《異世界戦國記》第十話・和睦といぬゐ

「信友様、織田信秀の使者が參っております」

「…通せ」

信秀の使者と聞いて信友は怒りで切り殺しそうになる衝を抑え評定の間に通すように言う。

現在織田信友の機嫌は極限にまで悪かった。一歩間違えれば切り殺そうとするくらいには。その為家臣たちは皆顔を青ざめ一刻も早くこの場を出たがっていた。

そんな雰囲気を醸し出す評定の間に織田信康が通された後ろには護衛の佐久間信晴、前田利昌が控えており戦いに備えて警戒を怠っていなかった。

「…貴様が信秀の使いか」

「はい、織田信秀が弟、織田信康と申します」

信康は禮儀をきちんと行い頭を下げる。その様子を信友は面白くなさそうに言う。

「ふん、貴様の様な小僧に要はない。來るなら信秀自が來るんだな」

「その場合は鎧を著て、武を持ち兵と共に來ると仰っておりますがそれでもよろしいでしょうかな?」

暗に拒めば攻めると言っているものであり信康はそれをシラッという。まるでそれが可能であるかのように。実際の所弾正家にこれ以上軍事行が可能かと問われれば可能であった。その場合は大量の鐘が必要になるため平手政秀を呼び戻す必要が出てくるが。

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「…俺を脅そうと言うわけか。気に食わんな。…まあいい用件は何だ?」

信友も信康の言葉の意味を理解し切り殺しそうになるのをぐっと抑えて用件を聞く。主だった家臣の討ち死にはなかったとはいえ紛れもない大敗であったのだ。それなのに勝った方の使者、それも當主の弟を殺したとあっては家臣に裏切るものが出てくる可能がった。今のところはその様なものは現れてはいないがこのままでは現れる可能があった。

「兄、信秀は信友様との和睦をお求めになっております。條件は相互の不可侵、領地は今まで通りでどうでしょうか?」

「…つまり今回の戦を水に流すと言いたいわけか」

「その通りでございます」

信友の問いに信康は返事をする。そんな信康を信友は睨みつけるが現狀を考え歯を食いしばると口を開く。

「…分かった。信秀には了承したと伝えろ。話は終わりだな?さっさと出ていけ」

「信友様のご決斷に謝いたします。それではこれで」

こうして織田信友による侵攻は阻止され両者の間に不可侵が結ばれたのであった。

「母上、大丈夫ですか?」

勝幡城外の戦いからひと月が経過したころ。母上、いぬゐの容が急変した。今までは病狀を遅らせる事しか出來ないとはいえ楽になったと言っていた。だが、急に苦しみだし昨日からずっと寢込んでいた。今は母上が起きたと報告をけて母上を訪ねてきていた。

「信秀ですか…。本來なら起き上がって出迎えたいのですが…」

「その様な事はしなくても大丈夫です。母上の病気はまだ治っていないのですから」

「信秀…。私の病気はもう治りませんよ。自分のの事は自分で分かります」

「そんな事、仰らないでください。必ず治ります。ですから…」

母上にはまだ病気が治らないことを言っていなかった。母上にはいつかきっと病気が治ると思ってほしかったからだ。

「私とあの人の間には信秀に信康と言ったたくさんの子供が生まれ全員すくすくと育ってくれました。私はそれだけでも十分に幸せです」

「…」

もう、なにもいえなかった。本當なら母上の言葉に反論したいが無意味だろう。母上はもう自分の事を…。

「気掛かりは信定様の事ですがこれも天が定めた道筋、抗う事はそれに反します」

「母上…」

「さ、そなたも公家の方がいらっしゃるのですから準備にを出しなさい。こんないつ死んでもいい者に付き合う事はありませんよ」

「…分かりました。ですが、また來ます」

「…そう、それでいいのですよ信秀」

母上はそう言って微笑む。俺はそれを見て母上の部屋を出た。

翌日、母上いぬゐは息を引き取った。

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