《視線が絡んで、熱になる》episode7-2
「そうそう。今店でるから彼と。え?違う違う、彼氏じゃない。セフレ」
「…」
「だってただ會って“してる”だけだもん。付き合うって面倒でしょ?そういう関係って割り切った方が楽だよ」
一何の話をしているのか皆目見當もつかないが、このバーのお客であろう彼の會話が衝撃的でその場からけずにいた。
背中がぞわっと冷たい外気にでも曬されたように溫度が下がる。
口紅を塗り終えると琴葉を一瞥もせずトイレから出ていく彼はカツカツと高いヒールを鳴らし、人工的な甘い香りをその場に放置していく。
「…セフレ?」
知らない言葉ではない。でも、琴葉と柊の今の関係はたった今去っていったが話していた関係そのものだった。
その言葉を諳んじるが不安定に空中に漂い、霧散していく。
(私たちの関係は…セフレだったんだ)
ショックや衝撃がないわけではない。しかし時間が経過すると意外にもストンとに落ちるものがあった。自らそれでいいと思っていた関係だったからそこに関して文句はない。でも、セックスをするだけの関係であり、他人から見ればそれはそれでしかない。
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心を落ち著かせるように酸素を取りこみ、トイレを出る。
戻ると三人で楽しそうにお酒を飲んでいた。既に二杯目を注文しているようだが琴葉はこれ以上は飲めないと判斷して追加では頼まなかった。
「大丈夫か」
大き目の椅子に腰かけるとすぐに柊が聲を掛ける。
「はい、大丈夫です」
「大丈夫そうには見えないけどなぁ、明日もあるしそろそろ解散しましょうか」
涼の配慮で終電前に解散ということになった。
會計は全て柊が支払ってくれたようでお禮を言った。
ビルを出て、それじゃあと涼が発したのを合図に琴葉も頭を下げる。
今日はとにかく何も考えずに眠ってしまいたい。柊との関係を考えれば考えるほど、出口のないトンネルに足を踏みれてしまったような気分に陥る。
柊の視線をじつつも、早く帰宅したい琴葉は彼らから背を向けようとする。が、幸の聲でそれが制止する。
「不破さん、よかったら連絡先を…」
控え目だが、貓で聲で頼み込む幸に琴葉のこめかみがぴくりとく。
涼も同様に二人を見ていた。
個人の連絡先は知らなかったようだ。でも現在進行形で距離をめようとしている。傍からみたら二人はお似合いだ。見た目もそうだが、纏っている雰囲気も似ている。お互い仕事ができる點も共通している。それを分かっていても尚、この焼きつくような心を拭い去ることはできない。
「申し訳ないのですが、何かあれば會社用の攜帯に連絡をください。個人的な連絡先換はできません」
「…でも、私は…」
「申し訳ない」
事務的な返しに空気は一気に冷たくなった。
涼も珍しく黒目を二人から逸らして気まずそうな顔を琴葉へ向けてくる。
まるで“気まずいね?”と言いたげだ。
柊がこちらへ向かってくる。
「あー、琴葉ちゃん、一人は危ないよね?どうする?」
「大丈夫です。帰れます」
「いい。俺が送る、というか一緒に帰る。今日はお前の家に泊まるといっただろう」
「え、」
「…不破さん!」
一緒に帰る、といった柊に涼はひどく吃驚した様子で眉を寄せどういうこと?と訊いてくる。全て知っているのでは、と思っていたが“一緒に帰る”“泊まる”などそこまでの関係だとは知らないようだ。
幸は絶した顔をしていて、そのうち無言できゅっと口を真一文字に結んで踵を鳴らし駅へ向かって帰っていった。
一応は取引先であるわけだから、大丈夫なのかと心配になる。
「行くぞ。新木も気を付けて帰れよ」
「はい…あの」
「なんだ」
「いえ、何でもないです。じゃあ、お疲れ様でした」
何か言いたそうにを開けたがすぐにそれは閉じられた。そして何も聞かずに帰っていく。その背中を見つめながら、気づくと柊に手首を摑まれている。
夜は涼しく、熱を持つ頬をひんやりと冷たい外気で熱を冷ます。
「歩けるか」
「はい」
タクシーを拾って、琴葉の家に向かって走り出す車で窓の外を見ながら考えていた。自分はどうしたいのか、と。
このまま流されるように柊と関係を続けていてもいいのか、と。以前ならばそれで十分だった。満足だった。
それなのに…―。
「気分はどうだ。合悪くないか」
「大丈夫です」
自宅に到著するまで、何度か同じような質問をされる。でもどれも一言二言返してすぐに沈黙が訪れる。それを繰り返しているうちに、自宅へ到著した。
人を自宅に招いたことは社會人になって初めてだ。
しずつ張の波が大きくなってくるのがわかる。柊の自宅と比べると、1LDKで広さもない家だがベッドはセミダブルサイズだから寢るには何とかなりそうだ。
(…一緒に寢たら、セックスするのかな)
セフレというワードがどうしても頭の中で繰り返される。
「ここが琴葉の家か」
ぼそっと獨り言のように放たれた言葉に頷き、マンションのエレベーターに乗る。
エレベーターを降りると、自分の部屋の前に立ち鞄から鍵を取り出す。
「どうぞ…ちょっと片づけますね」
玄関でそう伝えて、柊をリビングへ通す。そこまでに囲まれるのが好きではないから多分他の人よりも簡素な部屋だと思う。
洗って乾かしていた食などを食棚へ戻しながら、飲みを用意する。
お互い飲みに行っていたから、お茶がいいと思い電気ケトルでお湯を沸かす。
柊は高そうなジャケットをいでソファに腰を下ろす。
「あ、ジャケット…皺になるといけないから」
柊のそれをさっと手にして寢室へ向かった。ハンガーにそれを掛ける。
すると、背後から気配をじ振り返ろうとする間もなくびてきた腕にを拘束される。
「柊さん…?」
「視線が合わない」
「へ?」
「さっきからずっと避けられてる気がするのは気のせいか?」
「…」
それは、と言って口を噤む。否定しようにも事実だった。視線が絡んでもすぐに逸らしてしまうのは、今の琴葉の心を表しているといっても過言ではない。
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