《視線が絡んで、熱になる》episode1-7
やはり、昨日彼と一夜を共にしたのは間違いではないし彼は學生時代の自分を知っている。ごくり、唾を飲み込むもののの奧までカラカラで何か飲みを持ってくるべきだったと後悔した。
「隠すも何も…私は、」
ぎゅうっと太ももの上で拳を作る。揺を隠すように引きつった笑顔を見せるが柊はすべてを見抜いているように琴葉を見據える。
「元カレに裏切られて、それがお前の黒歴史?」
「…なんで、それを…」
「だから、言っただろ。お前と同じ大學で學部も一緒だったんだよ」
「でも私は知りません…!話したこともないし…サークルもってないし、學年も違う…」
早口でまくし立てるようにそう言う。
「覚えてないわけか」
強く鋭くる瞳は、愁いを帯びたものへと変化し、琴葉の心を揺さぶる。
「知っているんですか…私のこと」
怯えたような面持ちの琴葉に柊は間髪れずにもちろん、と答える。
―琴葉の最低な過去、消してしまいたい過去を彼は知っている。
琴葉はそこまで言う柊との接點をそれでも思い出すことが出來ない。
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「あの…學生時代のことは、言わないでください。私にとって、思い出したくもない過去なんです」
「どうして?」
「それは…々あって」
「男に裏切られたとか?」
「っ」
「當たってるのか」
どこまで知っているのだろう。
どんどん呼吸が荒くなっていくのをじながら、必死に平靜を裝う。しかしそれも彼には見かされているような気がした。
確かに春樹には本命の彼がいて、遊ばれていただけだった。それを知っているということは、春樹と親しい人だったのだろうか。
「思い出したくない過去、か」
「だから、そう言ってるじゃないですか!私は…っ…遊ばれて慘めで、好きな人のために努力したのに…それすら周りから嘲笑われて…」
泣きそうになるのを我慢するために下を強く噛んだ。職場で泣くなどあってはならない。琴葉は必死に下瞼で涙を支えた。柊がふっと軽く笑う。
「周りから?俺はそうは思ってないけど」
「…え、何を言って…」
「俺は可かったと思ってる」
「か、可かった…?」
衝撃だった。琴葉は柊の発した言葉を諳んじて確かに今、彼の口から出た言葉だということを確認する。
春樹からも言われたことのないそのワードにが早鐘を打つ。
琴葉の過去を知る目の前の男は、茶化すわけでもなく、冗談でもなく、真剣にそう言った。
「昨日だって、そうだった」
「…え、え…」
立ち上がる柊に思わず琴葉も立ち上がった。そして、柊は二人の間に隔たるテーブルの橫を通り、琴葉の正面に立つ。
至近距離で見下ろされ、赤面したまま一歩ずつ後ずさる。
心臓の音が彼にまで屆いているような気がした。それほどかつてないスピードでそれがいている。
これ以上いたら死んでしまうかもしれない、本気でそう思った。
顎を掬われた。控え目な視線が柊と強制的に絡み、琴葉は抵抗することさえできない。
「お前がどれだけいいか、教えてやろうか」
「…い、い、意味がわかりませんっ…」
「だから、教えてやるって言ってんの。もう一度してみる気ないのか?」
「ありません!」
柊のれる顎にだけ異常なまでに熱が集中して先ほどとは違う涙が出そうだった。
琴葉の脳はパニックだった。
疑問符ばかりが浮かび、どれも消化しないまま新たなそれが生まれる。
何一つ理解できないまま、柊によって思考回路が破壊される。
もう限界だった。
「あ、そうだ。うちに忘れあるんだ」
「忘れ?」
「そう。時計」
琴葉は、はっとして柊から無理やり離れると自分の手首を見た。
確かにない。鞄の中にれたかもしれないが、昨日外した記憶がなかった。シャワーを浴びたときには既にしていなかったからその前に外したということになる。
「腕時計…どこに?」
「俺の家。取りに來いよ」
「無理です!持ってきてください」
「嫌だね」
意地悪そうにそう言うと彼は自の腕時計を見て息を吐いた。
「10分になるな、面談は以上。それからこれ、俺の電話番號。登録しておくように」
「…は、はい」
切り替わったようにそう言ってノートパソコンを手にすると會議室から出ていった。
「…なんなの…」
極度の張から解放され、しゃがみこむ。
手には柊から手渡された連絡先が書かれたメモがある。呆然とそれを見つめて何度目かの息を吐く。
note+ノベルバ+アルファポリス+電子書籍でエッセイ、小説を収益化しつつ小説家を目指す日記
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