《嫁ぎ先の旦那様に溺されています。》借金の真相(2)

「――え? ……で、でも……」

「おかしいか?」

「いえ、そうではなくて――。あまり神社の事に関して……」

彼から聞こえてきた答えが、あまりにも予想外だったこともあり私は口ごもってしまう。

そんな事を高槻さんが考えているなんて思わなかったから。

「そうか……」

殘念そうな表で彼は私を真っ直ぐに見てくる。

「――で、でも! それなら、どうして私なんかを……」

本當に神社を守りたいなら、私なんかを手元に置く必要も、婚約をする必要もないと思う。

「ここの神社を継ぐための條件として神子舞が出來る人間が必要なんだ」

「神子舞?」

聞き慣れない言葉に私は疑問を呈する。

「巫舞、巫神楽とも言う」

「あ……」

そこで私はようやく得心いった。

「分かったか?」

「はい」

私はコクリと頷く。

でも、それって……私のことを道だとしか思っていないという事で……。

「だから、君には言いたくなかった」

彼は自責の念があるからなのか私から目を逸らす。

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だけど! 私としては本心を隠されて接せられるよりずっとマシで――、

「つまり高槻さんが、私のお父さんにお金を貸したのは、私が高槻神社の巫舞が出來るからということですか?」

「そうだ」

ハッキリと彼は言葉を口にしてくる。

それに、私は溜息をついた。

お父さんは最低だけど、借金の理由について隠していた高槻さんも最低で――、それに気が付かない私も抜けている。

「それじゃ、私を婚約者としてと表向きに決めていたのは……」

「親族に雇っているという理由で反対されるのを防ぐためと、君の私生活を守る為でもある」

「私の?」

「そうだ。父親が失蹤し、君には親戚もいない。そうなれば施設に行くことになるし引っ越しを余儀なくされるだろう? それに、どういう扱いになるのかもわからない。それに……」

「それに?」

「いや、何でもない。とにかく、そういう理由だ」

「なら、私を遠ざけようとしたのは……」

「君への負擔が大きかった事と、笑わなくなったからだ。そこで俺は気が付いた。自分の想いを大事にするあまりに君に自分の考えを無理強いしていたという事に」

「……それじゃ神社は……」

「ああ、仕方ない。廃社になるが……君が高校を卒業するまでは援助をしよう」

意を決した言葉。

彼の瞳から察するに、もう決めてしまったのかもしれない。

「廃社になったら、ここはどうなるんですか……」

「親族は産業廃棄処理場にする考えのようだ」

「――え?」

一瞬、彼が何を言っているのか私は分からなかった。

だって、あまりにも酷い容だったから。

「そんなの駄目です! どうして、神社を存続させないんですか?」

「本庁の方から、高槻神社は巫舞が存続の理由だからだ。だから、すでに舞える者がいないのなら存続は出來ない」

「私以外には――」

「探したが、祖母が巫舞を教えたのは君と同世代の子供達だけで、習得しているのは君だけだ」

「そんなのは……」

「分かるさ――。見ていたからな」

彼は見ていた。

夏祭りの時に、私が舞ったことを。

子供の頃に、先代神主さんの奧さんから教わった巫舞を披した場面を。

「そうだったんですか……」

「ああ。君には悪かったと思う。俺の考えを押し付けていたのだから」

「でも、私が居なくなったら神社が無くなるんですよね?」

「そうなる」

その言葉に私は、自分のスカートを握りしめる。

私とお母さんの思い出のある神社。

それが無くなるのは嫌。

そして、彼も同じ気持ちなのかも知れない。

「一つ聞かせてください。高槻さんは、どうして神社を守りたいんですか?」

「それは、俺の祖父が神主だったからだ。子供の頃に見てカッコいいと思った。そして――、ここの神社は靜かで凜とした空気が好きだからだ。それだけだな」

「……かっこいい?」

――思わず笑みが零れてしまう。

「かっこいいから」と言うそんな事を彼が口にするとは思わなかったから。でも――、

「おかしいか?」

「いえ。分かりやすくていいと思います」

変に飾らないのはいいと思うし、何より彼の気持ちが伝わってきた。

そう――、本當に神社が好きだという気持ちが。

だから――、

「分かりました」

「そうか。それでは、話は終わ――」

「まずは神社を守ることを考えるとしましょう!」

彼に借金をしているのは確かだけど、私だって神社を守りたい。

その気持ちは同じ。

だったら迷うことなんてない。

その為なら、多の演技だってして見せる。

「お前は、人の話を聞いていたのか?」

「はい。高槻さんは、大事な神社を守りたいという話ですよね? 私だって、この神社にはお母さんとの思い出があります。――なら同志ですよね? 神社を守りたいと思う仲間です!」

私は手を握りしめて力説した。

そんな私を見て彼はキョトンとすると、「そういう答えに行き著くのか」と、笑いながら何時も通りの何かを企んでいる笑みを浮かべると、「分かった。――なら、これからはを共有するとしようか?」と、手を差し出してきたので、握り返すと思いっきり握られて私は思わず悶絶する。

「まったく莉緒の分際で生意気だぞ」

「酷いです……」

「すまないな。さて――」

彼は、そう呟くと今後の事について話し始めた。

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