「大変だ大変だー！！」

本當に大変なのか？と疑いたくなるようなセリフとともに、五月が僕のにダイブしてきた。

場所は學校、時は休み時間。

クラスのみんなは、何か微笑ましいモノでも見るかのように僕たち二人を眺めている。

迷そうな顔をしている人が一人もいないのは、間違いなく五月の人によるものであろう。

「どうしたの？」

彼の頭をでながら訊ねる。

「指が……」

そう言って左手を見せてくる彼。

その表は焦りと不安に満ちていて落ち著かない。

ケガでもしたのかな、指。

「どれどれ」

五月の細くて綺麗な指を眺める。

あぁらかでし――ん、そういうことか。

一本だけ、痛々しく腫れ上がっている指がある。

けれども骨折しているようには見えない。

よくあるただの『突き指』だろう。

それなのにどうして五月はこんなにも焦っているのだろう。

「そんなに痛いの？」と、彼の顔を伺いながら言う。

「ちょっと痛い……ってか重要なのはそこじゃなくて、これ何日か経ったら治るんだよね？大丈夫だよね？ね？」

その瞬間、彼の言わんとすることが分かった。

思わず笑みがこぼれる。

「大丈夫。すぐ治るから」

「ほんとに？」

「うん、ほんと。じゃ、氷もらってくるからここで待ってて」

「ありがと早瀬くん」

僕は教室を出て保健室に向かった。

それは氷のった水袋をもらうため。

ひいては五月の腫れ上がった左手の薬指を冷やすため、である。