《視線が絡んで、熱になる》episode8-3

會社へ戻る車中で涼がハンドルを握りながら思い出すように口を開く。

「あー、今日は21時から立ち會いだよ。遅くなりそうだけど大丈夫?」

「もちろんです。ちなみにこういうことって結構頻繁にありますか?」

「あるよ。ちゃんと超勤はつくから安心して。でも営業部だけ三六協定ってないから」

「…そうですよね」

しんみりと相槌を打ち、視線を窓の外へ移した。

今日の帰宅は遅くなるだろう。でも、柊の自宅へ行くべきなのか迷っていた。待っているといわれたが、好きですと告白してしまった以上、以前のように接することはできない。

合鍵を返してほしいならばわざわざ家に來るように言うだろうか?

柊の考えていることが何一つわからないまま、琴葉は會社へ戻った。

――…

戻ってすぐにフロアに鞄等を置いてトイレに向かった。

以前に比べて容姿を気遣うようになったため、髪がれていないかなどをチェックしている。一般的に皆が行っていることかもしれないが。

折り畳みの小さなブラシで髪を整えていると、誰かがドアを開けてってくる。

顔を向けると智恵だった。あら、と聲を出して會釈する彼に琴葉も真似るように頭を下げる。

どうやら智恵も化粧直しをするようで薄ピンクのポーチからリップを取り出し、元から妖艶なぷっくりとしたを付ける。

(ドキドキするなぁ…)

だというのに、どうしてこんなにも心拍數が上昇するだろう。智恵のような気はどうやって作り出すことが出來るのだろう。至近距離の彼に見とれていると彼がふときを止めて琴葉に顔を向ける。

そのきすら、スローモーションに見え、目が奪われる。

「どうかした?」

「ごめんなさい、何でもないです」

「そう。あなたは、あなたなんだから」

「え、」

突如、何の前れもなく発せられた言葉に琴葉の手が止まる。

智恵は、クツクツと堪えるように笑いながら言った。

「みんなそうよ。誰かに近づこうと努力することは素敵よ?でもね、その人になる必要はないの。あなたはあなたのいい所がある。それをもっと引き出すべきなのよ」

「…えっと」

口紅をポーチへ戻して、今度はパウダーファンデーションを取り出す。智恵は化粧を直しながらつづけた。

何が言いたいのか、話の郭を摑めないまま彼の話を聞く。

「藍沢さん、いえ…琴葉さんは琴葉さんでいいの。もちろん綺麗になる努力をするべきだとは思うけど、あなたはあなたらしくね。自信もって。あ、そうだ」

パチン、とマグネットタイプのパウダーファンデーションのケースが閉まる音が響くと同時に智恵が口角を上げる。

「不破マネージャーとは付き合ってたけど、今は何もないから。未練なんかないし、今は新しい彼氏がいるの」

「っ…」

「ふふ、敵になることはないからそこも安心して」

さらっとそう言い殘すと、何とも言えないいい香りを殘してその場から去っていく。後姿まで綺麗な智恵の言葉を噛み締めるように琴葉は頷いていた。

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