《視線が絡んで、熱になる》episode3-5

♢♢♢

社して三年、毎日同じビルに出社している。

それなのに今日は、初めて辺りを気にしながらビルにる。柊のマンションから出てきたところを誰かに見られていないか、気になっていた。

不倫をしているわけでもないし、社止の會社でもない。隠すことなどないのだが、“付き合ってもいない”男が一晩過ごすことに罪悪のようなものがあった。柊は何とも思っていないようだった。

(大人の関係ってこういうことなのかな…)

経験がほぼない琴葉にとって急に訪れた仕事以外の悩みに頭を抱えた。

営業部のフロアにる前に子トイレにった。

大したセットをしているわけでもない髪をチェックしていると、子トイレのドアが開いた。

顔を向けて瞬間的に挨拶をすると、ってきたのは智恵だった。

「あら、おはよう」

「智恵さん、おはようございます!」

も琴葉と同じように化粧直しをするようで三つある鏡のうちの一つに向き合うと肩にかけていたA4サイズのブランドのロゴがった鞄からワックスのようなものを取り出して髪を整えていた。

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隣に立つ智恵は、琴葉よりも10センチほど背が高く、それなのに琴葉よりもが大きくてスタイル抜群の絶世の現したような彼にドキドキしていた。

香水なのかわからないが、“いい香り”がする。

甘すぎず、びていないのにらしさのある香りは智恵にぴったりだった。

「そういえば、今日はちょっと雰囲気が違うのね?」

「そうですか?」

柊のことを見かされているのでは、と思ったがそうではないようだ。

智恵がくすっと小さく笑うと視線を流すように琴葉の顔を見て、また正面に向き直る。

「化粧してきたの?とっても綺麗よ」

「…っ」

「マスカラとかシャドウとかはしないのね?化粧映えしそうな顔なのに勿ない」

「そうですかね…」

「私は一番口紅が好きなの。塗っただけでっぽくも可くもなれる」

ふっと優しく口角を上げる。の下にほくろがあって気のある智恵はほくろの位置までっぽいのかと心してしまった。

じゃあ先行くわよ、と言って出ていった智恵の言葉にが詰まる。

今朝の柊の言った通りだった。智恵も琴葉を馬鹿にはしなかった。むしろアドバイスをくれた。

もしかしたら、自分が気にしていることは実はたいしたことではないことが多くて自ら雁字搦めに縛りつけているだけなのではないか、そう思った。

営業第一部のデスクに行くと既に柊の姿があった。

(…あれ、早いなぁ)

「おはようございます」

「おはよう~今日は一日中打ち合わせだよ。この間の理道の件」

「はい、涼さんのスケジュール確認していたのである程度は把握しています」

涼が隣に座る琴葉を見て一瞬驚いたように眼を見開いた。

「へぇ~さすがだね。それに今日はちょっと雰囲気が違う気がするなー」

「そうですか?」

涼が気づくほどの化粧はしていないのに(男の変化に鈍だとよく聞くが)彼は気づいたようだ。

「琴葉ちゃんってさ、コンタクトにしないの?」

「コンタクトですか?」

「そうそう」

パソコンのログイン畫面が表示される。ログインしたらパソコンのログがすべて殘るようになっている。

琴葉はログインパスワードを力しながら、首を橫に振る。

ログインしたのを確認してごと涼の方を向けた。

「しませんね。持ってないです」

「どうして?眼鏡の方が好きなの?」

「うーん、そういうわけでは…」

困ったようにこめかみを指で搔くような仕草をすると、突然涼の手が琴葉の顔にびてきた。

驚く間もなく涼が勝手に琴葉の眼鏡を外した。

「っ…」

「あー…、なるほど」

「涼さん!」

顔に熱が集中するのをじながら急いで眼鏡を彼から奪った。

(何をするんだ、この人は…)

柊といい、涼といい、読めない行に琴葉はプチパニックに陥る。しかも“なるほど”って何だろう。目が小さいね、とかそういうことだろうか。

「いて…っ」

「何してんだ。もう仕事開始の時間だ」

突然、涼の頭をバインダーで軽く叩いたのは柊だった。いつの間にか涼と琴葉の間に立っている。

「すみません~だって琴葉ちゃんの眼鏡取ったところ見たかったんで」

「業務中だ。仕事をしろ」

「はいはーい」

軽い返事をする涼の隣で苦笑いをする琴葉にギロリ、鋭い視線を向け去っていく柊は怒っているようにじた。

柊が現在までどのような人生を歩んできたのか、どのようなをしてきたのか、彼は何が好きで、何が嫌いのか…琴葉はまだ何も知らない。

「よーし、じゃあ打ち合わせ行こうか」

「はい」

仕事中に他のことを考えてしまうとは、まだ自分に余裕があるというころだろう。涼に聲を掛けられて元気よく頷くとノートパソコンと筆記用をもってフロアを出る。

今日は朝から企畫部と打ち合わせがっている。

おそらく午前はこれで時間が潰れるだろう。午後からは理道とは別の案件がっている。

正直なところ、理道だけで一杯なのだが何件も案件を掛け持っているのが“普通”なのだからこんなところで弱音を吐くわけにはいかない。

長い廊下を踵を鳴らして歩く。隣を歩く涼は間を作らないようにしているわけではないのに、どんどん言葉が出てくるようでコミュニケーション能力の高さに帽する。

「あ。そうだ、再來週の火曜日申し訳ないんだけどフレックスで10時とか11時出社にしてくれる?」

「どうしてですか?」

「別に通常通り出社してもいいんだけど…実は夜の21時から新宿駅のビルの広告制作の付き添いがあるんだよね…」

「に、21時?!」

「そう。結構こういうのあるよ。新しくそのビルにアパレル企業がるんだけど…それの広告。制作部だけでいいんだけどさぁ、クライアントと制作の間に俺ら営業ってるわけじゃん。いかないわけにはいかないよね」

「…そうですね」

「結構帰宅遅くなるだろうから、出社時間ずらした方がいいよ」

「わかりました。じゃあ、11時くらいに」

會議室のドアを開けると既に數人の男がそれぞれのノートパソコンを開いて準備していた。

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