《ボクの彼は頭がおかしい。》後日談①

【同級生編】

「悪かったな早瀬」

僕に謝るクラスメート。

そして彼は一歩橫にズレると、五月にも同じように謝った。

「大切な彼氏さんに悪戯しちゃってすみませんでした」

「もうイジメちゃダメだよ?」

五月はそう言って、笑いながら彼に軽くビンタした。

「うっす!」

彼は優しく叩かれた頬をなでつつニヤニヤしながらその場を去っていった。

今度は別の同級生の番。

「イジめてごめん」と、彼。

「気にしないでください」と、僕。

「五月ちゃんごめん。彼氏イジメちゃって…」と、彼。

「今回は特別に許してあげる」と、五月。

先ほどと同じように、彼にビンタという褒を與える。

そしてこれまた先ほどの彼と同じように、彼は嬉しそうにして帰っていった。

おおよその察しはついたと思いますが、僕と五月の前には長蛇の列が出來ています。

みんな僕に一言謝って、五月からビンタをけるために並んでいるのです。

わざわざ謝る必要なんかないのに、彼らがどうしてもというからこんなことになったのです。

間違っても僕が、「お前ら全員僕に謝れ」なんて言ったわけではありません。

むしろ謝しているぐらいなのですから、そんな要求するはずがありません。

彼らが自発的に謝りたいと言い出したのです。

彼らの目的は分かっています。

みんな五月にビンタされたいんでしょうね、はい。

「ごめん早瀬」

「いえいえ」

「ごめんなさい五月さん!!!」

「いいえ!」

「ほんとすみませんでした。では、ビンタを!!」

「はい。じゃあいきます」

ぺちん。

「うぉぉ!ありがとうございました!!」

こんなじです。

結局、ビンタ會が終了するまでに數時間を要した。

ちなみに前田くんとか何とかいう人はいつの間にか転校してた。

してたというか、させられたらしい。

誰が手を回したのだろう。

王と牛くん編】

「この度は大変お世話になりました」

深く頭を下げる僕と五月。

「あなたにお禮を言われる筋合いはないわ」

冷たく言い放たれたこの言葉はもちろん王のもの。

顔をあげると、氷のような瞳にガッチリ捕まってしまった。

「何か勘違いしているんじゃない?あれは全部五月のためにやったことなの。あなたみたいな薄汚いドブネズミの事なんか、これっぽっちも考えてないわ」

「あぁそうですか」と、僕は苦笑する。

しは仲良くなれたのかと思っていたけど、そういうわけでもないらしい。

「ちょっと沙紀。何で本人の前だと悪口ばっかり言うの?」

五月が口を尖らせる。

「あら、ごめんなさい。実を見るとついつい本音が…」

五月に笑みを向ける王。

整った橫顔だなーなんて心したりする。

ほんと、もうちょっと人間味のある格をしてればね。

惜し――

「あなた、ちゃんと分かってるんでしょうね?」

「え?あ、はい多分わかってます」

いきなり話しかけられた。

空想していたために返事が適當になる。

「もし、もう一度五月を泣かせるような事があったら…その時は覚悟しておきなさい」

「泣かせません。大丈夫です。わざわざ忠告ありがとうございます。本當に大丈夫です」

王の目が灰に見えて怖すぎてちょっとパニクった。

それから五月と王が優雅にお喋りを始めたため、牛くんのところにもお禮を言いにいった。

「んなことよりあの時の俺、超カッコ良かっただろ?」

「…いや、まったく」

ちょっと見直してたけど、やっぱり牛くんはただの牛くんだった。

「マジで心配してたんだからな。俺も大雪も、みんな。特に沙紀なんかお前の心配ばっ――」

「牛ピー、何の話してるの?」

どこからともなく王様が登場した。

「あ、沙紀…」

「余計な話をしようとしてたみたいね。來なさい」

「え、ちょ!!まだコイツには何も言ってねぇよ!」

「言いかけた時點で死刑だから」

王の満開の笑顔を見たのはこの時が初めてだった。

の気の引いた牛くんが、王に連行されていく。

僕は姿勢を正し、靜かに敬禮した。

「あらら、牛ピーに謝るタイミング逃しちゃったな」

気付くと隣に五月がいた。

「また今度でいいでしょ」と、僕は言う。

「その『今度』っていつ?」

「…ないかもね」

「わたしもそう思う」

ご愁傷様。

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