《視線が絡んで、熱になる》episode5-3

琴葉は空腹もあってか、みるみるうちに皿の上の料理を平らげていく。

マルゲリータも濃厚なチーズが食を煽りあっという間に食べてしまった。柊はそんな琴葉をおしそうに見つめる。食べ終えると、二人で店を出た。

「どうだった?」

味しかったです!ご馳走になってしまってすみません」

「俺がったんだ、當たり前だ」

車に戻る頃には満腹中樞が刺激され、一気に眠気が襲う。

トロンとした目で窓の外を見ているとカップルが仲良さそうに手を繋いでいた。

(手を繋ぐっていいなぁ)

「次は買いだ。普段利用している店とかあるか?」

「全くありません。普段は…會社に著ていくような服ばかりで…営業部に配屬になったから基本スーツですし…」

「そうか。じゃあ俺もあまり詳しくはないから々見られるほうがいいってことか」

柊はそういうと一人で完結したように數回首を縦にかす。

眠くなりそうな眼を必死にる。到著したのは駅近で商業施設がいくつも並んでいる。

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近くの有料駐車場へ車を停めると二人同時に車から降りる。

「不破さんはこう言ったところへはよく來るのですか?」

「ん、たまーにな。休日も仕事の時も多かったからそこまで頻繁には來ない。それに騒がしいところは嫌いなんだ」

「そうなんですか?すみません、じゃあ…今日も…」

琴葉の語尾が小さくなっていく。

どう見たって辺りは人で埋め盡くされていて、人々の活気で煩いだろう。

琴葉は特段そのようなはないが柊は嫌いなはずだ。

それなのに自分の買いに付き合ってもらうことになり申し訳なさがこみ上げる。

「今日は楽しいよ」

弾かれたように顔を上げると柊が笑っていた。あまり見ない笑顔を今日は何度も見ることが出來ていた。

「好かない場所もお前となら楽しいとじる」

「…わ、私もです」

恥じらいながらもそう言った。

彼と一緒ならばどこに行くのも楽しいし、既に一人だった自分を思い出せない。本當に自分はどうしてしまったのだろう。

柊と一緒に賑やかな店っていく。柊と會話をする際、長の高い彼を見上げて喋るからどうしても首が痛む。

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もうし高いヒールの靴を購したいと思った。

柊は琴葉に何かを話す際、わざわざ屈むような勢になって耳を近づけるからそれもまた、腰に悪いような気がする。それでも、そういった細かな気遣いにが高鳴る。

柊は確かにあまり他人と深く関わろうとはしなさそうだ。しかし、距離がまるとそれが180度変化すると思った。親しい人には、が深いような気がする。

辺りを見渡さなくても周りにはカップルばかりで自分たちも同様に見られているのでは、と思うと嬉しいような、恥ずかしいような。

名前は知っているが利用したことのないショップの前で立ち止まる。

花柄のワンピースや、ブラウス、スカートどれも素敵でらしさのあるブランドは琴葉の目にも留まった。

するとすぐに店員が聲を掛けてくる。

「気になるものがありましたらお聲掛けください」

営業スマイルなのかもしれないが、可らしく快活に笑顔を向ける店員が羨ましく思った。

「すみません。似合う服を提案していただけますか」

「はい!もちろんです!」

突如、柊が発した言葉によって琴葉はを戦慄かせ、後ずさる。

ポニーテールのスタイルの良い店員は琴葉に「こちらへ」と言って様々な服を提案する。

「最近荷したこちらのワンピースもお似合いですよ!ほら!」

「そうですか」

「お似合いです!!あと、こういったタイトなスカートもお似合いですね。ハイウエストなのでスタイルもよく見えます」

間がないほどに、店員は姿見の前に立つ琴葉に次から次へと服を合わせる。その間、柊もそれらを見ながら頷いている。どれがいいか、どれが似合うか、わからずに逡巡するが柊が「似合うものとりあえず全部ください」などという映畫でしか聞かないような非現実的なワードを放つ。いらないです、という前に店員が間髪れずに「わかりました!」といった。

「不破さん?!ダメですよ、こんなには…」

「俺がすべて支払うから気にするな」

「ええ…」

前回の化粧品と言い、全て柊に支払ってもらうのは申し訳ない。

しかし結局柊がすべて購した。その後も、他の店舗で靴を購したり柊の部屋に置くという理由で琴葉専用のマグカップなども購した。

二時間ほどショッピングをすると既に柊の両手は買い袋でいっぱいだった。

「ありがとうございました。こんなに購してもらって…」

「別に構わない。その代わりこれからデートするときは今日買った服を著てくれ」

「もちろんです。ありがとうございます」

ついでに、というには金額に眩暈がしそうになるがさらに追加で化粧品も購してもらった。

車に戻って、荷を置いてから映畫を観ることになった。

琴葉の買いに付き合ってくれるだけでなく、映畫を観に行くという人らしいことまでするようだ。

「何か見たいものはあるか?」

「えーっと、それじゃあ…」

系の映畫は気まずくなりそうだ。だが、それ以外だとホラー系が上映時間的にちょうど良さそうだと思い映畫チケット購販売機前に表示されている映畫名を口にした。

柊は何も言わずに二枚のチケットを購した。

飲みを購して、涼しい映畫館で指定されている席へ座る。

(デートってこんなじなんだ…)

うっとりしているのも束の間、館が暗くなり靜かになる。ホラー映畫を選択したことを忘れていた琴葉は、突然のホラー要素満載の映像にビクッと肩を揺らす。

そんな琴葉を橫目で捉えた柊は、クスクスと笑い

「大丈夫だ、俺がいる」

と、琴葉を安心させるような言葉を投げかける。うん、と頷き、どうしてこれをセレクトしたのかと後悔しつつも映畫スクリーンを見つめる。

約二時間ちょっとの上映時間、何とか聲を出さずに堪えて館が照明で照らされる頃には安堵の息が何度もれた。

「大丈夫だったか」

「…はい、何とか」

「ホラーが苦手なら選ぶなよ」

「そうですね…失敗しました」

か細い聲で言うと、それも面白かったのかクツクツとの奧で笑いをこみ上げる柊。會社ではほぼ笑ったところなど見たことがなかったから、やはり新鮮だ。二人でいるときに見せてくれる笑顔が好きだ。

そろそろ帰る時間帯になった。しかし、琴葉は今日も柊と一緒に過ごしたいと思っていた。

何かあれば言ってほしい、そう柊は言っていたが、やはり直接口にするのは憚られる。

そして、もう一つ。

それは、手を繋ぎたかった。柊が手を繋ぐような人ではないことは理解していたから、これもまた、口に出すことはできなかった。

「どうかしたのか」

「…いえ」

「何かあったら、言え」

「……」

數秒の沈黙の後、琴葉は視線を下げたまま蚊の鳴くような聲で言った。

「手を繋いでもらってもよろしいでしょうか」

柊の足が止まる。琴葉もそれにつられるように足を止めた。橫にいる柊を恐る恐る見上げる。何度見ても憐悧なその顔が心の中をかきす。

「もちろんだ」

そう言って、すっと琴葉の前に手を差し出す。顔を真っ赤にしてあたふたしながら柊の手に自分のそれを重ねた。

「あ、あ、あ、汗が!出ていたら申し訳ないです」

「別に気にしない」

「そうですか」

手を繋ぐ、たったそれだけで変な汗が出てくる。室で空調も効いているはずなのに、どうしてそうなっているのかわからない。

脈打つ心臓の音が彼にまで屆いているような気がする。しかし、それ以上に柊と手を繋げたことに琴葉は喜びをじていた。本人に伝えて良かった。

車に戻るまで終始張で彼と目を合わせることはできなかったが満足していた。

…―…

では、どこへ向かっているのか聞くことが出來なかった。

もうしでさようならをしてしまうのが寂しい。

出來れば、一緒にいたい。しかしそれを柊が同じように思っていてくれるとは限らない。

というのは本當に難しいものだと琴葉は思っていた。

「今日も俺の家でいいのか」

「え…あ、はい!もちろんです」

柊が前方を見ながらそう訊く。嬉しくてシートベルトを両手で握りながら柊に顔を向ける。もちろん運転中だから琴葉を見ることはないが、柊の橫顔もどこか嬉しそうだ。

「あの、よかったらスーパーに寄っていただけませんか」

「何かしいのか」

「はい。不破さんの自宅で今日のお禮に何か作ろうかなと」

「それは嬉しい。ありがとう」

手料理に自信があるわけではない。

ただ、彼に謝の気持ちを伝えたかった。口だけではなく、しっかりと相手に伝わるように。柊にお願いしてスーパーへ行き、食材を購した。

柊の自宅へ到著すると、早速料理にとりかかった。

「エプロンでも買っておくか」

「え…いいんですか」

「ん、俺が見たい」

「……」

柊の言葉に熱を持った頬を隠すように背を向けてキッチンに立つ。

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