《ボクの彼は頭がおかしい。》忘れ
「數學の教科書、貸してくれない?」
「早瀬くんガリ勉キャラなのに忘れてきたんだー。珍しい」
「…うん。いいかな?」
「かまわんよ」
先ほど五月から借りてきたばかりの教科書。
ぱらぱらとめくっていく。
まったく書き込みがされていない。
重要メモなんてどこにもないし、ましてやラインすら引いてない。
新品のようにキレイ。
あの人たぶん一回も開いてないな。
……ん?
落書きを見つけた。
そこにはこう書かれていた。
向日葵が鳴いている。
私の耳が正気ならば。
通りがかった人に訊ねる。
「私は正気ですか?」と。
「狂気ではないでしょう」
期待と現実は平行線をたどるらしい。
上手いことできた世界だ。
それでいて醜い。
水曜日の向日葵と再來月の向日葵とでは、何かが違っていなくてはならない。
しかしながら気付かない。
見落とし、朽ち果て、名を失くす。
必然ではない。
我々が、それらを選択したのだ。
「あの奇怪な文章は何?」
授業が終わり、教科書を返すついでに訊ねてみた。
「それって、向日葵のやつ?」
「うん、水曜日の向日葵」
「……あれね、『わたしはあなたをし続けます』っていうメッセージを暗號化したものなの」
うそつけ。
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