數日間、琴葉は柊の家には行っていなかった。

腕時計だって返してもらったし、柊に會いに行く理由もないからだ。それなのに、夜一人で眠っているとの奧が疼いて柊の聲や熱い目を思い出してしまう。

やはり自分はどうかしてしまったのだと思った。

化粧品は柊の自宅にあるから結局今週化粧をして出社したのは一日だけだった。

仕事に関しては、覚えるというよりも慣れてきた、というところだろうか。

コーポレート人事部で働いていた時よりも圧倒的業務量に心が折れそうになるが、同時に楽しさも見出していた。

就職活中に心かされた広告に攜わることが出來ているという実だろうか、琴葉にとっては全てが苦ではなかった。

今日は金曜日で涼から飲みに行こうとわれていた日だ。なので、殘業はしない予定だ。

柊も來ると言っていたが、どうなのだろう。

そればかり気になっている。実は柊が金曜日そのまま家に泊まっていけばいいと言っていたから下著など必要なものを持ってきていた。

（…まるで、私が彼の自宅へ行きたいみたいじゃない）

キーボードを打つ手を止めて周りに気付かれないように一息れる。

と。

「どうしたの？ため息？」

「わ、違います！ちょっと一休みしてただけで、」

「ふぅん？なんか業務とは違うこと考えているように見えたけど」

「そんなことないです！」

涼は意外に鋭い。仕事でもそうだが著眼點がいい。それは多角的に事を捉えることが出來ているからかもしれない。そのせいで柊との件がバレてしまわないか心配だった。

「あ、わかった。してるんでしょ？」

「…え、」

「あれ？違う？そうかなと思ってたんだけど。だって目がするの子ってじだし」

「ち、違います！勝手に決めつけないでください！はしないんです」

「どうして？これからいい人できるかもしれないのに勿ないよ」

「…出來ませんよ」

涼の推測をすぐに否定したが、どういうわけかの中に靄がかかる。

（…何だろう、この覚）

好きなわけないじゃないか、そういうはないはずだ。

しかし一度気になるとずっとモヤモヤしてしまう。このままいくと業務に支障が出てしまうだろう。

と、その時目の前に座っている智恵が柊のデスクへ行くのを目で捉えた。

ノートパソコンを持ったまま、柊のデスクへ行くと二人は近い距離で何かの確認をしている。

後ろ姿も橫顔も何もかもしく妖艶で、琴葉にとってあこがれのである智恵は柊にお似合いだった。

自分も智恵のようになれたら、柊の隣を歩いても違和はないだろうが今のままでは…―とここまで考えて遙か昔同じことを考えたことがあることに気づいた。

（…學生のころだ。大學時代、春樹と付き合った時と同じ気持ちだ）

直前に涼に言われた“をしている目”というフレーズを何度も脳でリピートする。

智恵が柊に笑いかけていた。そして、隣にいる柊も珍しくらかい目を彼に向けている。がざわついた。數分のうちに様々ながり混じる。

「琴葉ちゃん？しかめっ面してどうしたの」

「いえ、すみません。集中します。あの…智恵さんって…不破マネージャーと仲いいんですか」

「え？智恵さん？あぁ、」

涼がどぎまぎする琴葉に小さく耳打ちした。

「あの二人、昔付き合ってたみたいだよ」

「えっ…」

「お似合いっていえばそうだよね～男だしどっちも仕事できるし。まぁ數か月で別れたっぽいけど」

「…そう、ですか」

の奧がズキズキと痛むのは、そして…こんなにも柊と智恵の過去が気になるのは、それはきっと

―彼にをしたから、だ

二度となどしない、男なんて懲り懲りだ、そう思っていたくせに一瞬でに落ちた。

なんて軽いなのだ、と思ったがもう遅い。一度き出してしまったは止まらない。必死に忘れようとしてるのに一人でいるときに必ず柊を思い出してしまう。

強引なのに優しくてあたたかい。そして、まるで琴葉に好意があるのではと錯覚してしまいそうになるほどの熱い視線だけでの高鳴りが止まらない。

このは、やはりなのだ。