《擔任がやたらくっついてくるんだが……》快復

どうしよう……。

「……どうかした?」

「いえ、何でも……」

その場の流れで付き添う形になっちゃったけど、よくよく考えたら、何で先生の家に僕までっちゃってるんだよ!考えすぎかもしれないが、あまりよくないことのような気がする。

とはいえ、今は病人の先生を放ってはおけない。

日頃の恩を返したい気持ちを確認し、ひとまず先生に聲をかける。

「あの、先生……何か必要ながあれば、家から持ってきますけど……」

「大丈夫よ。薬は揃えてあるから」

「わかりました」

うん、もう僕にできることは何もなくなった。

やっぱり僕は、こういう場面でしっかりと人を看病できるような主人公キャラじゃない。むしろ、ここにいても邪魔になるだけなので早々に退散するべきだ。

「じゃ、じゃあ、僕は帰ります。先生、お大事に……っ」

先生に背を向け、お暇しようとしたその時……。

背中にらかな溫もりがしがみついてきた。

そして、振り向かずとも、その溫もりが何なのか、すぐにわかった。

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「え?あ、え?せ、先生?あの……」

「……ごめんなさい。熱のせいでしふらついてしまったわ」

結構僕と先生の距離が空いてたと思うんだけど……。

いや、そんなことはさておき…………う、けない……!

背後からしがみつかれているのも理由の一つだけど、それ以上に、いつもより強く押しつけられている先生のや、背中をじんわりと濡らすった吐息なんかが、一丸となって僕の本能的な何かを直に刺激してくるからだ……いや、今は忘れろ!とにかく運ばなくちゃ!

「だ、大丈夫ですか?早くベッドに行きましょう!」

「…………」

先生から返事はない。目を向けると、さっきより頬が紅い気がする。

そこで僕は自分の言ったことに気づいた。

「いや、今のはそういう意味ではなくて……!」

「ふふっ、まだ何も言ってないわ。慌てすぎよ」

「す、すいません」

「もしかして……変なこと……考えてた?」

「いえ、そんなことは……」

「じゃあ……考えてくれなかった?」

「え?」

最後の方は消えりそうな聲で、よく聞こえなかった。

先生のが離れたので振り向くと、やわらかな微笑みを浮かべていた。いつか見せてくれた、あの包み込むような、大人の微笑み。眼鏡の向こう側の瞳は澄んでいて、僕の心なんて見かされていそうな気がした。

やがて、いつもより火照ったが、優しく言葉を紡ぐ。

「引き止めてごめんなさい。それと、心配してくれてありがとう」

「そんな……僕は何もしてないですし、その……すいませんでした。風邪うつしちゃって……」

「別に君からうつったと決まったわけじゃないし。仮に君からうつされたとしても責める気はないわ。私も擔任なのに……君が頑張ってるのは昔から知ってたのに、無理していたことは気づけなかった」

「…………」

頑張ってるの、昔から知ってた?

どういうことだろう?

考えながら扉に手をかけると、背後から聲がかかった。

「じゃあ、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。あの……ゆっくり休んでください」

結局その後、ベッドの中で考え込んでも、何も出てこなかった。

*******

次の日、先生は學校に來なかった。

副擔任の新井先生から森原先生の欠勤を聞かされた僕は、罪悪やら何やらで悩んでいるに、その日はあっという間に過ぎた。

「あ、淺野君……」

「……奧野さん」

「大丈夫?今日、ずっと俯いて、なんか落ち込んでるように見えるけど」

「……うん、大丈夫だよ」

この前の事もあり、もう話しかけられることはないかと思っていたけど、こうやって話しかけてくれる奧野さんは、きっと優しい人なんだろう。僕が『僕に優しい人は皆に優しい』という事実を知らなかった時代なら、うっかり好きになってたかもしれない。

なんて考えてる場合じゃないか。

先生……大丈夫かな?

「……あの、大丈夫ならいいんだけど。あの、何なら今日一緒に……って、あれ?いない……」

僕は何をするべきかもわからないまま、駆け足で下駄箱へと向かった。

*******

「はあ……はあ……」

「どうかしたの?」

「うわぁっ!」

先生の家の前で、今まさに呼び鈴を押そうとしていたら、背後から先生本人に聲をかけられた。いきなりすぎる。場面の描寫すら碌にされていないのに。

しかも、やたら近い。

先生の服裝が、やたら分厚そうなコートにマスク著用だから、変な威圧がある。

「……この香りは……新井先生ね」

「え?」

「いえ、何でもないわ」

「先生、合のほうは……外出て大丈夫なんですか?」

「もう平気よ。今、買いしにし出ていただけ」

先生は右手に、そこそこ大きな買い袋をぶら下げていた。

近くのスーパーへ、歩いて行ったのだろう。

まあ、何はともあれ、元気になったのならよかった。

ほっとしていると、背中に先生の手が添えられた。

「淺野君」

「はい?」

し……寄っていかない?」

「え?でも……」

「すぐに済むわ」

先生のその言葉に、僕は張や焦りのどこかで、しの安心を得ていた。

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