《ボクの彼は頭がおかしい。》過去
思い返すとウソみたいな話だが、僕とスーパーである五月さつきさんが付き合うまでにわした言葉は、文字に起こしてみるとたったの107文字に過ぎなかった。
あのわずかなやり取りの中で彼が何を考え、何を思ったのか。
平凡な僕なんかに目をつけたのはなぜなのか。
あれから數年が経過した今でも本當のところはよくわからないのだが、僕には確信を持って言える事が1つだけある。
ボクの彼は頭がおかしい。
「まつげ、付いてるよ」
「え、僕?」
「そっそ。鼻のとこ、まつげ付いてる」
「…あぁほんとだ。ありがとうございます」
これが僕と五月の間でわされた最初のコミュニケーション。
先生に當てられた英文を訳している途中に、前の席に座っていたクラス1のから突然話しかけられた。
彼の鼻にはテントウムシが付いていたので、非常に印象に殘っている。
二回目のコミュニケーションは、數日後に訪れた。
數學の小テストの時間。靜かな教室。
前の席に座っていた五月が消しゴムを落とした。
ちょうど僕と彼の中間地點に落下したのだが、彼は拾う気配を見せない。
なぜ?
仕方なくの重心を右に傾け、一杯手をばす。
すると突然、彼がこちらに振り返った。
「それ拾ったら私の彼氏になってもらうけど、大丈夫?」
教室に響いていたシャーペンの音が一斉にやむ。
僕は拾いかけの手を止めた。
今のは、一……
「拾わなかったら私の筆箱になってもらうけど大丈夫?」と畳み掛ける彼。
うーむ…
ショートカットがよく似合っている、人と評判の彼。
見かけとは裏腹にだいぶクレイジーですね。
よく分からなかったけれど、僕はとりあえず消しゴムを拾う事に決めた。
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