《嫁ぎ先の旦那様に溺されています。》一つ屋の下での事(6)
「……」
何故か、私の言葉に無言になる総司さん。
しの間、沈黙が流れる。
そこで私は――、
「そういえば……。結局、昨日はお帰りになられなかったんですか?」
「そうだな。仕事が溜まっていたからな」
たぶん、高槻さんは平社員ではなく上の方の役職だと思う。
運転手さんが付いているし。
ただ、私生活は結構ズボラな所があるので、その辺だけはアレだと思うけどね。
「今日は、帰ってきますか? それによって獻立も変わってきますので」
「そうだな。何とか帰れると思うが?」
「そうですか。分かりました。何か、食べたいとかありますか? あったら用意しておきますけど」
「俺が食べたいか……、別に何でもいい」
何でもいいっていう答えが一番困るんですけど!
とくに私の場合は雇ってもらっている訳なので、立場的に非常に低いわけで――、しかも借金返済だから、普通の家政婦よりも扱いはどん底。
「分かりました」
でも、私の立場では文句を言うことも出來ないので素直に頷くしかない。
幸い、朝食を作って出した時も文句は言われなかったので大丈夫だと思うし。
「それと……、櫟原は、送り迎えは出來ない。分かったな?」
「分かりました」
そもそも好意で送り迎えをしてもらっていると思うし、何より學校までロールスロイスでの送り迎えはし気が引けていたので丁度いい。
「……と、とりあえずだ。借金を返済し終わるまで怪我なんてするんじゃないぞ?」
「分かっています!」
ほんと一々、事あるごとに小言を言ってくるんだから。
しかも借金に関して――、そんなに借金返済が大事なのか……。
「それじゃな」
「はい。総司さんもお仕事がんばってくださいね」
通話を切ったあと、ドッと疲れが溜まった。
まだ、一日は始まったばかりなのに……。
「とりあえず朝食でも食べよ」
一人分なので、朝は軽く済ませる。
そのあとは、學校へ向かう。
「莉緒、おっはー! あれ? 今日は車じゃないの?」
校門前でバッタリと會った私の親友の穂。
「おはよ。うん、今日は忙しいみたいなの」
「へー。それじゃ、お嬢様バージョンの莉緒様デーは終了なのかな?」
「何よ、それ――」
突っ込みをしてくる友達に言葉を返しながら昇降口へ共に向かう。
すると、剣道著を著た大和と剣道部の顧問をしている先生が廊下で話している姿が見える。
その様子を見て靴箱に靴をれたまま、直する私。
「そういえば莉緒。大和、剣道の県大會に出場が決定したんだって」
「そうなんだ……」
彼の橫顔。
それは、すごく嬉しそうで――、大和の笑顔を見るだけでが溫かくなる。
だけど、それは長続きしなかった。
先生と話していた大和が私に気が付いた途端に眉間に皺を寄せたかと思うと、顧問の先生に頭を下げて、すぐに育館の方へ行ってしまったから。
「大和……」
よく分かんない。
でも、よく分かんないけど……、をギュッと締め付けられる。
それは、痛くないのに、すごく痛い思い。
言葉では言い表せられない複雑なが中を支配する。
「莉緒……、ほら! 急がないとホームルームに間に合わないよ!」
穂が私の手を摑むと明るい聲で引っ張ってくる。
ホームルーム開始までは、まだ時間はあるのに――。
でも、私は何となくだけど分かっていた。
穂は、泣きそうになっていた私を――、周りに生徒たちが居て大勢の目があったから遠ざけようとしていたと言う事を。
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