《視線が絡んで、熱になる》episode9-1

“付き合う”

つまり、人同士になったわけだ。もうなどしない、そう思っていたのに強引に引き寄せられ気がつくと彼の虜になっていた。彼の視界にりたいと何度も思っていた。

それを、同じように柊も思っていたことを知り幸せでいっぱいだ。

「で、付き合ったんだ?」

「…だから、それは…まぁそうですが。周りに聞こえるといけないので、小さな聲で喋ってください!」

「別にいいじゃん!同じ部署で人同士になっても別に違反じゃないしね?社止なんて古臭い會社じゃないんだからさ。大っぴらにした方がいいよ。不破マネージャーめちゃくちゃモテるんだから牽制という意味でも周りに知らせておいたら?」

「大丈夫です」

付き合って一週間が経過した。

付き合ったといっても大して日常に変化はない。付き合う前と同じように彼の自宅か琴葉の自宅で時間を共有する。甘くてとろけそうなほど濃厚な時間を過ごしていた。

今は昔と違って出社する際に、化粧をするようになった。柊と出會ったことで自信がついたのかもしれない。

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“いいだよ”

最初に言われた時は、何を言っているのだろうと思ったが今ではその言葉が魔法のように琴葉を変えていく。

それを日々実しながら生活をしていた。

付き合ったことを涼に話していないが(柊も話していないはずなのに)何故か彼はすぐに琴葉たちが付き合っていることに気づき茶化すように何度も確認してくる。

仕事はできるし頼りになるし社的な彼だが、し子供っぽいところがあるようだ。

社員証をぶら下げながら「行こうか」という彼の聲に続いて立ち上がる。

涼は周りの変化に気が付きやすくアンテナを張り巡らせているのか、はたまた琴葉自がわかりやすい格をしているのかわからない。

涼と一緒にフロアを出る際に一瞬だけ柊と目が合った。ドキッとが鳴ると同時に柊が微かに口元に弧を描いたのを見た。

(ドキドキする。會社なのに…)

周りに悟られないようにしながら、琴葉は無意識のうちに社員証を握りしめ踵を鳴らしフロアを出る。今日の行き先は、シャインだ。

前回は擔當者が不在だった。橋野幸が代わりに打ち合わせに出席し、その後飲み會で柊にアプローチをしていたことを思い出すと複雑な心だ。

「今日は、ようやく擔當者と會えるよ」

「前回は橋野さんでしたね」

「代わりだったからね。擔當者は前からずっと同じ人でいい人だよ、若い男で。あ、不破マネージャーが妬いちゃうかもね~だってイケメンだし。まぁ仕事では私は挾まない人だけどね」

涼がハンドルを握り、アクセルを踏む。

涼が言ったように、柊は仕事では私は挾まない男だろう。だから橋野幸にもあのような態度を取った。

「今日は橋野さんはいないと思うから安心して」

「わかってます。大丈夫ですよ。橋野さんがいても」

「本當?あれは敵になるようなポジションにいるからね~」

涼は琴葉たちの関係を楽しんでいるようにしか見えなかった。彼に気づかれないように息を吐いてシャインに向かう。

…―…

二度目のシャイン本社に到著した。

今日は擔當者との顔合わせをする程度らしい。普段は、涼が擔當しているが今後琴葉も擔當していくことになることから、早めに挨拶をしておいた方がいいらしい。

何せ、シャインとの付き合いは長いようでいい関係を築いていくことが重要らしい。競合も多い中、長い間琴葉たちの會社に仕事をお願いしてくることを今後も継続してもらえるような関係強化が必要だ。

前回と同様に見上げるほど高さのある本社ビルにる。

付で會社名と名前を言うとすぐに擔當者が現れた。

會釈してにっこりと笑みを浮かべ名刺れをジャケットのポケットから取り出そうとする琴葉の手が止まる。

「…え、」

「あれ…琴、葉?」

「ん?あれ、もしかして知り合いですか?なんだ、ちょうどよかった。最近営業第一部に異してきた藍沢です。これからは二人でこちらに伺うことになるかと思いますのでよろしくお願いいたします」

「…あー、はい、よろしくお願いいたします」

「よろしく、お願いします…藍沢です」

琴葉は必死で平常心を保とうとしていた。しかし、視界が徐々に歪んでいくのを実しながらその場に立ち盡くすのが一杯だった。名刺を渡す手が震えていた。

シャインの擔當者は、元カレの春樹だった。

何て狹い世界なのだろう。まさか食品會社で働いているなど思ってもいなかったし、取引先として再會するなど確率的に言うと凄く低いだろう。

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