「お兄ちゃん、久しぶり～！會いたかったよ～！」

「え？あれ……もしかして、若葉？」

「うん、そうだよ！もしかして……お兄ちゃん、若葉の顔忘れちゃった？」

「いや、そんなことは……ただ大きくなってたから……」

いきなり僕に抱きついてきたの子の名前は日高若葉。ここから電車で２時間ほど離れた街に住む、し歳の離れた従妹だ。現在、小學校５年である。

若葉は赤みがかったお団子髪を震わせ、顔を赤らめ、元を隠し、何やら口元をもごもごさせた。

「も、もう！いきなり何言い出すの？お兄ちゃんのエッチ……」

「な、何で！？」

「だって……大きくなったって……」

「そっちじゃないよ！長の話だよ！」

何で久しぶりに會った小學生の従妹に、いきなりの話をするというのか、そんなお兄ちゃんにはなりたくない……。

僕の言葉に、若葉は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そっかぁ、殘念。でも若葉の、クラスで一番大きいんだよ？」

「ふ～ん。じゃ、一緒にかき氷でも食べよっか」

「あ～、何その反応！？全然興味なさげじゃん！！」

「そりゃそうだろ……」

何度も一緒に風呂にったことのある小學生のに興味などあるわけない。ていうか、小學生にそういう目を向けたことないし。

「むぅ……そうなんだ。私のカラダには飽きたんだ……」

「は？」

「やっぱり彼ができたから私を捨てるんだ！お兄ちゃんの浮気者！変態！スケコマシ！」

「ちょっ……」

家の前で何て事を！ご近所さんに聞かれたらどうするんだ！

僕は慌てて若葉の口を塞ごうとするが、するりと躱された。

「お兄ちゃんのヘンタ～イ！」

「くっ、それ以上言わせるか！」

僕は年上の能力をここぞとばかりに発揮して、若葉をしっかりと背後から捕まえ、口を塞ぐ。年下相手には、如何なく能力を発揮する僕。しけない。

「ふぅ……やっと捕まえた」

「ん～！ん～！」

「ほら、大人しくしろ。はやく家にるぞ」

「な、何してるの、淺野君？」

「え？」

突然聞こえてきた聲に振り向くと、そこには、こちらを指さしてプルプル震えている奧野さんと、いつもと変わらぬ涼しげな表でこちらをじぃ～～～～～～～っと見つめる森原先生がいた。あれ？やっぱりいつも通りじゃないかも……。

「…………」

無言のままなのが怖い。ただ怖い。

「お兄ちゃん、このの人達は？誰？どんな関係？」

真っ先に口を開いた若葉の「お兄ちゃん」という単語に反応した奧野さんが、驚いた表で僕と若葉を互に見る。

「淺野君って妹いたの？」

「いや、妹じゃなくて、いと「妹じゃないもん！人だもん！」……」

「あはは、可いね。私は奧野。あなたのお名前教えてくれる？」

「むむむ、子供扱いするな～！」

よしよしと頭をでてくる奧野さんに、若葉はじたばたと抵抗している。

「…………人…………人…………」

何故か先生はぼーっと空を仰ぎ、ぶつぶつと何か呟いていた。

＊＊＊＊＊＊＊

とりあえず家に上がってもらい、麥茶を出したところで、さっき別れたばかりの２人が家まで來た理由を聞かされた。

「え？僕、忘れしてたんですか？」

「ええ。それで急いで屆けようとしたのだけれど……」

「私が屆けるって言ったら先生が……」

「「…………」」

何故か見つめ合う２人。どうやら僕は教科書を２冊も図書室に忘れたらしい。まあ、あんなじでお開きになったのだから、仕方ないという事で……。

それで、どちらが屆けるかという話になり、結局一人一冊屆けてくれる事になったようだ。

……きっと効率悪いとか言っちゃいけないんだろう。

「あ、ありがとうございます。すいません、２人共忙しいのに……」

「大丈夫よ。今から休憩だったし……」

「先生、図書室で楠田先生と何か話してませんでした？」

「ただの雑談よ。それより、あなたもどうしてあの時戻ってきたの？」

「そ、それは、別に……」

「あの！」

２人の間に、若葉が割ってる。

「２人はお兄ちゃんとどんな関係なんですか！？まさか、お兄ちゃんの彼ですか！？」

「ん？彼…………え？え？ええ！？」

「…………」

若葉の唐突な質問に、奧野さんは驚きで、先生は無表で応じた。どちらも頬がし赤くなっている。や、やばい、このままじゃ若葉が怒られる。

「若葉、変なこと言うんじゃありません。この２人とはそんな関係じゃ……あたっ！？」

背中に２カ所、鋭い痛みが走った。

慌てて振り向くと、いつの間にか背後にいた先生と奧野さんが、何食わぬ顔で座っているだけだ。

あ、あれ？気のせいかな……いや、でも確かに……。

「淺野君」

「はい？」

「この前の課題図書をもう１往復読みなさい」

「え？あ、あの、この前の１０冊ですか？」

「ええ」

そんな……本１０をもう１往復だなんて……いや、面白かったけど、小説の方を読んだ後、先生の顔をしばらく見るのが、何故か気恥ずかしかったんだよなぁ……。

奧野さんが首を傾げながら口を開いた。

「課題図書なんて出てたっけ？」

「気にしないで。特別補習だから」

「……なんか怪しい」

「それより……若葉さん。さっきの人の件なんだけど」

「な、何ですか！噓じゃないですよ！んっ」

若葉は僕の頬に、可らしく口づけてくる。まだ、この癖直ってなかったのか。別に悪い気はしないけど。

「はいはい、ありがと。でもそろそろ止めような。小學５年なんだから」

「がーん……わ、若葉の仕掛けが効いてない……」

「仕掛けって……ん？」

「先生？」

「…………」

何故か先生は放心したように固まり、しばらく僕らが呼びかけても、まったくの無反応だった。