の腰まで長い黒髪が風で揺らされる。その髪を左手で抑えて嬉しそうな表で俺を見る。

格好は、靜香と同じようにとても良いものを著ている。淡い黒い瞳と黒髪とは対照的な白いワンピース。誰もが一瞬、その姿に目を取られるだろう。それほど魅力的に俺は見えた。

そして、そのは嬉しそうな表を浮かべたまま、口を開けて

「……お兄ちゃん……」

俺に向かってそう言った。

俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのは麗華しかいない。なくとも今初めてあったあった。このにお兄ちゃんと呼ばれるとは思わない。

今の言葉が本當に俺のものか分からなかったのでキョロキョロと周りを見る。だが、公園の中には俺とそのしかいない。

俺は、指で自分を指してに俺かどうか尋ねる。

するとは、こくりと頷き俺に近づいてくる。

「お久しぶりです、お兄ちゃん。帰ってきました。」

は、俺のところまで來ると顔を上げてそう言った。

「……え、えっと………」

俺は、困するしかなかった。

初めてあったにお兄ちゃんと呼ばれ帰ってきたとまで言われたんだ。何が何だか分からない。

「………私のことを覚えていないのも無理はありません。お兄ちゃんは、記憶を失っているんですから。」

「っ！な、なんでそれを？」

俺が記憶を失っていることを知っている。なくともその事実を知っているのは家族と優奈、それに靜香たちだけだ。學校にもまだ言ってない。

なのに何故、このは知ってるんだ？

「むぅ〜、記憶を失っているとは言え、私を見たらしは思い出してしかったです。」

は、可らしく頬を膨らませて怒ったような表をとる。

その瞬間、ズキンと頭が痛くなった。

「っ！」

俺は、思わず頭を抑える。

頭痛はこの頃治まってきたのに。

「お兄ちゃん、大丈夫ですか？病院へ連れて行きますよ？」

「………い、いや、大丈夫……」

は、心配そうに俺の服の袖を引っ張り聲を掛けてくれる。

まぁ、悪い子じゃないなということは分かった。

でも、なんだろう。この既視は。

俺は、知っている。こののことを。

俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ存在。今現在は麗華しか存在しない。

だが、よく夢に出てきたあの麗華では無いあのは俺のことをお兄ちゃんと読んでいた。

………もしかして………

このがあの？年齢的には別におかしくはない。

「…………優………」

何故か俺は、その名も知らないに向かってそんなことを言っていた。

優、そんな名前の人、俺は全く知らない。だが、俺の口からふとそんな名前が出た。

「ふふっ、嬉しいですわ！お兄ちゃんが記憶を失っていても私のこと覚えてくれていたなんて！私のこと完全に思い出せなくても私と過ごしていたことはが覚えているのですね！」

「………お前、優って言うのか？」

「はい、その通りです！お兄ちゃん！」

優………優………

「いっ！」

まただ。

激しい頭痛が俺を襲う。

今回は今さっきよりもさらに痛みが増したので膝を地面について頭を抑える。

「お、お兄ちゃん！ほ、本當に大丈夫ですか？」

優というが俺を心配して腰を下ろして俺の背中をさすってくれる。

その手はすごい暖かくて背中をさすってくれるだけで頭の痛みが引いていくのが分かる。

俺は、だんだんと落ち著いて呼吸もしっかりと取れるようになってきた。

「……ありがとう、落ち著いたよ。」

「えへへ、それなら良かったです。……あの、私のこと、覚えてないんですよね？」

「………ああ、悪い。君が誰かなのかは正直よく分からないんだ。優って名前も何故か頭の中に浮かんできただけなんだ。………でも、俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれるのは……俺の妹と昔、よく遊んでいたの子だけなんだ………だから、もしかしたら………君がそのの子なのかなって思ってるんだけど……どうかな？」

「……はい、そうですよ。やっぱり覚えていてくれたんですね。」

優と名乗るは嬉しそうに言う。

やっぱり、このがあの時のだったのか。

すると俺の心がチクリと痛むのをじた。

なんだ、このじ？せっかく俺の記憶の手がかりを知っていそうな子に會えたのに……なんで心が痛むんだ？

「………お兄ちゃん……あの約束は覚えていますか？」

「ん？あの約束？ごめん、なんだっけ？」

俺がいつの間にかこの優というと約束をしていた。それはとても大切なものなのだろう。の瞳を見れば分かる。俺が分からないと言った時、すごい悲しそうな瞳をしていたから。

そのは、そんな瞳を隠すようにそっと目を閉じる。そして、數秒後ゆっくりと目を開いて俺を見つめる。

「……お兄ちゃん……昔、私とお兄ちゃんは結婚するって約束したんだよ……」

「「………え……」」

の言葉に反応したのは俺ともう1人。今さっきまで俺を待っていてくれていた靜香だった。

靜香は、信じられないといった目で今の狀況を見ていた。

「……どういう………こと………」

靜香は、震えた聲でそう言ったのだった。