高志の母である華子(みかこ)が鷲摑みする。

勲は顔を真っ青にしながら、華子の方に見る。

「もう~貴方ったら……新しいフライパンを買ってきたばかりですのに~」

「な! ゆ、由梨!!」

さらに華子の背後からは、フライパンを持った紗彌の母の由梨(ゆり)が黒い笑顔を浮かべながら一に迫っていた。

「ほら、あんた帰るわよ……」

「嫌だぁぁ!! 帰ったら殺されるぅぅぅ!!」

「あなた、今日は夫婦で話しあいたい事があるの」

「な、なにかな?」

「親権について」

「離婚!? ま、待ってくれ! さっきの事は謝るから!!」

「うふふふ~」

黒い笑顔でフライパンを構える由梨。

ゴミを見るような目で勲の頭を鷲摑みにする華子。

「「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

この後、二人のお父さんがどうなったかは言うまでも無い。

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