「じゃぁ、本當に付き合ってないの？」

「いや、俺と先輩が付き合うなんて、今後もないよ」

「それにしては、仲が良すぎるような……」

仲が良いように見えても、実際はそうなのだから仕方ない。

てか、俺と先輩が付き合うなんて、そもそも前提がおかしい。

先輩からは散々「岬君はモテない」だの「岬君は獨貴族になりそう」だのと言われてきたのだ、そんな事を言う相手と付き合いたいなんて思わないし、自分がいかに魅力の無い人間なのかも分かってしまう。

「まぁ、先輩に彼氏が出來たら俺も自由のになれるんだけど……」

「それって、岬君に彼が出來ても自由になれるんじゃない？」

「じゃあ、私と付き合ってみる？」

「は？」

俺は古瀬の言葉に思わず間抜けな聲をだしてしまう。

古瀬は俺の方を見てニコニコしている。

「からかうなよ、古瀬なら彼氏なんて選び放題だろ？」

そうだ、きっと古瀬も俺の事をからかっているに決まっている。

ヤリサーと名高いテニサーに所屬しているし、ルックスだってかなり良い、きっと貞の俺をからかって遊んでいるに決まっている。

俺がそんな事を考えていると、俺のポケットのスマホが音を出して震え始めた。

「すまん、電話だ」

「いいよ、出て來て」

俺は席を立って、一旦店の外に出て電話に出る。

「もしもし？」

『先ぱ〜い』

聲の主は実ちゃんだった、聲のじから不機嫌あ様子が伝わってきた。

『早く帰りましょうよ〜暗くなっちゃいますよぉ〜』

「あー、それなら先に帰ってて良いよ？」

『か弱い子高生に、夜道を一人で帰れと？』

「いや、まだ夕方だし……」

『早くしないと、この前のプールで先輩からをみしだかれたって、みんなにバラします』

「直ぐに行きます」

あの日の自分を恨みながら俺は電話を切って、古瀬の所に戻る。

「悪い古瀬！　ちょっと用事あるから、先に帰るな」

「え？　あぁ……うん、じゃあまたね」

「あぁ、またな！」

俺は古瀬にそう言うと、急いで店の休憩室に戻る。

休憩室にはすごく不機嫌そうな実ちゃんが、腕を組んで仁王立ちしていた。

別に俺が悪いわけじゃないのに、なんでこんなに実ちゃんは怒っているのだろうか？

「ま、実ちゃん？　か、帰るんだよね？」

「はい、帰りますよ。あの人は良いんですか？」

「え？　あぁ、古瀬のことか……まぁ、別に特別仲が言い訳じゃないしな」

「ふーん……」

「な、なに？」

実ちゃんはそう言いながら、ジト目で俺を見てくる。

別にやましいことをしてきた訳じゃ無いのに、なんか俺が悪いみたいで居心地が悪い。

「先輩、早く帰りましょう」

「あ、あぁ……そうだな」

俺と実ちゃんは裏口から外に出て、いつものように帰宅し始める。

実ちゃんは帰り道もずっと機嫌が悪かった。

「実ちゃん？　なんで最近そんなに機嫌悪いの？」

「そんなことありませんー！！」

「不機嫌じゃん……」

俺はため息を吐きながら実ちゃんの後ろを歩く。

「先輩は隨分モテるんですね」

「は？　モテる？　一何を言ってるんだ？」

「だって！　……なんでも無いです」

何かを言おうとした実ちゃんだったが、途中で言葉を止める。

「俺がモテてたら、夏休みもバイトなんてしてないよ」

「ふーん」

それと実ちゃんの機嫌が悪い理由と何が関係あるのだろうか？

俺は不機嫌な実ちゃんを家に送り屆け、家に帰宅する。

＊

「岬君、覚えてないのかな？」

私、古瀬優華は貸し切り狀態の店で一人呟く。

先ほどまで話をしていた彼は急いでどこかに行ってしまった。

私はそんな彼が座っていた席を見つめながら昔の事を思い出す。

あれは私が高校二年生の時だった。

実は私は岬君の卒業した高校のすぐ近くの子校の出だ。

彼と始めて出會ったのは大學では無い。

実は高校二年の夏に一度會っているのだ。

「彼……居ないんだ」

私は彼には一個年上で、ミスコンの優勝者の彼がいると先ほどまで思っていた。

しかし、それは私の勘違いだった。

だから思わずあんな事を言ってしまったのだ。

「……で、電話とか……しても良いのかな？」

私は張で手を振るわせながら、スマホの連絡帳にある彼の名前を見る。

彼があの時から何も変わっていなくて、私は安心した。

あの時のまま、優しくて誠実な彼で……。

私はスマホをポケットにれ立ち上がり、店を後にする。

昨日から私はずっと彼の事を考えていた。

「ちゃんと言えば良かったなぁ……」

さきほどの話の容を思い出し、私はため息を吐く。

思わず「付き合ってみる？」なんて言ってしまい、岬君は私がからかっていると思っているかもしれないが、私は結構本気だったりする。

「今度はちゃんと言わなきゃ」

私はそんな意気込みをして、自分のアパートに帰って行く。

＊

古瀬が店に來た次の日。

俺は実ちゃんからの電話で目を覚ました。

「もしもし？」

『先輩、映畫に行きましょう』

「え？　なんで？」

『プールに言ったとき約束したからです』

そう言えばそんな約束したなと思いながら、俺は実ちゃんに言う。

「また今度じゃダメ？」

『ダメです！　一時間後に駅前に集合です！！』

実ちゃんはそれだけ言い殘して、電話を切った。

俺はため息を吐いて肩を落とし、仕方なく映畫に行く準備を始める。

最近機嫌が悪いので、あまり実ちゃんと二人で出かけたくは無いのだが、約束してしまったのだからしょうがない。

「はぁ……今日も不機嫌なままじゃないよな？」

俺はそんな事を考えながら、服を著替えて出かける準備を続ける。

それよりも、実ちゃんは験生なのに、こんなに遊び歩いて良いのだろうか？

俺はそんな事を考えながら、実ちゃんにSNSにメッセージを送る。

【勉強大丈夫？　遊びすぎじゃない？】

送って直ぐに実ちゃんから返信が來た。

【先輩と違って績優秀なので】

嫌みなのか、それとも怒っているのか、それともそのどちらもなのか、俺はそんな疑問を抱きながら荷を持って外に出た。