「沙紀に協力してあげてくれない？」

「僕が？」

「そうそう」

「協力って何を？」

「えっとね、沙紀の相談役を……」

「それは厳しいと思う」

ある日、五月に頼み事をされてしまった。

牛くんのことが好きな王(＝沙紀)にアドバイスをしてやってくれないかと。

いやしかし僕と王の関係は完全に冷え切っていて、とてもとてもアドバイスなど出來る狀態ではない。

しかも僕にはそもそも経験がほとんどない。

たまたまの回りに頭のおかしいがいて、たまたま付き合っているがゆえに今があるだけで。

本來ただのオタクボッチである。

それなのに五月のやつ。

「お願い！私そういうの苦手だからさ。それにやっぱり男の子の意見もあったほうが助かると思うし」

「そうかもしれないけど王と僕は――」

「だから、これを機に仲良くなっちゃいなよ！」

「いやいや君はそんな簡単に言うけど――」

「毎日毎日、沙紀に早瀬くんの悪口を言われ続けてる私の気持ち分かる？ものすごく辛いんだよ。本當はめちゃくちゃカッコよくて優しくて最高の彼氏さんなのに、沙紀はそれを知らないばっかりに。うえーん」

「…分かった、頑張ってみるよ」

涙目になりながら頼まれたら斷れません。

だって可いんだもん。

(たとえそれが見え見えの演技だったとしても)

それによく考えてみたら、王と手を組むというのはそう悪い話ではないのかもしれない。

いや、それどころかもしかすると一石二鳥にも三鳥にもなりうる可能を……。

なぜなら、僕が王に協力して牛くんと王をくっつける→牛くんは雫さんを追いかけない＋王からしは認められて五月が気まずい思いをしなくてすむ。

よし、やろう。やるだけやってみよう。

まずは牛くんを探してっと……

はい発見。

今日もワックス半端ないっす。

とりあえず彼のタイプを尋ねてみる。

「どんなの子が好みなわけ？」

「可くておっぱいが大きければオールオッケイ！！」

それなら王でいいじゃないか。

いや、彼のが大きいかどうかなんて知らないけれども。

「雫さんを無駄に追い掛け回すよりも藤堂さん(＝王)と付きあったほうが早いんじゃないの？」

「いや、アイツはダメだ。確かに見た目だけなら余裕でイケるぜ？だけど格がな、ありえねぇんだよな」

あなたの格もありえねぇよ、と心の中でツッコみ、最後にもう一つだけ質問。

「じゃあもしも藤堂さんの格が今とちょっとでも変わったなら、そしたら牛くんは彼と付き合ってもいい？」

「いいぜ。けど、変わるなんて無理だろ。それに今の俺には雫ちゃんがいるし」

いや、いないよ、と心の中でツッコみ、僕はその場を後にした。

続いて王を探す。

こちらもすぐに見つかった。

とある教室の中央、七人の子に囲まれて何やらガールズトークを繰り広げているらしいご様子。

「あのー、藤堂さん」と、し離れたところから聲をかけてみる。

王と取巻きさんたちが一斉に振り返った。

目線に殺気をじる。

ほんと怖い。

「何か用？」と、爬蟲類みたいな顔をした取巻きAが言う。

「藤堂さんに、ちょっと牛くんのことで話がありまして」

僕がそう言うと、冷え切った王の目線がやや泳いだ。

なのでありったけの勇気を振り絞って畳み掛けてみる。

「最近牛くんと話す機會がありまして、いい報があるのでお伝えできればと」

「あなたしつこいよ」

「五月ちゃんの彼氏だからって馴れ馴れしい」

口々に毒を浴びせてくる従者たち。

だが、王が右手をサッと振って周囲を黙らせた。

先ほどまでは僕のことを、まるでゴキブリでも見るかのような蔑んだ目で見ていたのに、今はを乗り出してきている。

「あなたたち、外しなさい」と、王は言った。

同時に取巻きたちが教室の外へと素早く退散する。

権力を間近で見た瞬間だった。

「最初に言っておくけど、あたし、あなたと五月のこと認めてないから」

「そうですか」

「そうよ。でも、今回は牛ピーの話らしいから、聞くだけ聞いてあげようじゃない」

僕は王に、出來るだけ手短に分かりやすく計畫を話した。

まずは牛くんの好みの話(間違っても王にの大きさなど尋ねてはいない)。

それから、王がしだけ変わってみせれば牛くんと付き合えることなど。

「どうせ五月の差し金なんでしょうけど、まぁいいわ。それであたしは、的には何をすればいいのかしら？」

思いっきりバレてるじゃないですか五月さん。

まぁでも、それだからこそこんなにも事が簡単に運んでいるのだろう。

「ギャップを使いましょう。普段は強気な藤堂さんですから、気弱な部分を見せればいいんです」

(つづく)