《異世界戦國記》第二十九話・戦後処理2

「…そう言うわけですので藤左衛門家の保有する熱田群は我が家が収めることでよろしいですな?」

話し合いは進み今は戦後の利害関係について話し合っている。藤左衛門家は支援のお禮として兵糧と資金を従屬の手土産として熱田群を俺に獻上することとなった。本當はいろいろ付け足したいがそれで反抗されても困るからな。熱田群については重臣の討ち死にでそこまで領地の運営が出來る訳ではないからな。

「さて、最後にこの那古野城についてです」

俺がそう言うと氏は不思議そうな顔をした。それもそうだろう。那古野城は氏の居城であり何かする必要はないのだから。

「那古野城は我々織田家が管理します」

「なっ!?」

「そしてそれに伴い城主を氏興に努めてもらおうと考えております」

「なっ!?何故…」

「氏殿、那古野今川家は正式に氏興にお譲り下さい。これは弾正忠家の総意です」

「信秀殿、貴方は…!」

「家臣たちも既に了承されております」

はもはや聲すら出せなくなったのか口をパクパクしているだけであった。実は那古野城を解放したときに氏興を含めて家臣たちと話し合っていた。氏は人気があったもののかなり苦労で氏興の扱いについていつも悩んでいたそうだ。家臣としては大名としてのしがらみを無くして楽に暮らしてほしいと思っているようだ。俺はその意図を汲み尾張から追い出し京都にでも向かってもらうとする。無論資金はこちらから出すが氏が応じるとは思えない。

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案の定氏は顔を真っ赤にして立ち上がった。

「他家の者が介してくるでない!自家の事は自家で解決する!」

「現狀那古野城を守備しているのは我らと藤左衛門家です」

つまり実力で奪う事も出來るという脅しであるがあまりそれは使いたくはない。現狀まで氏とは良好な関係を築けていたのだ。簡単に壊したくはない。

「さらに言えばこれは氏殿を除いた那古野今川家の総意と言っていいです。我が弾正忠家や藤左衛門家も同じ思いです」

「…」

その言葉に氏は何も言わずに力なく座り込んだ。その事が何を意味するかぐらいは読み取れる。

「氏殿の決斷に謝します」

こうして那古野今川家、藤左衛門家を飲み込んだ弾正忠家の勢力圏は尾張西部から一気に知多半島を除く南部を領有することとなった。

このきは尾張のみならず濃、伊勢、三河そして、那古野今川家の宗家が収める駿河の今川家も知る事となった。

近いところでは信友が奪った稲沢城で地団駄を踏み、知多半島北部に領地を持つ水野家は報を集め始め隣國の松平家は尾張への侵攻も目論み準備を進めていた。

そして、ここ駿河國今川館では當主今川義元とその師である太原雪斎が話し合っていた。容はもちろん那古野今川家についてである。

「まさか氏が當主の座を奪われようとは…」

義元は自の弟を思い頭を抱えていた。一方の太原雪斎は冷靜に分析していた。

「尾張については以前から調べていました。織田弾正忠家の現當主はなかなかのやり手だとか。今回の騒を利用したのでしょう」

「本來なら雪辱を晴らすべく尾張へと侵攻したいが…」

「その間には三河があり我々の後方には北條家が存在しています。これらを何とかしないと尾張へはとてもでありませんが進出できません」

現在今川家は苦境に立たされていた。甲斐の武田信虎との同盟に武田と敵対し、今川家と同盟を結んでいた北條家が怒り駿河國へと侵攻してきていたのである。當主となって日が淺かった義元は裏切る豪族に対処しながら戦線後退を余儀なくされ駿河國の東側を奪われていた。その為北條家を何とかしないと大軍を用いることが出來ずにいたのである。

「取り合えず今は様子を見る事しか出來ません。幸い弾正忠家も奪った土地の管理で忙しいでしょうからしばらくは平穏でしょう」

太原雪斎は義元にそう言うが彼は知らない。織田信秀の底力を。

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