《視線が絡んで、熱になる》episode8-2
♢♢♢
「昨日はお疲れ。あの後ちゃんと帰れた?」
午後になって出社した涼ににこやかにそう訊かれた琴葉は言葉を濁して首を縦にかす。
「知らなかったなぁ。まさかもう付き合ってるなんて…」
午後からは理道の擔當者と會う。涼が出社してすぐに鞄を肩にかけていく準備をする。
社員証を首にぶら下げながら涼はニヤついてそう言った。
「違いますよ!そういう関係じゃ…」
「え?違うの?」
周りを気にしながらヒソヒソと耳打ちするが、涼は関係なく大きな聲で話す。それがわざとなのかわからない。
「まぁまぁ。男の話に口出しはしないよ。社は止じゃないしね」
「…だから、それは、」
勝手に決めつけている涼にそれ以上は何も言う気にはなれなくて彼に続くようにしてフロアを出る。車でも同様に柊とのことを聞いてくるくせに“決めつけ”ているから何を言っても付き合っていると思っているようだ。
「でもすごいよ、本當に」
「何がですか?」
「不破マネージャーってめちゃくちゃモテるんだよ。獨だからほとんどのの噂の的だよ。バレンタインなんて漫畫のようにチョコレートもらうし。もちろん義理じゃなくてね。取引先のなんてさ、だいたい不破マネージャーと関わると目がハートになるんだよね~同としてもカッコいいのわかるからさ」
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「…そうですか」
「だから凄いよ。簡単に不破マネージャーのこと落としたなんて」
「あの、何度も言いますが…私は不破マネージャーとは何もありません」
「え、付き合ってるんでしょ?だって家に泊まってるんだよね?」
「いや、だから…」
駐車場にちょうど車が停車した。
シートベルトを外しながら首を傾げる涼に、はぁと息を吐いて違いますと今度は明瞭な聲で言った。
違う、と否定しながらも実際の関係を言葉にして伝えることに躊躇する。だって、セフレなどと先輩社員に言えるほどの関係でもないし業務中だ。一番は軽いだと思われたくないのかもしれない。
「その…付き合ってはないんです」
「…え?付き合ってないって。そんなことある?だって不破マネージャーがだけの関係のを社で作るとは思えないけど。あ、でも智恵さんはそうなのかな…」
「そうなんですか?智恵さんは、本命だったと思いますよ。あれだけ綺麗なんですから」
「んー。微妙だよね。すぐに別れてるし。でも琴葉ちゃんは絶対本命だって!俺あんなにに対して気にかけてるマネージャー初めて見たよ」
「それは、涼さんの勘違いですよ。私はそうは思わないし」
「そんなことないって!だってさ…智恵さんと付き合っている時だってああいうじはなかったよ。送るとか、調大丈夫か?とかあんなに心配してなかった。それに、俺見てたけどかなり琴葉ちゃんのこと見てたよ」
「そうなんですか?」
「そうそう!」
そうだったらあのような表はしないだろう。
―好き
そういった瞬間の顔を思い浮かべるたびに、心臓が痛みだす。
とりあえず琴葉たちは車を降りて、理道に向かった。
理道との打ち合わせは順調だった。
今日は理道の商品を見せてもらえることになっている。
話し合いでは、いつもの通り西田と勝木が説明をしている。
細くて折れてしまいそうなほど華奢なのに堂々としているからか、聲に張りがあるからなのかわからないがいつだって彼は自信に満ち溢れている。
琴葉の周りにはこうなりたい、という目標にしたい人がたくさんいる。それは社會人として非常に恵まれているとじる。
にこっと笑い、「こちらです」と言って紙袋から理道の新ブランド“凜”の商品が白い長機の上に並べられる。
口紅とアイシャドウ、それからパウダーファンデーションの見本だった。
実際に目で見ると、琴葉の口からは嘆の聲がれるほど素敵だった。
赤みブラウンのパッケージは高級をしっかり押し出している。
涼は仕事用の笑みを添えて「素敵な商品ですね」といった。
「どうぞ、ってみてもいいですよ」
「いいのですか」
目を輝かせながら、それを手に取る。重厚のある口紅は発売したらすぐに購したいほどだ。
「最近、藍沢さん変わりましたよね。びっくりしてます」
「そうですか」
「あ、もちろんいい意味です。らしさというか…輝いているように見えます。理道の商品も本當に好きなんだなぁって伝わってきます」
「…はい、好きなんです。理道の新ブランドの広告に攜われて幸せです」
本心だった。
黒歴史だった自分の過去。
それでも理道のあの広告を見た瞬間のの高鳴りは忘れられなかった。あのような広告を作りたい、いつしか抱いていたをこうやってメーカーと一緒に自分の手で形に出來る、それが幸せだった。
営業は向いていないかもしれない。でもそれ以上にあの熱い思いを形にしたい。
西田は朗らかに笑ってよろしくお願いいたします、ともう一度言った。
「それで、今回はメインの広告のデザインについて、いくつか案を持ってきています。百貨店での販売なのでパンフレット等にも力をれていきたいので」
涼がそう言ってノートパソコンを西田と勝木の正面になるように見せる。
赤みブラウンの高級パッケージのそれらを表すために、制作部と何度もやり取りをした。
理道からもいくつか要があったため、それらを加味して10パターンほど用意してきた。
西田も勝木も真剣にそれを見ていた。
「あとでメールで送りますが、今見ていただき、だいたいどいうじがいいか言ってもらえれば次回までにまた練り直せますし」
「ありがとうございます!どれもいいですね。社で他の部署とも話し合ってみますが…1番なんかとても素敵です。高級もありながら親しみやすさもじます」
「そうですか、ありがとうございます。確かに制作部の方もこれが最有力候補ですね」
理道との打ち合わせは二時間弱で終わった。
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