「最近仕事はどうだ」

「楽しいです！…理道の“凜“も佳境にってきていて、」

目を輝かせて本當に楽しそうにそういう琴葉をおしそうに柊が眺めていた。

四月に営業部へ異があって最初こそあたふたと右も左もわからないようだったが半年弱経過した今、彼は自信に満ち溢れていた。

今日は柊の自宅に二人で泊まる日だ。

最近、柊も琴葉も忙しい日々を過ごしていて、帰宅が遅くなる日もなくない。今日もそうだった。

琴葉が夕食を作り終えて、一緒に食した後ソファの上でまったりとしていた。

「そうか。よかった」

「それよりも柊さん、もうすっかり私たちの関係は社で有名になってしまいましたね」

「そうだな。別にいいだろう。それに仕事中は私を挾むような真似はしていない」

「そうですね」

寒くなってきたからか、厚手のパジャマを著て広いソファなのにも関わらず柊にぴったりくっつく彼がおしくてしょうがない。

そして彼はこれまた無意識なのかこてっと柊の肩に自分の頭を置いて可い聲で「ふふ、幸せ」などと呟く。

普段もそうだ。長さがあるという理由もあるがあの上目遣いで見つめられると視線を逸らしてしまいそうになる。

「そうだ、琴葉」

「何でしょう」

「同棲しよう」

「え……」

この提案はずっと前から考えていた。

それが雙方にとってもメリットしかないと思っていたからだ。

柊は琴葉にを向けて石鹸の香りを漂わせる彼に目をやる。

最近は特に綺麗になった彼が“モテる”ことに焦りのようなものがあった。

営業第二部の男がやけに琴葉に関わろうとしていることを柊は知っていた。

涼からも同じようなことを言われていた。

『琴葉ちゃん、狙われてますよ』

もちろん、彼を束縛するつもりはない。いくら琴葉を束縛したところで彼の心までは縛ってはおけないだろう。しかし、このを一言で表すならば、“嫉妬”だろう。

彼を獨り占めしたいという獨りよがりのが前面に出てしまう。

「えっと…同棲？」

「そうだ、嫌か？」

「いえ…」

嫌とは言わないが、琴葉の顔は曇っていく。

（…嫌だったのか）

気まずい雰囲気が流れながらもどうしたものか、と考える。

「嫌とかではないんです！」

この空気に堪えられなくなったのか、琴葉がぶようにして聲を出した。

柊としては出來るだけ早く同棲がしたい。

將來のことももちろん視野にっている。

「無理にとは思っていない。俺は琴葉と將來のことも考えている」

「…そうなんですか」

「そりゃそうだろう。縛りたいつもりはないが、俺としてもはやく琴葉と家庭を築きたいと思っている」

「か、家庭…」

縛りたいつもりはない、とは言ったものの結婚をして彼を自分のものにしたいという邪ながないとは言えない。

琴葉は一瞬嬉しそうに目を細めたが何を思ったのがそれをすぐに消し深刻そうな顔をする。

（一何を考えているんだ？）

のは特に読めない。

昔はそれでよかった。けでもよかった。それほど執著するようなに出會ったことがなかったからだ。

しかし琴葉に出會ってからはどうしても手にれたいと思ってしまう。

だからこそ彼の求めていることをしてあげたいし、しでも不安な気持ちにはしたくない。

「…私、実はそんなにちゃんとしてなくて」

「ちゃんと？」

反復してみるものの、”ちゃんと”の意味が分からないでいた。

「…はい。結構大雑把だし、適當なところが多いんです。同棲するとそういうの見られて幻滅されそうだなって」

「幻滅…？」

「もちろん私も柊さんと一緒にいたいしそれは將來もです。でも…心配で、」

視線が落ちていくと同時に聲も小さくなっていく。

彼の言いたいことがようやく摑めた。そんなことを心配する必要はないのに。

柊は大きく息を吐いて、琴葉の頬を包み込むように手を置いた。

桜の可らしいが何かを言いたそうにしく。

「幻滅などしない。それ以上に俺はお前と一緒にいたい」

「…」

「むしろもっと琴葉の知らないところを知りたいんだ。だから教えてほしい」

他人が人になり、夫婦になる。

その過程で時に喧嘩もするだろうし悲しいこともあるかもしれない。

だが、それすら共有したいのだ。

（嫌いになどなるわけないだろう。どれだけ俺がお前をしていたと思っているんだ）

「私、本當に大雑把なんです」

「そうか。別にいい。俺も大雑把だ」

「本當ですか」

「本當だ」

そんなことはどうだっていい。

足りない部分は補えばいいし、二人だけの人の形を作っていきたい。

そして、いずれ夫婦になって自分たちの”夫婦の形”を作っていきたい。

「同棲しよう、琴葉」

「はい」

もっと彼との時間を作っていきたい。