《異世界戦國記》第五話・家督といくさ

「及びでしょうか?父上」

俺は形式上の挨拶をして父の顔を見る。父はまた痩せたようで十年前とは覇気が全く別となっていた。腕は俺よりも細く髪のは抜けるか白髪のみとなり顔中皺だらけであった。まだ四十代なのに見た目で言えば七十に見えなくもないほどであった。

「三郎か…、よく來たな」

父は力なくそう言う。十年前はよく聞いていた父の威勢のいい聲も今では幻と思えるほどだ。

「ワシはもう、疲れた。大勢の家臣が死にいぬゐも天へ旅立とうとしている」

「…」

父の言葉に俺は何も言えない。確かに母上は醫學に通じない者が見ても重癥と言えるほど病が進行しており醫者が言うには病狀を遅らせる事しか出來ないと言っていた。

「そなたはこの十年で立派な武將となった。初陣も済ませた。家臣たちからも好評じゃ。頼もしい兄妹もおる」

父が作った子供は全員で九人。その最初の四人が男子で殘りが子だ。男子は全員元服しており與次郎が信康、孫三郎が信、そしてあの後生まれたのが信次となっていた。信次は初陣はまだだが全員が無事に長してうれしく思っている。

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「ワシは、そなたに家督を譲ろうと思っておる」

「!?」

いきなり飛び出した言葉に俺は驚くも心の中では薄々気が付いていた。父自もそうだが家臣の中にも今の父に不満を募らせるものは多く父も母上のそばについていたいという気持ちがったのだろう。

「家臣たちの反発は心配せんでもよい。お主に対する評価は高いうえにある程度は回しがすんでおる。後はそなたに正式に家督を譲るだけじゃ。それにお主の元には將來が期待される若者が集まっておるワシの様な老いぼれはさっさと引退するのが織田弾正家のためじゃ」

父は力なく笑う。今の父に無理はさせられない。これ以上の無理はに毒だ。だから俺はこう返事をする。

「…家督の件、心得ました」

こうして俺は弾正忠家の當主となったのである。

勝幡城北東に位置する清州城では城主織田信友が家臣を集めていた。

「単刀直に言おう。信定の野郎が家督を息子に渡した」

その第一聲に家臣たちはざわめく。信友は手に持つ扇子で床を叩く。いきなり響いた音に家臣たちは靜かになる。

「何を驚く必要がある?信定は既にじじいのような風となり昔のような覇気は持ってはいねぇ。家督を譲る今が攻め時なのは分かるだろう」

信友はそこまで言うと不敵に笑う。

「今こそ勝幡城を攻め落とし尾張西部を我が領地へと加えるのだ!」

「し、しかしその息子の信秀と聞きますが…」

とある家臣の言葉に信友はその言葉を発した家臣をじろりと睨む。睨まれた家臣は余計なことをしてしまった思いつつも最大限まで頭を下げている。

ふと、信友が立ち上がった。家臣たちは肩を震わせ指摘した家臣は汗で中が濡れていた。信友が指摘した家臣の前まで現れる。するとこう発した。

「…お主の懸念も重々承知しておる。だが、俺はただ兵を突撃させるだけしか出來なわけではない。策も用意している」

そこまで言うと指摘した家臣の前でドカリと座ると耳打ちする。

「だが、俺は今までその事を言っていなかった。そのことを詫びてお主に一つ頼みごとをしよう。兵を率いて今すぐ勝幡城へ迎え。落としてこい。俺もすぐに向かう」

「は、はは!」

指摘した家臣は慌てて返事をして評定の間を出ていった。それからしすると信友は立ち上がり上座まで戻るとぶ。

「いいか!やつらの領地での略奪、陵辱は好きにすると言い!てめぇらも兵を集めて來い!目指すは織田弾正の勝幡城だ!」

「「「おう!」」」

信友の言葉に家臣たちは威勢よく返事をした。

天分元年・織田信友は兵三千を率いて出陣した。目指すは織田弾正家の居城、勝幡城である。

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