《甘え上手な彼3 秋編》第32話

『そっか……あ、あのさ……會いたいって言ったら……來てくれる?』

「え!?」

高志は紗彌の言葉に困する。

消燈時間まで後十數分、男子の部屋と子の部屋を行き來することは許可されていない。

しかも、消燈時間を過ぎてからの部屋の移も認められていない。

高志としては、紗彌の希に応えたいという気持ちもあったが、その為には數々の危険もある。

もちろんそれは紗彌も一緒だ。

「さ、紗彌……あの……」

『ダメ……だよね? ごめんね……我がまま言って……』

「いや、直ぐ行く。待っててくれ」

寂しそうに話す紗彌に、高志は思わず即答してしまう。

『ほ、本當? じゃ、じゃあ……部屋で待ってる』

「おう、任せろ」

『うん!』

高志はスマホをポケットに仕舞い、紗彌に會うために支度を済ませる。

「よし、行こう」

「ちょい待て」

「なんだ、優一?」

高志が皆に気がつかれないように、靜かに部屋を出ようとしたところを優一が聲を掛ける。

「どこに行く気だ?」

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「いや、ちょっと……紗彌に會いに……」

そう話した瞬間、高志はなんだか面倒な事になるような気がして、言葉を止める。

そして、そんな高志の予想は的中してしまう。

「「俺たちも行こう!」」

「なんでだよ……」

聲を揃えて言ったのは、優一と繁村だった。

繁村も話しを聞いていたようで、優一の後ろから出て來た。

「修學旅行! しかも子部屋! お約束だろ!」

「別にお約束じゃねーよ」

そんな事を言っても、優一と繁村は勝手に高志の後ろを付いてくる。

「なんで僕まで……」

泉も巻き込まれて、一緒に子の部屋を目指す。

土井は赤西が帰ってくるまでの留守番役で部屋に殘った。

男の部屋と子の部屋は中央の廊下を境に分けられていた。

見張りの先生などは居ないのだが、先生は代でちゃんと寢ているかを確認にやってくる。 高志達四人は、廊下を慎重に進んで行く。

「なぁ、こんな大勢で大丈夫か?」

「大丈夫だ、つい數分前に先生が部屋に確認にやってきていた。當分は大丈夫だろう」

「なら良いけどよ……繁村と優一は何のために行くんだよ」

「そんなの決まってるだろ? 子のセクシーな浴姿を見るためだ!」

「アホかよ……」

繁村のしょうもない理由に、高志は肩を落とす。

「え? 俺はただ単にコンビニに行きたかったから、途中まで高志に付いてきただけなんだが?」

「僕は完全にとばっちりなんだけど……」

優一と泉も同じ理由だと思い込んでいた繁村は、優一と泉の言葉に衝撃をける。

「お、お前ら……本気か? 修學旅行だぞ! 貞を捨てるイベントの一つだぞ!」

「どこのエロゲーだよ」

「僕は別に……」

反応の薄い優一と泉に、繁村はふてくされる。

「くそ! これだから彼持ちとイケメンは……」

「関係ねーだろ………じゃ、俺はこの辺で……」

優一はそう言うと、旅館の玄関の方に歩行ってしまった。

殘された高志達三人は、子の部屋に向かって歩いて行く。

「泉だって、子の浴姿見たいだろ?」

「いや……僕は部屋に殘っても良かったんだけど……」

「照れるな照れるなって! 修學旅行と言えば子部屋に侵だよな!」

「いや、僕も照れてるわけじゃ……」

そう泉が言い掛けた瞬間、正面の曲がり角から誰かの足音が聞こえた。

「隠れろ!」

高志のかけ聲で、泉と繁村はに隠れる。

曲がり角を曲がって來たのは、二年一組の擔任の堀川(ほりかわ)先生だった。

堀川先生はの先生のため、子の部屋の見回りをしていたのだろう。

「せ、先生~勘弁して下さい~」

「お、俺たちはただ……」

「はいはい、良いから行くわよ。今から反省文を書いて貰いますからね」

「「ひっ! ひえ~!!」」

恐らく子部屋に忍び込もうとして捕まったのだろう、男子生徒二人を連れて、先生達が宿泊している部屋にって行った。

「繁村と同じ考えの奴って居るもんだな……」

「本當だね」

「なぁ! 言っただろ!? 修學旅行と言えば子部屋に子風呂の覗き! これなくして修學旅行なんて來た意味だろ!?」

「あぁ、はいはい。俺たちも見つからないうちに行こう」

「僕は帰りたいんだけど……」

高志は繁村の話しを軽く流し、紗彌の待つ部屋に向かう。

しかし、またしても前方から誰かの足音が聞こえて來る。

周りには隠れる事が出來るも無く、高志は思わず立ち止まる。

「やばい!!」

高志がそう言って直ぐ、足音の主は高志達の前に現れた。

「ん? 何やってんだ? お前ら」

「あ、先生……」

高志達の前に現れたのは、石崎だった。

石崎はジャージ姿で、右手にはコンビニの袋をぶら下げていた。

「消燈時間は過ぎてるぞー、それにこの先は子部屋だぞ」

「あ、あはは……ちょっと気分転換に外を散歩でもと……」

笑顔で言い訳をする高志。

石崎はそこまでうるさく言って、反省文を書かせるような事はしない。

その理由は、自分もそれに付き合わされて面倒だからだ。

「さっさと部屋に戻れ~、反省文は勘弁してやるが、お前らを部屋に送って行くからなぁー」

「い、いや、大丈夫っすよ」

「お、俺たち子供じゃないっすし……」

高志と繁村が石崎にそういう。

ここまで來て、振り出しに戻るのは辛い。

そう考えた高志と繁村は、なんとか石崎を振り切る必要があった。

「知ってるよ、しかしな消燈時間を守らない奴らを信用するほど、俺は馬鹿じゃないんでね。さぁ、行くぞ」

「「うっ……」」

石崎の最もな意見に、高志も繁村も何も言い返せない。

泉は後ろで二人に、小聲で「もう諦めよう」とささやく。

しかし、高志も繁村もそれぞれ、子部屋に行かなければいけない理由があった。

そのため、ここで引き下がる訳には行かなかった。

なんとか、石崎を振り切る方法は無いかと考えていると、石崎の後ろからまたしても誰かがやってきた。

「い・し・ざ・き・せ・ん・せ!」

「ん……なんですか……保永先生……」

「なんで生徒の背後に隠れるんですか?」

「いえ……別に……」

石崎は奈がやってきた瞬間、ごく自然な流れで高志達の背後に周り、奈と自分の間に盾として高志達三人を挾む。

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