《擔任がやたらくっついてくるんだが……》夕食作り
「まさか、あんなに可らしい従妹がいたなんて……いや、でも、歳は離れてるから……私もだったわ」
「……いえ、悩んでる暇はないわね。夏休みの間にできる限りアピールしておかないと」
*******
窓から見える空が茜に染まる頃、予定時刻ぴったりに呼び鈴が鳴り、先生の到著を告げた。
玄関の扉を開くと、右手に買い袋を持った先生が立っていた。さっきのスーツ姿ではなく、一旦家で著替えてきたみたいだ。
「おかえりなさい……あ」
「…………」
自宅だからつい「おかえりなさい」とか言ってしまい、何だか気恥ずかしい思いがこみ上げてくる。
僕はそれをかき消すように、すぐ頭を下げた。
「す、すいません!ついクセで……」
先生は形のいい眉をしだけピクッとさせ、鋭い刃のような目つきで、じっと僕を見つめた。も、もしかして、また怒らせたかな?
心、ビクビクしていると、先生は何故かゆっくりと扉を閉める。あれ?どうしたんだろう……そんなに不快だったとか?
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呼び止めるべく、扉に手をかけようとすると、再び扉が開かれた。
「ただいま」
その言葉は普段より幾分らかな聲音で紡がれた。いつもの涼しげな表もどこか明るく見えた。よくわからないが、どうやら怒ってはいないようで、僕はほっとをなで下ろした。
さらに、先生が僕に「ただいま」と言うのが、あまり現実味がなくて、加えてどこかくすぐったくて、僕は頬が緩むのを抑えられなかった。
「…………」
しかし、先生はまだ敷居をぐことなく、じーっとこちらを見ている。
今度は一……あっ、そうだった。
「えっと……お、おかえりなさい」
「お邪魔します」
ようやく普段のテンションに戻った先生が、淀みのない所作で靴をぎ、上がってくる。
ふと視線をじ、目を向けると、若葉が居間から顔だけを出していた。
「何、この茶番……」
若葉はやけに冷ややかな視線を僕達に向けていた。
*******
「そういえば、若葉さんは何か苦手な食べはある?」
「……ありません!若葉はもう子供じゃないですから!」
対抗しようとしているのか、必死に大人ぶろうとする若葉に、先生は微笑み、若葉の長いさらさらした髪をでた。
いきなり頭に手を置かれ、驚いた若葉も、先生ので方が気持ちいいのか、目を細め、されるがままになっている。
「そじゃあ、今晩はじゃがでいいかしら」
「う、うん……いいと思います……ていうか、子供扱いしないでください!もう!」
先生は若葉の抗議を聞き流し、しばらく頭をでた後、エプロンをにつけ、料理の準備に取りかかった。
……先生って意外と子供好きなんだな。
「どうかしたの?」
「いえ、何でもないです」
「そう。じゃあ……祐一君。手伝い、お願いしていいかしら?」
「はい、わかりました」
「あっ、若葉も手伝います!」
こうして、3人の夕食作りが始まった。
*******
若葉のお兄ちゃんは世界一。
他の人が知らなくても若葉だけは知ってる。
あの日からずっとそう思ってた…………なのに。
なのに、何でこうなってるの~~~~~!!?
「それじゃあ、包丁の持ち方の復習をするわね」
「は、はい」
包丁の持ち方の復習!?小學生の私でも包丁くらいキチンと持てるよ!それにくっつきすぎだよ!おがお兄ちゃんの肘に當たりまくってるよ!あとさり気なく腳でお兄ちゃんの腳をでてる!?
さらに……目がキラキラしてるよ。
そして、何がすごいって……お兄ちゃん、多分先生の気持ちにちっっっとも気づいていない!いや、若葉はそれでいいんだけど!でも、あまりに鈍すぎて、名前のある神疾患を疑っちゃうよ!
「あの、先生……っ」
お兄ちゃんが呼びかけると、お姉さんは人差し指をお兄ちゃんのに置いた。え?そんなに責めちゃうの!?この人、本當に擔任の先生なの!?
お姉さんは無表のまま、小さいけどよく通る聲で呟いた。
「ルール……忘れた?」
「……す、すいませんでした!その…………唯さん」
「はい。どうしたの?」
「その……さっき、肘に……當たってました」
「何が?」
「えっと……何というか……」
「何の話かはわからないけど、気のせいよ」
「そ、そうですか」
そうですか、じゃねーーーーー!!!!!
絶対に気づいてるよね!?でも「先生が気のせいって言うなら、何か意味があるんだろうな」なんて考えてるよね!?お兄ちゃんのエッチ!そりゃ確かにお姉さんのお大っきいけど!!
「じゃあ、若葉さんはこれをお願いね」
お姉さんが私に目線を合わせ、とても優しい眼差しで、とても優しく話しかけてくれる。
……うーん、若葉は可いから、優しくしてくれる人は多いけど、何でかなぁ?
今この時は、何でこんなに優しいんだろう?って思うんだけど……。
「……祐一君」
「はい、何ですか?」
「夏休みは旅行には行かないの?」
「あー、今のところは……父親も冬休みにならないと、帰ってこないので……」
「そう。お忙しいのね」
「あの……先生は?」
「私は仕事があるわ」
「ですよね」
2人の聲が、私の頭の上を行きう。う~ん、何だろう……何かが引っかかる。
考えながら、私は調味料を分け終えた。
「できました」
「そう。えらいわね……あな……祐一君。若葉さんが調味料をしっかり分けてくれたわ」
「え?あ、はい……若葉、ありがとう」
「…………」
今、あなたって言おうとしてたような…………はっ!
若葉、気づいちゃったよ!
この並び……さっきの言い間違い……。
この人……若葉を利用して、お兄ちゃんの奧さんを験してる!!若葉を自分の娘に見立ててるよ!!でも……
「祐一君、この並びは何かを彷彿させる気がするのだけれど……家族、みたいな」
「ああ、確かに。歳の離れた兄弟というか……」
「…………」
うん。お兄ちゃんが全然気づいてない。気づきそうもないよ。
お姉さんはぷいっとそっぽを向いて、フライパンでさっさと野菜を炒め始めた。
……敵ながら、ちょっと可いかも。
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