《視線が絡んで、熱になる》episode3-4

翌朝

攜帯のアラーム音が鳴る前に目覚めた。

目覚めたときには既に隣に柊の姿はなかったが、彼がいたであろう琴葉の隣に手を當てるとまだ人のぬくもりをじられて思わず顔を綻ばせていた。

昨日は普段よりもよく寢たような気がする。目覚めがいい。それは慣れない部署異での気疲れが溜まったせいで普段よりもぐっすり眠れたのか、はたまた柊が隣にいたからなのかはわからない。

でも、確かなことは柊に抱きしめられて眠った昨夜は張こそしたものの安堵して瞼を下ろすことが出來たということだ。

を起こして、ベッド縁に腰かけたまま背びをした。そのまま立ち上がると壁一面にある本棚を通り過ぎカーテンを開けた。眩しいが琴葉のを照らす。

今日の天気も晴れのようだ。朝から天気がいいとやはり気持ちがいい。

そして、寢室のドアをそっと開けてリビングルームの様子を窺う。

柊が部屋著のままコーヒーを飲んでいるようでソファに腰かけてiPadを見ていた。

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「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

昨日、琴葉は間違いなく柊とキスをした。あの熱い接吻は夢でも何でもない、現実だ。

寢室のドアの前で顔を赤らめていると柊が琴葉を一瞥していった。

「普段は朝食は食べないんだ。だから今うちには何もない」

「あーいえ、大丈夫です。私も普段食べません」

「そうか。でも何か必要なものがあれば言ってくれ。用意しておく」

そういうと、彼はまたiPad畫面を指でスクロールし始める。

(…用意しておく?どういうこと?)

今日柊の家を出たらもう彼の家に來ることはないと思っていた。だからこそ、柊のその発言には違和がある。昨日のキスのことなど全く気にも留めていないようだし、本気で彼の考えていることがわからない。

わかるのは…―

昨日のキスのせいで琴葉の心は大きくれているということだった。

「じゃあ、準備します」

「コーヒーはいるか?」

「いえ、大丈夫です」

琴葉はそう言って、逃げるように洗面所へ駆け込み、著替えをした。

顔を洗って、フワフワのフェイスタオルで顔を拭いた。當たり前のようにいつの間にか置かれている琴葉の歯ブラシに何だかくすぐったい気分だった。

(…他のにも同じようなこと、してるのかな。)

どうしてそんなことを思ってしまうのかはわからない。でも、自然との影を探している自分にため息が出る。

何がしたいのか一番わからないのは琴葉なのでは、と思った。

著替えが終わり、昨日買ってもらった化粧品たちをリビングで眺めていた。出社までは時間がある。

ソファに座る柊の斜め前に腰かけて化粧をしていこうか迷っていた。そんな琴葉に気が付いたのか、柊が琴葉に目を向ける。

「どうした」

「いえ、化粧をしようか…迷っていて」

「するの一択だろ」

「…そうですよね」

「お前はお前のために、すればいいんだよ」

「…」

「努力する奴を笑うような社員はなくともうちのチームにはいない。いるなら俺が許さない。だからしたいようにしたらいい」

「…わかりました」

上司の顔を見せる柊に自然に口角が上がっていることに気づく。昨日は、“一式ください”と柊が言ったのをいいことにブラシなどのツールも當然のように會計に含められていた為、高級ブラシがいくつか琴葉の目の前にある。

出社まで時間があるとはいえ、慣れていない化粧でおかしくなったら元も子もないから當初考えていた通りファンデーションとフェイスパウダー、アイブロウだけを施す。

それでも30分はかかってしまった。

…慣れないと朝から早起きしないといけないようだ。

なんとか様になった顔を鏡で確認して普段通り髪をセットする。そして、あることに気づく。

―柊は何て言ってくれるだろう。

気が付くとそんな思いが琴葉のの中に広がっていく。

昨日もそうだったが、まだ出會って數日しか経過していないのにも関わらず、柊のことで頭がいっぱいになっている。こんなことは通常の琴葉ならばまずない。

久しぶりにキスをしたから?いや、その前からだ。柊と初めて一晩を過ごした(何もなかったようだけど)あの日から―。

「じゃあ、先に行きます」

いつの間にかスーツ姿になった柊に伏し目がちにそう伝える。紺のネクタイを首元で調節しながら琴葉を見る柊の手が一度止まった。

「なるほど。やっぱり綺麗だ」

「…っな、」

「休みの日はコンタクトも揃えた方がいいな」

「…はい。あ、化粧品って…」

簡単に綺麗と言えてしまう柊に琴葉も簡単に顔を火照らせる。

綺麗と言われる度に、綺麗になっているような錯覚を覚えるほど柊の口から発せられる言葉は特別だった。

琴葉は昨日購した化粧品のった紙袋を見ながら答えた。

「持って帰った方がいいですよね。邪魔だし」

「置いておけばいいんじゃないか。重いだろ。まぁ、確かにお前が自分の家に帰宅したら化粧品が手元にないわけか…」

別に重くても柊の家にそれらを置いておく理由にはならない。それなのに、また彼の家に來る“口実”を自ら作ろうとしているような気がして自分がわからなくなる。

(一、私はどうしたいの…?)

「わかった、これはここに置いていけばいい。土曜にまた化粧品揃えて買ってやる」

「へ?!いや、いいです!何言ってるんですか」

「同じものでいいなら俺が買ってきてやってもいいが…どうせなら違うものも買ってみたらどうだ。それをお前の家に置いておけばいい。面倒なら一緒に住んでもいい」

「い、一緒に住む?!」

フラフラとを左右に揺らして危うく座り込みそうになるのを近くのダイニングテーブルの端を摑んで支えた。

柊の考えはやはり琴葉には理解できないと悟って、「とりあえず、出社します…」とだけ言って家を出た。

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