《擔任がやたらくっついてくるんだが……》花の香り?

校門から出ると、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえてきた。

振り返ると奧野さんだった。赤みがかった髪が夕に照らされ、普段より鮮やかに揺れているのが眩しくじる。

「淺野君、今帰り?」

「うん。ようやく資料整理が終わったんだよ。奧野さんも何か用事があったの?」

「えっ?わ、私はただ友達と話してたら時間が経っただけだよっ、うん!……ん?」

何かを見つけたような表になった奧野さんは、くんくんと僕の服の近くに鼻を近づけた。

そんなに汗臭いだろうかと、慌てて飛び退いてしまう。

「ど、どうしたの?」

「……うーん、新しいの匂いがする」

「えっ?」

新しいって……昔のもいないんだけどなぁ。ていうか、どんな匂いなんだろう。

そんな戸いまじりの視線に気づいた奧野さんは、ばっと距離をとり、想笑いを向けてきた。

「あはははは、何でもない何でもない!だから気にしなくていいよ!」

「そ、そうなんだ」

気にしないのは難しいけれど、とりあえず自分のの中に仕舞っておくことにした。

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「ただいまー」

「あっ、おかえり裕くん!」

「ね、姉さん……」

晝休みのハート増し増し弁當を思い出し、つい口がひきつってしまう。味はよかったんだけどね?

しかし、作ってもらった手前、文句も言いづらい。ここは褒めながら何とかすることが最善だと長年の経験が告げている。

「お弁當どうだった?」

「えっ?ああ、味しかったよ。見た目も彩り鮮やかだったし。ただ、鮮やかすぎて眩しいから、次はもうちょっと控えめにしてほしいな」

「りょ~かい♪」

姉さんはにこにこと満面の笑みで抱きついてくる。これで明日は大丈夫だろう、多分。

すると何かに気づいたように、姉さんがくんくんと僕の匂いを嗅いだ、あれ、これデジャヴ?

「むむむ……別のの匂いがするわね」

「えっ?」

別のと言われても、今付き合ってるもいないんだけどなぁ……あとこれもデジャヴ。

今僕はどんな匂いを撒き散らしているというのか……かなり気になるんだけど。

「ねえ、裕くん?もしかして、私以外のの人とハグしちゃったとか?あの先生とか?」

「ち、違うって!あっ、そうだ!ちょっとコンビニ行ってくるよ!」

やばい気配を察知したので、慌てて回れ右をして家を飛び出した。

*******

「あら……」

「あ……」

今度は森原先生と遭遇した。まあ、帰りのホームルームからそこまで時間は経っていないけど。

先生はふわりと風に靡く髪をかきわけ、じーっと視線を向けてくる。

「今からお買い?」

「あ、はい。今からコンビニにアイスを……」

「そう……そういえば、私も買いを思い出したわ」

ポツリと呟くと、先生はさっと僕の隣に並んだ。

そのあまりに自然な作に見とれながら、僕は先生と並んで歩くことが當たり前のようになっていることが嬉しく思えた。

*******

コンビニにると、心地よいエアコンの風と軽快なBGM、店員さんの挨拶に出迎えられ、先生はスタスタと雑誌コーナーの前まで歩いていった。ファッション誌でも買いたかったのかな?

すると、先生はレンズの向こう側の瞳を細め、そっと話しかけてきた。

「淺野君。いかがわしい本のコーナーに教師モノが置いてあるわ」

「……は、はあ」

コンビニにってからの第一聲がそれってどうなんだろう。そして、その発言にはどんな意図があるのだろう。

「……まだ君には早いから絶対に見ないように」

「はい……」

見るなと言われると見たくなる深層心理をついた導のように思えなくもないけれど、ここは我慢したほうがいいだろう。先生から軽蔑されたくはないし。

「眼鏡をかけた黒髪の教師が表紙になってるから、絶対に見ないように」

「…………」

このタイミングで何でそんな事を……!

むしろこれは、見なさいという事なんじゃないかと思っていると、先生は何かに気づいたように、僕の肩に手を置き、ずいっと顔を近づけてきた。ま、まさか……

「これは……新井先生ね」

「っ!?」

何故かがビクッと反応する。それと、心なしか悪寒が……この店エアコン効きすぎじゃないかなぁ?

先生はそんな僕の様子を観察するように見ながら、何故かを寄せてきた。そして、ファッション誌を手に取り、パラパラとめくりだす。

しかも、たまに背びなんかしたりして、自分のをこすりつけているみたいだ。

服がれあう音が微かに響くのを聞きながら、僕は取り繕うようにマンガ雑誌を手に取った。

しかし、先生の溫もりや甘い香水の香りのほうが気になり、容はちっとも頭にってこない。

10分くらいそうしてから、やっと先生のが離れた。

「これでよし」

「ち、ちなみに今のは……」

「気になった雑誌を見ていただけよ」

「…………」

こちらを見ずに答えるのを聞いてから、僕と先生はそれぞれ會計を済ませ、また並んで家路についた。

いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。

そして、左肩からは確かに甘い香りがした。

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