《男がほとんどいない世界に転生したんですけど》行方不明の雫
「あのー、俺に何か用なんですか?」
ここは生徒が絶対に行きたくないと思う場所……生徒指導室だ。
俺が奈緒先生に呼ばれた時は焦った。もしかして、さっきスマホを使っていた事がバレたのでは無いかと思ったからだ。
だけど、し様子がおかしい気がする。
奈緒先生の表はいつもとは大きく違い、相を変えている。その表が俺をしだけ不安にさせる。
生徒指導室の部屋は小さくてシンプル。
白い長機にパイプ椅子が二腳しか無い大変質素なものだった。
単純に一対一で話す場所なので、余計なはいらないのだ。
俺と奈緒先生は黙って座る。
……謎の張が俺を襲う。
奈緒先生はいつにも増して真剣な顔。
でも、よく見るとしだけやつれていた。目のクマも想像以上に凄い。
「どうしたんですか奈緒先生?ひどく、疲れているように見えますけど?」
……心の中の不安を紛らわせたかったのかもしれない。気がついた時には俺は奈緒先生に質問していた。
「あ……そうですか。そう見えますか……」
奈緒先生は目を閉じ、パイプ椅子に深くもたれ掛かる。子供の見た目の奈緒先生、だからしだけ可哀想に見えてくる。
「………………私、新人教師なので毒牙先生が、放ったらかしにしていた期日ギリギリの仕事を代理でやっていたんですよ。そのせいで、ここ數日寢てません。」
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あー、それはご了承様である。て言うかまた毒味先生?
「大変っすね。大丈夫ですか?」
「正直しんどいですよ。やっと終わったと思ったら、新たな問題が迫ってくるんですから。」
そう話すと、奈緒先生はずいっと顔を近づけて來て俺に聞く。
「単刀直に聞きます。優馬君、あなたは金曜日の放課後、雨宮 雫さんと一緒に帰りましたか?」
え……っと。え?
由香子と同じ質問をされ、反応が遅れる。
「えっと、はい。それが……どうかしたんですか?」
「一応の確認です。學校の生徒が雫さんとあなたが一緒に歩いて帰っているのを見かけていたので。聞いたんです。」
「……………ということは話って俺の事じゃなくて雫の事なんですか?」
「はい。その通りです。」
奈緒先生は深刻そうな表で答える。
「え、雫ってやっぱり……何かあったんですか?」
どうか……「いいえ」と言ってくれ。そう願いながら聞く。でも答えは、無にも……
「───はい。」
俺の考えていた最悪なケースになった。
 
「生徒では、特別に優馬君だけに教えますが、現在雫さんは行方不明です。」
 「っ………」
頭の中が真っ白になった。
し、雫が行方不明?ど、ど、どうして?意味が分からない。
雫のあの笑顔、過ごした時間その全てが崩壊していくイメージに囚われた。
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雫が居なくなる……そう思うと、居ても立ってもいられなくなる。
「昨日、雫さんの親さんから連絡がありました。
金曜日から雫さんが家に帰っていないと。
親さんは必死で探したが見つからず、警察に行方不明屆も出したらしいです。
もう行方不明になってから4日目です。警察も苦戦していて何の果もありません。雨が降っていたので証拠が全て流されてしまったそうです。なので、しでもいいです。どんな些細なことでもいいです。雫さんについて何か報は無いですか?」
俺は頭が真っ白な狀態だったが、なんとか気合いで思考をめぐらせ質問に答える。
「金曜日は、俺の家までは一緒に行きました……
その日は雨が降っていて、ずぶ濡れだったので雫は家に真っ直ぐ帰ってるはずですよ。だけど……」
「だけど……?」
「はい、でも雫はいなくなった。という事は、雫の事を予め狙って犯行を行ったってことになりますよね?」
俺の考える最悪なケース。それが拐だ。
雫の家は俺の家から近いと前に雫が言っていた。
だから、俺と雫の家の短い距離で雫を拐するとい事は狙って犯行を行ったとしか考えようがなかった。
「拐………ですか。でも、それが一番可能が高いかもしれませんね。あの雫さんが、自ら行方不明になったとは到底考えられませんし……」
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俺の推理に奈緒先生は頷く。
でも……もしかして……いや、あれはたまたまだ。
一瞬、嫌な事が頭をよぎったが、まずは雫の事だけを考えよう。
「では私は今から優馬君の推理を先生達と警察に伝えて來ます。優馬君は何か雫さんからの連絡があったり、何か報が摑めたらすぐに教えてください。」
「はい。…………分かりました。」
「では、話は終わりです。また聞くかも知れませんが、優馬君は先に教室に戻って皆さんに今日の數學の授業は自習だと伝えて下さい。」
そう言って奈緒先生は生徒指導室を出て行った。
1人殘された俺、自分で言っておいて何だが……心は激流のように思考を巡らせていた。
俺は何度も深呼吸をして落ち著こうと努力する。
だけど、雫が拐されたことが未だに信じられない。
まだ、俺の想像でしかないけど俺の中ではもう雫は拐されたと確定していた。
考えろ、俺には考えて良案を思い付くしかないんだ。考えろ。考えろ……ッ。
─────そして數多の駄案を思い付いては破棄を繰り返し、ある1つのことに気が付いた。
犯人は雫を拐した時、証拠を殘さないように気を使って雫の荷も殘さず一緒に持って行ったはずだ。
そして雫はその日、俺の時計を持っていた。
GPS機能付きの時計が……
スマホとか電子機類は電源を切られたり、壊されたりすると思う。だけど見た目がかない時計を一々確認するか?GPS機能が付いていると犯人は予想するか?
──否。その確率は無いに等しい。
場所が判明している。その時點で俺の予想はほぼ的中していると言えた。
「──ねぇねぇ聞いた?化學の毒牙先生の化學準備室からやばい薬品が沢山見つかったんだって。怖いよねー」
唐突に、榊原さんと近藤さんの會話を思い出す。
そして、悪寒が俺を襲う。
……!?もしかして……もしかしてだけど。
いやいや、そんなのある訳ない。
………でも100%違うとは言いきれない。きっかけも何となく分かってしまう。
そう考えた瞬間から、俺の本能が発した。
“雫が危ない!!!”と。
「ふっ………」
俺は無意識に息を吐き出す。
あの日……雨が降っていて良かった。時計が防水じゃなくて壊れて良かった。雫が時計が壊れている事に気付いてくれて良かった。雫が俺の時計を持って行ってくれて良かった。
俺は気づいた時には生徒指導室を飛び出していた。
「えぇっ!?優馬君どこ行くの!」
途中で奈緒先生とすれ違ったが説明する時間も惜しんだ俺は「雫を助けに行きます!」とだけ言って走り去った。
「待ってて、絶対助けるから。それまで無事でいてくれ、雫!!」
自分を信じろ、例え間違いだとしても俺の不安が解消するだけだ。もし雫に何かあったら俺は死ぬまで後悔し続けるだろう。だから俺は絶対に後悔しない道を選ぶ!
俺はポケットからスマホを取り出し、握りしめながら走る。このスマホが唯一雫の場所を知る手掛かりだ。無くさないためにと。無意識に手に持っていた。
GPSが示した場所は學校からかなりの距離がある。
俺には自転車や車も無いし、お金も無い。
でも、迷っている暇があれば走るしかない。
こんな時のためだろう!俺がこれまでを鍛えてきたのは……
今こそ真の力、馬鹿力……なんでもいい。しでも、1秒でも早く……雫の元に辿り著けるように力がってくれ!!!!
學校から飛び出し、目的地へとひたすらに走る。
後先考える暇もなく、ペース配分もお構い無しに、ただ単に全力で……
息が苦しくとも、雫の方が絶対に苦しいんだと自分にムチを打ち続け、気とで走り続けた。
☆☆☆
見た事も無い道を通る、いつもなら迷いそうだが地図を見て真っ直ぐに最短で、全力で向かう。
通りかかるの人は必ず俺の事を2度見し驚くが俺は全く見向きもしないし、反応もしない。
そんな余裕など無いからだ。
俺は立ち止まらなかった。
そんな、まだまだ距離があるのに力の殆どを消費し、心焦りが出始めた俺の元に………
──キキィッッ!!!
俺の目の前に1臺の黒い高級車が急停止した。
俺が通ろうとした道をドリフトでり込んだ來た車で完全に塞がれ、立ち止まるしか方法が無くなる俺。
「クソ、なんだよこの車ッ!邪魔だ!」
焦っていることもあり、口調が荒くなる。
暴言もつい出る。
すると、車の窓が開きよく知る人が俺に聲を掛けてきた。
「──優馬様!一どうなさったんですか!?
まだ學校に行かれてる時間ですし、荷はどうなさったんですか?それに、そんなに焦られてどうなさったんですか?」
そう、車の運転手はかすみさんだった。
そのかすみさんも俺の奇行にかなり焦っているようだった。
「か、かすみさん………?どうしてここに?お母さんと一緒に仕事に行ったんじゃなかったんですか?」
突然のかすみさんの登場に驚き、怒りが何処かに飛んで行った、俺。いつもの口調に直し、簡潔に喋る。
「私はただお母様を會社まで車で送迎しただけです。一日の買いも済ませ、今から帰ろうとした時にちょうど優馬様の姿が見えましたので、一何事かと思いましたよ。」
「う、すみません。でも、友達の……雫の危機なんです!」
俺の言っている事はめちゃくちゃで、すぐには理解できない。かすみさんも頭に?を浮かべている。
「まずは車に乗ってください。事は車で聞かせてもらいます。優馬様はとにかく人目に著きます。」
「は、はい。」
俺はかすみさんに従い、車に乗り込む。
そして、時間が惜しいので俺が行かなければならない目的地を初めに教え、そこに車で向かっている間に事をかすみさんに話す事にした。
雫が金曜日から行方不明なこと。GPS機能のこと。俺の推理で拐の可能があること。そして、雫を今から助けに行くこと。
俺が言えるのとは全部言った。
「なるほど………分かりました。でも、危険すぎます。優馬様は“男”なんですよ!もし何かあったら、どうするんですか?」
かすみさんはの籠った言葉で俺に言う。こんな、かすみさんは初めてで……意外で……嬉しい……だけど……
「雫は俺が……俺の手で助けます。もしかしたら、雫が拐された理由は俺が原因かもしれないんですから……」
かも……じゃない。十中八九俺が原因だ。
「それだったら、警察に任せればいいじゃないですか?」
かすみさんはド正論を言う。確かにそうだ。俺も考えた。でも……
「かすみさん、警察に任せた方が確実かもしれない。そんなの俺も分かっています。
だけど、その分時間が掛かりますよね?雫は今も、すごく危険な狀態かもしれないんですよ!辛いのを何とか耐えているのかもしれないんですよ!
俺の事なんてどうでもいいんです。俺は雫を1秒でも早く助けたいんです。」
決死の覚悟で俺は言う。
「…………………っ。はぁ、分かりましたよ……優馬様のわがままに今回だけ特別に従います。それだけの覚悟、私には止められません。」
數秒考え込み、溜息をつきながら、かすみさんは言ってくれた。
「あ、ありがとうございます。かすみさん。」
俺は頭を下げる。心の底から謝する。
ここでかすみさんに止められていたりしたら、走行中の車から無理やりにでも飛び出て、ここから走るしか選択肢が無かった。
「いいんですよ。今は一大事です。できる限り協力します。
私はついでに警察に事を伝えに行きます。電話では時間も掛かりますし、直接行って応援を呼んできます。」
「何から何まで、ありがとうごさいます。」
深く深く、頭を下げる。
「いえいえ、の私に出來ることはこれぐらいですから。
たとえ雫様が拐されていたとしても、許可無く他人の敷地にったら不法侵です。
男の優馬様ならまだ、目をつぶって貰えると思いますが、の私はダメです。一発アウトです。
ここで捕まったりでもしたら今の仕事が出來なくなってしまいます。それだけは絶対に嫌なのでここだけは譲ることが出來ません。大事な所で役に立たなくて申し訳ありません。これは…お母様との契約なんです。」
かすみさんは俺と同じように頭を深く下げて謝ってきた。
「いえ、謝らないでください。十分ですよ。
俺1人ではこんなに早く目的地に著かなかったし、警察も呼べなかった。謝してもしきれません。」
かすみさんが一緒に行ってくれないのはしだけ心細い。だけど、十分かすみさんは俺のために頑張ってくれた。協力してくれた。
今までで一番かすみさんに謝する。
「………………そのお詫びと言ってはなんですが、お守りにこれをお持ちください。」
そう言って運転しながら、かすみさんは黒いリモコンのようなものを懐から取り出し、渡してきた。
黒いリモコンのようなものは、ボタンが1つしか付いていなく、手にしっくりはまる作りになっていて握りやすい。大きさもコンパクトだけどお守りにしてはあまりにも重い。
「えーっと。これは何ですか?」
「これは、私が作ったお守り兼護用のスタンガンです。これでもし拐犯が優馬様に襲ってきてもを守れるはずです。
一応、スタンガンの説明をします。まず、取扱に十分注意して下さい。誤作でこれを食らったらしばらくが言うことを聞きませんから。
それで、これは私が改造した特別用なのでボタン一つで使いやすいですが、加減を間違えると相當な電気が流れて危険です。使用する場合は本當に気を付けてください。」
「はい。もしもの時にだけ使います。ありがとうございます。」
あくまでこれはお守り。これを使う時は相當雫がピンチの時だけだ。俺はなるべく使いたくないという願いを込めて制服のポケットにしまった。
スマホを見て、GPSが示す場所と現在地を確かめる。うん……著実に近くなっている。後、數分で著くだろう。
「雫………どうか、無事でいてくれよ。」
俺は手を合わせながら祈った。
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