《甘え上手な彼3 秋編》第39話

泉はその子生徒の事を何も知らなかった。

名前もクラスさえも知らない。

そんな彼が目の前で顔を赤く染めながら立っている。

「あ、あのね……わ、私さ、泉君のこと前から良いなぁって思ってて……」

「そうなんだ、ありがと」

泉は笑顔で彼にお禮を言う。

そんな泉の笑顔に彼もうれしそうに笑う。

「だ、だからね……あ、あの……つ、つき合ってほしいなって……」

の言葉に泉は笑顔をやめ、困ったような表で彼んに答える。

「ごめん……僕、好きな人が居るんだ」

その言葉を聞いた瞬間、彼の表から笑顔が消えた。

どんどんと瞳は潤み、彼は口を開く。

「そ、そう……なんだ……あは、あはは。わ、わかったよ……ありがと」

「僕も君の思いに答えられなくてごめん」

「う、ううん……だ、大丈夫だよ………じゃ、じゃあね」

そう言って彼は泉の前から背を向けて走って行った。

走って行く時、彼が顔を手の平で隠しているのが分かった。

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泉はそんな彼を見て心を痛める。

「わ、悪いことしたな……」

何度経験しても、告白を斷ることは辛い。

自分の事を思ってくれた相手の思いを否定する、泉は告白を斷るという事をそう考えていた。

「はぁ……」

泉はため息をついて部屋に戻ろうと彼とは反対側から部屋に戻ろうとする。

「あ……」

「え?」

泉が角を曲がろうとした瞬間、にかくれていた由華に遭遇した。

なんで由華が?

そう思った泉は、無言のまま由華を見た後、由華に尋ねる。

「な、なにしてるの?」

「えっと……散歩?」

「き、聞いてた?」

泉は冷や汗を掻きながら、由華に尋ねる。

「き、聞いてないよ……」

「絶対噓だよね? めっちゃ目が泳いでるけど」

「う、噓じゃないよ……」

そう言って更に目を反らす由華。

流石にもう誤魔化せないと思った由華は開きなって、泉に尋ねる。

「ねぇねぇ! 泉君の好きな人って誰!?」

「やっぱり聞いてたんだ……」

目をキラキラさせながら、由華は泉に尋ねる。

そんな由華の質問に泉は顔を赤らめる。

「だ、誰でも良いじゃん……」

「え〜良いじゃん、教えてよぉ〜」

華は泉の橫腹をつつきながら、からかうように尋ねる。

「も、もういいじゃないか……」

「だめだよ! 言うまで返さないからねぇ〜」

ニヤニヤしながら、しつこく尋ねてくる由華。

泉はもちろん言えるはずもなく、どうにか由華から逃れようと、話しをごまかして、無理矢理その場を去る。

「わ、悪いけど急ぐから……それじゃ!」

「あ! 行っちゃった……泉君の好きな人ねぇ〜一誰かしら?」

華は悪い笑みを浮かべながら、顎に手を當てて考える。

食事を終え、風呂もり終えた高志達は、昨日同様に部屋で話しをしていた。

それぞれどこに行ってきたとか、寫真を見せ合ったりして、雑談に花を咲かせていた。

そんな高志達の部屋で、一人だっけそわそわしている人が一人居た。

それは赤西だった。

「……いや……だが……」

部屋の隅で一人ぶつぶつ獨り言を呟きながら、赤西は何かを考えていた。

そんな赤西を見て、高志達は不信を抱く。

「なぁ、赤西の奴どうしたんだ?」

「なんかさっきから変だぞ?」

高志と優一は、土井と繁村に赤西について尋ねる。

すると繁村は不機嫌そうな顔をしながら、高志と優一に答える。

「あぁ……ほっとけほっとけ、あいつはもう俺の敵だ」

「は? 一何があったんだよ」

「あー、実はね……」

土井は繁村の代わりに説明し始める。

赤西と朋華の様子がなんだかおかしかった事、そしてその様子がいつもの喧嘩とはし違う事。

「なるほどな……」

「大予想はついたな」

「え? 二人は分かったの?」

土井の説明で、高志と優一は赤西の現在置かれている狀況が何となく分かり、同時に他人が口を出して良いことでは無いことを理解した。

「まぁ、放っておけ」

「なるようになるだろ」

「そうかな? それより、泉はどうした? さっきから姿が見えないけど」

「あぁ、子から呼び出しだと」

「泉はモテるからな」

なんて事を話していると、突然赤西が立ち上がった。

「ちょ、ちょっとコンビニ行ってくる」

「ん、ついでに俺コーラ」

「じゃあ、俺はお茶」

「俺はソーダ」

「アイスティー頼む」

「あ、あぁ……わかった」

赤西はそう言うと、部屋を出て行った。

「こりゃあ、遅くなるな」

「そうだな」

「?」

「ちきしょぉぉぉぉぉ!!」

一人だけ狀況の分からない土井を除き、他の三人は赤西の狀況を理解していたため、赤西が戻ってくるのが遅くなるだろうと予想する。

繁村は一人、涙目になりながらんでいた。

赤西は部屋を出て、スマホを片手に旅館のり口前に立っていた。

「お、お待たせ……」

「お、おう」

しして朋華が羽織を著てやってきた。

髪を後ろで束ね、風呂上がりなのか、シャンプーの良い香りが赤西の鼻にも屆いた。

「い、行くか」

「そ、そうね……」

互いに顔はもう真っ赤だった。

二人は互いに無言で、昨日向かったコンビニに向かう。

「……」

「……」

沈黙の中、二人はお互いにちらちらと相手の顔を見ていた。

(はぁ……ついに來ちまったなぁ……西城の奴、俺のことどう思ってんだ? てか……こいつってこんな可かったか?)

(な、なななんで私が健輔ごときドキドキしてるのよ!! そ、そりゃあ、助けてくれてう、うれしかったけど!!)

赤西と朋華はそんな事を考えながら、黙ってコンビニまでの道を歩く。

二人はそのままコンビニに到著してしまい、互いに買いを済まる。

「も、戻るか」

「そ、そうね」

肝心な話しが出來ないまま、二人は旅館に帰る道を歩き始めた。

(は、早く言わなきゃ! 覚悟を決めたでしょ私!!)

(は、早く言えよ!! おまえが夜って言ったんだろ! この息苦しい雰囲気をなんとかしてくれ!!)

「け、健輔!」

「お、おう……な、なんだ?」

ついに覚悟を決め、朋華は赤西の方を見る。

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