《甘え上手な彼2》第29話

「さて、行くか……」

土井は屋上の扉を開けて外に出る。

相変わらず真っ暗で、外には人の気配をじない。

「うーむ……ここで何をしたらいいんだろ?」

屋上に來たのは良いが、結局のところどうやったら元に戻るのかがわからない土井。

とりあえず屋上をぐるぐる回り、何か無いか探す。

「ん? ……なんだこれ?」

土井は屋上のタイルが取れ掛かっているのを発見した。

何か下にあるのだろうかと土井はタイルを持ち上げる。

そこには「書」と綺麗な文字で書かれた封筒が出てきた。

土井はそれを見た瞬間、瑞希が書いたであると気がついた。

封を開けて、土井は中を読む。

『お父さん、お母さん、ごめんなさい。

私はもう耐えられません。

々心配してくれてありがとう。

でも、もう私はダメです。

毎日無い私の機、トイレに行けば水浸し、守ってくれる人なんて居なかった。

私はもう生きていたくありません。』

「………」

土井はいつの間にか泣いていた。

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なんでこの時に自分が瑞希の側に居なかったのだろう。

日付は十年ほど前だった。

「……十年……早く生まれてたらなぁ……」

土井はそう呟き、そっとその書をポケットにしまう。

その瞬間、急に辺りが騒がしくなるのをじた。

誰かのび聲と多くの足音がこの屋上に向かって迫っているのをじた。

「ん? 一何が……」

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「たかしぃぃぃぃ!!」

「肝試しやろうぜぇぇぇぇぇ!」

「じゃあ、その鈍を捨てろぉぉぉ!!」

ドアから勢いよくなだれ込んできたのは、高志と紗彌。

そしてお化けの格好をしたクラスメイトの男子生徒達だった。

「ま、待て! もう屋上に到著したんだからゴールだろ!」

「フフフ……言えに帰るまでが肝試しなんだよ!!」

「そんな小學校の遠足みたいな……」

何やら自分が居ない間におもしろそうな展開になっている事を悟った土井。

土井は涙を拭き、勢いよく高志とクラスメイトの間に割り込む。

「まてまてーい!! 俺を放って面白そうな事やってんじゃねーか! 俺も混ぜろよ、もちろんお化けサイドで」

「敵が増えた……」

「おう土井!」

「それでこそリアル変態仮面だ!」

「待て、俺ってでそんな呼び方されてんの?」

土井は悲しみを紛らわすようにみんなに混ざってはしゃぐ。

數分前に短いが終わり、土井はしだけ大人になった気分だった。

「先生、先生!」

「んあ? 何だぁ? 終わったか?」

「まだ終わってませんけど……電話なってましたよ?」

「あぁそうか……ってお前ら、なんだその軽蔑の視線は」

「いえ、見損なっただけです」

「変態」

「エロ教師」

「うわーなんで俺の子生徒からの評価だだ下がりなの?」

目が覚めた大石は、軽蔑の視線を送ってくる自分のクラスの子生徒に大石は肩を落としてため息をつく。

「んで、俺はなんで自分のクラスの子生徒から軽蔑されてんだ?」

「まぁ、自分のスマホ見ればわかるんじゃないですか?」

「スマホ?」

大石は自分のスマホ確認する。

スマホには多くの通知が有り、それが同一人からのものであることを確認し納得する。

「あぁ……おまえらこれ見てそんな目で教師を見てんだな……」

「だって……普通に考えて人妻って登録します!?」

「変態……」

「教育者失格ね……」

「しかもひらがなだし……なんでじじゃないのよ、ひとづまって逆に卑猥よ」

「馬鹿、ひとづまじゃない日野端(ひのつま)だ……そうか……そろそろ來るのか……」

「え? 日野端?」

「誰それ?」

大石は頭を掻きながら電話を掛ける。

「もしもし……はい、そうでしたね……いえ、今からです……はい、では早々に引き上げさせます」

大石は電話を切ると肩を回して、その場に子生徒に言う。

「おーし、お前らそろそろ引き上げろー。後がつっかえてんだ、さっさと行くぞー」

「え? こんな夜に誰が……」

「ま、気にすんな。それに………お盆だろ……」

大石は悲しそうにそう言った後、車に向かった。

車のキーを開け、トランクから花束を出す。

「……嫌な季節だぜ」

何かを思い出しながら、大石は校って屋上に向かった。

屋上に向かう道すがら妙な聲が聞こえてきた。

普通の教師なら、自分のクラスを心配するところだが、自分のクラスを良く知る大石は……。

「隨分派手にやってんなぁー」

呑気にそんな言い方をしながら、大石は屋上の扉を開ける。

「おまえらぁー祭りは終わりだ、帰れ帰れ~」

「先生! もうしだけお願いします!!」

「あと一歩で高志を祭りに!!」

「馬鹿、お前らそれはやめろ」

「せ、先生……」

大石の気遣いにする高志。

「事後処理が面倒だ」

した俺が馬鹿だった……」

大石は花束を屋上の柵の側に置くと手を合わせ始めた。

「先生、何してるんすか?」

「ん……ちょっとした墓參りだ……」

土井は先生の言葉を聞きはっとした。

直ぐさま大石の元に向かう。

「せ、先生! それって……」

「ん? なんだ、お前知ってるのか? まぁ、小さいとはいえ新聞に載ったしな……」

「瑞希の……」

「名前も知ってるのか? あの事件は十年くらい前の事だぞ?」

「……あの、これ……」

土井は大石に先ほど拾った書を手渡す。

「コレって……なんでお前が持ってる? これは間違い無く日野端の字だ……」

「拾いました……ここで………」

「拾ったって……あれから十年以上も………」

言いかけて大石は口を閉じる。

目に涙を浮かべ、それが零れないように必死に堪える教え子を見ると、それ以上は何も聞けなかった。

「………瑞希に會ったか?」

「……はい」

「そうか……元気だったか?」

「………はい、笑顔でした」

「そうか……土井、どんな経緯で瑞希と會ったのかは知らない。だが、あいつの笑顔を……忘れないでやってくれ……」

「先生は……瑞希とはどんな関係だったんですか?」

「………いじめられている生徒救えなかった、ダメ教師だよ……今もな……」

「……そうですか……」

夏の夜、土井は一つ大人になり、大石は十年間探していたを見つけて安心する。

「土井……今のクラスは……そう言うの無いよな?」

「……そうですね…………」

二人はそんな話しをしながら、後ろを振り向く。

「たかしぃぃぃぃ!! いい加減観念しろ!」

「一人だけ言い思いしてんじゃねーぞ!!」

「死ねぇぇぇ!!」

「お前ら落ち著け!!」

クラスメイトを集団で襲っている景を目の當たりにし、土井と大石は口を閉じる。

「「……瑞希にこれは見せられないな……」」

肩を落としてそう呟く二人。

土井は橫で誰かが笑った気がした。

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